2015年6月22日月曜日

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由

日経ビジネス6月22日号の「時事深層~迷走するテレビ事業 『きゃりー』はシャープを救うか」という記事を読んでいたら、筆者が大西康之編集委員となっていた。この記事自体は可もなく不可もなくと言ったところか。若い女性に支持される「きゃりーぱみゅぱみゅ」をテレビCMに起用しても、実際に高額なテレビを購入する上の年齢層には訴えないのではないかというのが話の柱だ。

ベルギーのブリュッセル南駅周辺
            ※写真と本文は無関係です
テレビCMのキャラクターが業績に与える影響など、今時それほど大きいとも思えないが、文句を付けるほどの問題ではない。ただ、「業界全体では、テレビ事業から撤退(もしくは大幅縮小)した企業から順に業績が回復している」との説明は気になった。

例えば、パイオニアがプラズマテレビの生産を終了したのは2009年で、パナソニックは2013年のようだ。ならばパイオニアの方が先に業績回復を果たしているはずだが、そもそも同社の業績は回復したと言えるだろうか。14年にはAV事業の売却も発表しているし、いまだ経営再建の途上というのが常識的な理解だろう。「順に業績が回復している」とする大西編集委員の説明には首を傾げてしまう。

今回の記事の評価はC(平均的)だが、大西編集委員の評価はF(根本的な欠陥あり)としたい。もちろん今回の記事だけに基づく評価ではない。なぜF評価なのか。それは大西氏が日経の編集委員だった2012年まで遡る。そう言えば、F評価の根拠となる記事もシャープに関するものだった。

大西康之編集委員のF評価の根拠となっているのが、2012年5月21日付の日経朝刊総合・政治面に掲載された「迫真 危機の電子立国~シャープの決断(1)」という記事だ。その中で大西編集委員はシャープと鴻海精密工業(台湾)の提携に触れて「今年、創業100年を迎えるシャープが、日本の電機大手として初めて国際提携に踏み込んだ瞬間である」と描写した。

しかし、これは明らかな誤りだ。2012年より前にソニーとサムスンは液晶パネル事業で提携していた。この提携に関して「日本の電機大手による国際提携とは言えない」と主張するのは難しい。「本体に出資する提携ではないと、国際提携とは呼ばない」という無理のある前提を置いたとしても、NECがレノボに出資した実績が既にあったので、「シャープの件が国内電機大手で初の国際提携」との説明は成り立たない。

22日付の(2)でも大西編集委員はシャープと鴻海の提携について「日本の電機産業として初めてとなる国際資本提携」と説明している。ここでは「大手」とも限定していない。大手以外も含めれば、日本の電機メーカーが出資を受け入れた事例は珍しくない。どう考えても、記事の説明は誤りなのだ。

記事を担当した藤賀三雄氏(当時は産業部次長、現在は日経産業新聞編集長)と大西編集委員にメールを送り、記事の説明は誤りではないかと問い合わせた。しばらくして藤賀氏から回答が届いた。その内容は以下のような驚くべきものだった。


【藤賀氏からの回答】

日本の電機大手が海外企業と様々な事業提携をしているのはご指摘の通りです。シャープの場合は鴻海精密工業という台湾企業が、事実上の筆頭株主となるだけでなく、液晶パネルの最先端の技術が詰まった工場にシャープと同率で出資するという内容を含む資本業務提携です。原稿でも書いたとおり、業務提携の内容も白物家電を含めた広範なものになる可能性があります。これまでの電機メーカーの個別の事業分野に限定した提携や合弁事業とは一線を画す提携という意味で、初の国際提携と書いたものです。

出稿部としては間違いとは判断していません。連絡が遅くなって申し訳ありません。

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これに納得できるはずがない。以下の内容で反論した。

【藤賀氏・大西氏に送ったメール(2012年)】

回答ありがとうございます。ただ、とても納得できる内容ではありませんでした。

「日本の電機大手が海外企業と様々な提携をしている」と認めるのであれば、シャープの件を「日本の電機大手による初の海外提携」とするのは明らかに誤りです。私が日経を信じている素直な読者ならば「シャープの件が日本の電機大手による初の海外提携」と記事で読んだ時に、「今まで日本の電機大手は海外企業と全く提携していなかったんだな」と理解します。そう思うのは、読者の理解力に問題があるからですか? その後に「日本の電機大手が海外企業と様々な提携をしているのはご指摘の通りです」と言われれば、「記事は間違いだったんだ」と思うほかありません。

「これまでの電機メーカーの個別の事業分野に限定した提携や合弁事業とは一線を画す提携という意味で、初の国際提携と書いたものです」と説明していますが、そう伝えたいなら、それが伝わる書き方を選ぶべきです。「国際提携」という言葉には「個別の事業分野に限定した提携や合弁事業とは一線を画す提携」といった意味がありますか? 単に「国際提携」と書けば、「個別の事業分野に限定した提携や合弁事業とは一線を画す提携」と読者が受け取ると思いますか?

こんな説明で通用するのならば、いい加減なことがかなり自由に書けます。例えば「イチローは日本人初のメジャーリーガーである」と綴っても大丈夫でしょう。「もっと早くにメジャーで活躍した日本人選手がいた」と指摘されても、「様々なメジャー記録を打ち立てるなど、それまでの日本人メジャーリーガーとは一線を画す活躍をしたという意味で、『イチローは日本人初のメジャーリーガー』と書きました」と弁明すれば済むわけです。自分を一読者の立場に置いてみて、この説明に納得できますか?

「世の中の人は意外に日経を信じてるんだな」と思う時がよくあります。今回の記事でも「日経が『初の国際提携』って書いてるんだから、日本の電機大手でこれまで海外企業との提携はなかったんだな」と素直に信じた読者が山のようにいるでしょう。そういう読者に対して、私は申し訳ない気持ちでいっぱいです。別に訂正を出せとは言いません。反省して、今後に生かしてほしいのです。頂いた回答には、自省のかけらも感じられません。本当に、今回の件で記事の作り手として何も問題を感じませんか?

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当時、藤賀氏からも大西編集委員からも、このメールに対する反応はなかった。このまま黙殺してやり過ごそうとする意図を感じたので、さらにメールを送った。その最後の方の内容を紹介する。

【2012年に藤賀氏・大西氏へ送ったメール(一部)】

今回の件は日経の記事のレベル(作り手のレベルとも言えます)を示す良い事例なので、経緯を編集局内の多くの人間に知らせています。ある記者からは「分かりやすさや面白さを優先して正確さを犠牲にすることは私もあります。ただ、『弁解できないほど正しさを曲げる勇気』は私にはありません」という反応が返ってきました。その言葉を借りて言うならば、入社からの長い年月を経て、我々はついに「弁解できないほど正しさを曲げる勇気」を手に入れたのです。そしてこれこそが、報道に携わろうと日本経済新聞社の門を叩いた者として、最終的に辿り着いた悲しすぎる境地なのです。

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藤賀氏からも大西氏からもこのメールに返信はなかった。「2人は記事の作り手として越えてはならない一線を越えてしまった」と言うほかない。そもそも、電機を担当する編集委員なのに、シャープと鴻海の提携を「日本の電機大手として初めての国際提携」と認識していたのであれば、あまりにお粗末だ。それだけでも評価はE(大いに問題あり)とすべきだろう。しかも、その間違い指摘を握りつぶしてしまった。記者としての基礎的資質を欠くのは自明だ。

今回、日経ビジネスの記事を読んでも、最後に「大西康之編集委員」という署名を見ると、「書く資格のない人間が書いた記事か」と反射的に思ってしまう。きちんと検証記事でも載せて反省の姿勢を見せれば別だが、越えてはならない一線を越えてしまった大西編集委員が「記事を書く資格」を回復することは、もうないだろう。現在は日経産業新聞の編集長を務める藤賀三雄氏も含め、記事の作り手としての評価はF(根本的な欠陥あり)とする。


※日経関連でもう1人、「F」と評価しているのが太田泰彦氏だ。この理由については「日経 太田泰彦編集委員 F評価の理由」で述べたい。

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