2015年8月3日月曜日

看板に偽りあり 東洋経済「アップルミュージックの深層」

東洋経済8月8-15日号の巻頭特集「アップルミュージックの深層 音楽は誰のものか」は悪くない記事だが、看板に偽りがある。アップルミュージックに関して詳細に分析しているわけではないし、「音楽は誰のものか」についても、まともに論じていない。記事の内容に沿うならば「日本で根付くか 音楽聴き放題サービス」といったタイトルが合っている。記事の作り手としては「そんな小さな問題を論じたいわけではない」と言いたいかもしれない。それならば、中身を見直すべきだ。

オランダのアムステルダム  ※写真と本文は無関係です
記事は「1日にして、4兆円が蒸発した」という書き出しで始まる。iPhoneの販売台数が予想を下回ったことを受けてアップルの株価が急落したと伝え、同社の成長神話が続くためには音楽が重要だと訴える。そして、音楽分野での新サービスとしてアップルミュージックに言及する。

世界の音楽市場全体の動きに触れた後、「これからアップルミュージックの深層に迫るのか」と思わせるが、話は「9.99ドルの定額で3000万曲が聴き放題」のスポティファイに移っていく。同社に関する説明が終わると、今度は「アップルミュージックの上陸を迎え撃つように、日本では2つの定額ストリーミング配信が相次いで立ち上がった」と日本勢の動向に焦点を当てる。そこではエイベックスとソニーの対応を中心に話が進み、結局はそのまま記事は結びに至ってしまう。

アップルミュージックについては「強みと弱みは何なのか」「日本で根付きそうなのか」といった誰でも思い付きそうな分析さえしていない。「深層」と言われると、もっと深い何かを描き出すのかと期待してしまうが、浅い部分さえ掘り下げていないのだから、深層へ届くはずもない。

特集に関して、他にもいくつか注文を付けておきたい。


◎日本と海外は何が違う

世界58ヵ国に有料会員2000万人、無料会員5500万人を抱える」スポティファイについて「3年前に日本法人を設立しながら、いまだにサービスを開始できていない最大の要因が、このフリーアムだ」と書いている。しかし「有料化の呼び水として無料のサービスを提供するフリーアム・モデル」が海外の多くの国では事業展開の障害とはならないのに、日本ではなぜサービス開始を妨げるのか、記事には説明がない。

しかも、記事の最後の方には「スポティファイも日本でのサービス開始に向けカウントダウン状態にあるとみられる」との記述がある。フリーアムの問題があって事業開始が難しかったはずなのに、なぜここにきて「サービス開始に向けカウントダウン状態」となっているのかも解説がない。「まだ複数のレコード会社が楽曲提供に応じていない」との記述から、この辺りの問題が絡んでいるのだろうとは推測できるが、想像を膨らませるにも情報が足りない。筆者にも詳しい事情は分からないのかもしれないが、それならそう書いてほしい。


◎安易過ぎる結び

分析記事を書くときは、常に結論を意識してほしい。「何が言いたいのか」がブレては、いい記事にはなりにくい。結論部分で何を書くのか決めてから、その結論に説得力を持たせるために言葉を紡いでいくやり方を記者には薦めたい。今回の記事の結びは「欧米に遅れて始まったストリーミング時代。展開から目が離せない」。あまりに安易だ。

「景気減速が続く中国経済。展開から目が離せない」「利上げへの地ならしを進めるFRB。動向から目が離せない」「お家騒動が勃発したロッテグループ。展開から目が離せない」--。記事でわざわざ取り上げる意味のあるテーマであれば、大抵は「展開から目が離せない」と結べる。だからと言って、「記事の最後はこれでいいや」と安易に妥協すべきではない。「記事で自分は何を訴えたいのか」「自分だからこそ伝えられる主張は何なのか」に思いを巡らせ、それを結論として読者に伝えてほしい。


※記事の評価はC(平均的)。杉本りうこ、田邉佳介、前田佳子の各記者の評価も暫定でCとする。

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