2015年8月24日月曜日

筆者は「市場」が分かってない? 日経1面コラム「春秋」

コラムの筆者は市場の仕組みをあまり分かっていないのではないか--。24日の日経朝刊1面の「春秋」は、そんなことを思わせる内容だった。「新卒採用も労働市場の一部」との説明に異論はない。しかし、その後の記述には疑問が残る。記事の内容を見てみよう。


北海のビーチリゾート、スヘフェニンヘン(オランダ)
                  ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

「今後のご健闘をお祈りします」。そんな決まり文句から、大量に届く不採用通知が学生に「お祈りメール」と呼ばれ始めたのは遠い昔の話ではない。いまネットには学生向けに内定辞退の定型文が出回り、企業向けには「学生を辞退させないための内定者研修」も登場。企業と学生、片方が笑えばもう片方が泣く運命か

新卒採用も労働市場の一部だが、誰かが得をすればそのぶん誰かが損をするのは、市場のあるべき姿ではない。持てる価値を交換し、取引の参加者全員が幸せになるのが本来の市場だ。化かし合いめいた短期決戦よりも、互いの素顔を日常の中で理解する。そんな、お見合いより恋愛結婚に近い採用に変えられないものか


誰かが得をすればそのぶん誰かが損をするのは、市場のあるべき姿ではない」という説明が引っかかった。この考えに基づけば、日経平均先物などの先物市場は「あるべき姿」から外れていることになる。日経平均先物の売買で誰かが利益を得るには、誰かの損失が必須であり、市場全体としてはゼロサムゲームとなる。だからと言って「あるべき姿ではない」とは思えないが…。

労働市場はゼロサムゲームではないが、応募人数が採用数を上回る場合、誰かの採用決定は裏返せば誰かの不採用決定となる。優秀なAさんを巡って数社が採用を争っている場合、どこかの会社が笑えばどこかの会社が泣くことになる。しかし、それは「市場のあるべき姿ではない」のか。むしろ最適なマッチングを目指す「あるべき姿」とも言える。

化かし合いめいた短期決戦よりも、互いの素顔を日常の中で理解する。そんな、お見合いより恋愛結婚に近い採用に変えられないものか」と筆者は願っているようだ。それは悪い話ではないが、「取引の参加者全員が幸せになる」ことには結び付かないだろう。

「お見合いの後で交際を断られると不幸だが、失恋は辛くない」と多くの人が考えるならば別だが、恋愛結婚であっても、笑う人がいればその裏側に泣く人もいるはずだ。男女比のバランスが崩れた市場では男性と女性で「片方が笑えばもう片方が泣く運命」となる。これは見合い中心でも恋愛中心でも同じだろう。

新卒の就職活動が今のままで良いとは言わないが、「春秋」の嘆きに意味は感じられなかった。


※記事の評価はC(平均的)。

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