2015年6月13日土曜日

「法の支配」を否定しちゃった日経の社説(2)

アントワープ(ベルギー)のグローテ・マルクト

※写真と本文は無関係です
13日付日経朝刊の社説「現実がもたらしてきた『憲法解釈の変遷』」の気になる点をさらに見ていこう。


【日経の社説】

冷戦後もPKO法、周辺事態法……状況の変化を踏まえ、政府はぎりぎりの線で憲法解釈をしてきた。そこに権力闘争である政治の駆け引きが絡まり合う。憲法解釈の変遷こそが戦後日本である。

そして今、日本を取り巻く安全保障環境はたしかに大きく変化している。北朝鮮はいつ暴発するか分からない

中国の台頭で米国を軸とする国際社会の力の均衡が崩れたことも見逃せない。尖閣諸島の領有権をめぐる摩擦にとどまらない。中国の海軍力の増強、南シナ海での埋め立ては日本のシーレーン(海上交通路)に影響を及ぼさないのだろうか。かりにあの空域で中国が防空識別圏を設定すればいったいどうなるのだろうか


上記のくだりに続いて「憲法は横に置いておいて、現実重視で方針を決めるべきだ」と解釈できる結論に至る。「今、日本を取り巻く安全保障環境はたしかに大きく変化している」から、法の支配を否定しても仕方がないと社説では示唆している。しかし、背景の説明自体に説得力がない。

日本を取り巻く環境が大きく変化している例として、記事ではまず北朝鮮を挙げている。しかし「北朝鮮はいつ暴発するか分からない」というのは、10年前でも20年前でも同じだろう。「以前は安全な存在だった北朝鮮がここ数年で急速に安全保障上の脅威となってきた」と言えるならば、記事の説明でもいいかしれないが、ちょっと考えにくい。

中国に関する説明も感心しない。まず「中国の海軍力の増強、南シナ海での埋め立ては日本のシーレーン(海上交通路)に影響を及ぼさないのだろうか。かりにあの空域で中国が防空識別圏を設定すればいったいどうなるのだろうか」と問いかけるだけで終わっているのが気になる。

読者の多くは防衛問題の専門家ではないので「シーレーンに影響を及ぼすかどうか」も「中国が防空識別圏を設定すればどうなるか」もよく分からないはずだ。こういう逃げたような書き方をせず、日経としてどう見ているのかを明示してほしかった。

素人判断だが、「埋め立て」も「防空識別圏」も、日本の経済活動への影響はほとんどなさそうだと思える。社説の筆者も似たような考えだとすると、「中国が防空識別圏を設定すれば、日本は海上輸送に大きな支障が出て、日常生活にも深刻な影響が避けられない」といった明確な見通しを示さないのも納得できる。

さらに言えば、南シナ海での埋め立てが日本のシーレーンへの脅威となり、その空域で中国が防空識別圏を設定して困った事態となった時に、憲法を横に置いて集団的自衛権の行使を認めれば、問題を解決できるのだろうか。安保法案が可決されれば、中国は南シナ海での埋め立てを中止するのだろうか。

常識的に考えれば、埋め立ての中止はないだろう。それでも、法の支配を否定してまで集団的自衛権の行使を認める必要があるのか。それとも「安保法案が成立すれば中国や北朝鮮がおとなしくなる」との確信が日経にはあるのだろうか。

「脅威があるんだから、違憲かどうかなんて議論しないで、現実に即して行動方針を定めればいい」と日経が主張したいのなら、それはそれで認める。ただ、今回の社説の内容では説得力が乏しすぎる。これからは法の支配を否定する側に立つのだから、その正当性をどう訴えるかは十分に検討してほしい。


※記事の評価はD。

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