2015年8月14日金曜日

物足りない日経 岩本貴子記者の「真相深層~コメ先物」

一言で言えば「物足りない」。13日の日経朝刊総合1面「真相深層~大阪堂島商取、農協参加へ『待ち』に徹す  コメ先物の試験上場継続 反発弱まり出方見極め」はこれまでの経緯をなぞった部分が多く「真相深層」というタイトルに負けている。不十分な説明も目立つ。問題点を列挙してみよう。


◎「不認可になると再申請は難しい」?

【日経の記事】
デンハーグ(オランダ)の平和宮(国際司法裁判所)
                  ※写真と本文は無関係です

国内商品取引所が新規に取引品目を上場する場合、まず監督官庁に期間限定の試験上場を申請する。監督官庁は先物市場の開設で現物取引に影響が出ていないか、安定した取引ができるかを見極める。問題がなければ、取引所の申請を受けて本上場が認可される。一度不認可となると、事実上再度申請するのは難しくなる

(中略)

05年12月、同商取(当時は関西商品取引所)は東京穀物商品取引所とともにコメ先物の上場を初めて申請した。この直後、両商取に全国の農協からファクスなどで抗議が殺到した。「主食のコメを投機の対象にするな」などと書かれ、組織的な反対行動が起きた。

JAグループの強い反発もあり、翌06年4月に農水省は「生産や流通に著しい影響を及ぼす」としてコメ先物の上場を不認可とした。先物市場への上場申請が不認可となったのは初めてだった。

両商取は11年に上場を再申請し、同年7月に試験上場が認められた。この時も全国農業業協同組合中央会(JA全中)が反発し、農協組織は取引に参加していない。市場が思うように拡大せず、東京穀物商品取引所が13年2月に解散する要因の一つとなった。


一度不認可となると、事実上再度申請するのは難しくなる」と書いてあるので、そういうものかと思って読み進めていくと「(06年に不認可になった後の)11年に上場を再申請し、同年7月に試験上場が認められた」との記述が出てくる。これだと「最初の方の説明は何だったの?」との疑問を読者に抱かせてしまう。「コメの場合、2度目の申請で試験上場に至っているので、次に不認可となれば再申請は難しい」との趣旨かもしれない。だとしたら、それが分かるように書くべきだ。


◎不自然な文

【日経の記事】

本上場の申請に慎重になっているのは、コメ先物の上場を巡り、JAから反対されてきたことが背景だ。JAグループは13年産の国内コメ生産量で約45%の流通を担う。


本上場の申請に慎重になっているのは、コメ先物の上場を巡り、JAから反対されてきたことが背景だ」という文に不自然さを感じる。理由はうまく説明できないが、例えば「本上場の申請に慎重になっている背景には、コメ先物の上場を巡り、JAから反対されてきたことがある」とした方がしっくり来る。


◎なぜ説明なし?

【日経の記事】

農協の反発は弱まっているようにも見える。7月31日、農水省は食料・農業・農村政策審議会の会合で、試験上場の再延長申請について説明したが、JAの委員から反対意見はなかった。13年の同じ会合で反対が表明されたのとは対照的だ。

全国の農協を束ねるJA全中のトップ交代に注目が集まる。11年8月の就任以来、一貫してコメ先物に反対していた万歳章会長の後任に、奥野長衛氏が11日に就任した


コメ先物反対派の会長の後任となった奥野長衛氏が反対派なのか賛成派なのか、あるいは中間派なのか何の説明もない。これは記事を構成する要素として必須だろう。奥野氏の考えが不明ならば、それを読者に伝えるべきだ。「不十分な説明で読者を怒らせようとしているのか」と思わせる書き方だ。


◎JAが容認しないと生産者は取引に参加できない?

【日経の記事】

米国では穀物などの生産者の4割が先物市場を利用しているという。相場が上昇すると農家が手持ちの在庫を売ることも珍しくない。政府は18年にコメの生産調整(減反)をやめる方針を打ち出している。JAが先物を容認すれば、日本でも生産者が先物市場でコメを売ることができる


この説明は腑に落ちなかった。常識的に考えれば、生産者も先物市場での売買は可能なはずだ。「JAが全てのコメ生産者に先物市場での取引を禁止できる」というのならば話は別だが…。JAを通さないで流通大手と直接取引する大規模生産者に対し、JAが「先物市場を利用するな」と命令できるだろうか。「JAグループは13年産の国内コメ生産量で約45%の流通を担う」らしいが、逆に言えば55%の流通はJAを通していないことになる。この程度のシェアで全生産者への強い影響力行使が可能ならば、なぜそうなるのか記事中で説明すべきだ。


◎ぼんやりした結論

【日経の記事】

JAはコメ先物への反対より環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉への対応を優先しているとの見方もある。新体制となるJA全中は農家や農協が先物に参加するのを認めるのか。農水省は3度目の試験上場の延長を今後認めない方針。本上場申請に踏み切らなかった大阪堂島商取は、JAや生産者を取り込みたい考えだ。


繰り返し訴えていることだが、「真相深層」のような囲み記事は、結論に強い説得力を持たせるように書いてほしい。言い換えると、記事を書く際には「どういう結びにしたいか」を第一に考えるべきだ。今回の記事の結びは「本上場申請に踏み切らなかった大阪堂島商取は、JAや生産者を取り込みたい考えだ」。これが岩本貴子記者の最も訴えたかったことなのか。「(市場参加者として)JAや生産者を取り込みたい」というのは、当たり前すぎる。

JAや生産者を取り込むために何をすべきなのか。そもそも取り込みは可能なのか。記事中で提示してきた材料を基に、岩本記者だからこそ書ける結論へと導いてほしい。そういう視点を持ちつつ改めて最終段落を読んでみると、いかに「ぼんやりした」結論なのか分かるはずだ。


※記事の評価はD(問題あり)。岩本貴子記者の評価も暫定でDとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿