2015年6月25日木曜日

「税金考」を考える(6) ~「農地の適正課税滞る」

24日の日経朝刊1面「農地の適正課税滞る」と5面「税金考~農地税制 経済成長の壁に」に関する指摘をさらに続ける。


◎耕作放棄地をどうやって判定する?
アムステルダム(オランダ)のサルファティ公園
     ※写真と本文は無関係です


耕作放棄地に関する日経の報道でそもそも疑問なのは、耕作放棄地をどうやって判定するかだ。

5面の記事では「放棄地は必ず農地から除外するなどの改革が必要になってきそうだ」と書いている。ビルを建てたり、舗装して駐車場にしたりすれば「農地だ」と主張するのは不可能だろう。しかし、耕作放棄地だとそうはいかない。一見して明らかな耕作放棄地だと思えても、所有者が「畑を休ませているだけだ。来年は耕作を再開する」と主張すれば、簡単には否定できない。「種をまいたけれど芽が出ない」と言い張ることもできそうだ。実際に土地を休ませたり、栽培に失敗したりしている農家もいるだろうから、色分けは容易ではない。

自分が耕作放棄地を持っていたら、農地として認めてもらうために、何か手のかからないものを栽培するかもしれない。ヒントとなるのが6月3日の「税金考(2)~貴族になりたい 放棄地でも評価額134分の1」 という記事だ。


【日経の記事】

千葉県南房総市。初夏の風にそよぐ竹林の音が心地良いが、すぐ隣に自宅を構える坂本寿成さん(73)には不愉快な雑音だ。「イノシシの親子が7匹でタケノコを食べに来る。帰りにうちの田んぼを荒らす」

かつてのトウモロコシ畑は数十年放置されたあげく、竹が生い茂った。「伐採してもらいたい」。坂本さんはこう思うが、持ち主は行方が分からない。

全国40万ヘクタールと滋賀県の面積に匹敵する耕作放棄地。千葉は県面積に占める放棄地が3.5%と最大だ。放置しておくのは「税金が安いから」(坂本さん)だ。


ここでは、竹林を取材班の判断で耕作放棄地と断定している。しかし、持ち主が「タケノコを採るために竹林を育てている」と主張したら、何を根拠に耕作放棄地と仕分けするのだろう。もちろん、細かく基準を決めれば判別も可能かもしれない。しかし、財政面の制約があって確認作業に人を割けない中で、簡単にできるとは思えない。日経は「放棄地は必ず農地から除外する」と言うが、仕分け方の妙案はあるのだろうか。少なくとも、今回の記事には何も書いていない。


◎新たな担い手が土地を確保できない?

耕作放棄地の税負担が軽い→農業の新たな担い手が農地を確保できない→大規模化が進まず、農業の競争力が高まらない--と日経は訴える。しかし、どう考えても理屈に合わない。1面の記事では以下のように書いている。

【日経の記事】

確認の結果、耕作放棄地が農地から平均評価額が農地の107倍の雑種地に変われば、持ち主は税負担増を避けようと売却する可能性が高まる。現況確認がおざなりなため耕作をやめた土地も農地として格安の税金で持ち続けられる。「農地の取引が進まず、新たな農業の担い手が農地を確保できずにあきらめてしまう悪循環が続いている」と農業に詳しいエムスクエア・ラボの加藤百合子社長は話す。

新たな農業の担い手が農地を確保できずにあきらめてしまう」のならば、地方で農業をやれば済む話だ。5面の記事によれば、地方には二束三文でも耕作放棄地を売りたい人がいるのだから、問題は解消する。残るのは「どうしても都市部で農業をやりたい」という人だけだ。しかし、都市部で土地を確保して農業をやるのが難しいことが、そんなに問題だろうか。

そもそも、「耕作放棄地が売りに出ないから農地を確保できない」というのも奇妙だ。借りれば済む話ではないのか。耕作放棄地の所有者にとっても、地代が入ってくるのだからメリットがある。期間を定めて契約期間終了後には確実に農地が戻ってくる貸し方もできるようなので、「一度貸したらなかなか戻ってこないのでは」と心配する必要もないだろう。日経の記事では、「十分な地代収入を得られる機会があっても、耕作放棄地の所有者が貸し出しに応じない理由」が理解できない。

まとめると、(1)地方に関しては税負担が今のままでも耕作放棄地を売りたい人はたくさんいる。だから、農業の大規模化や新規参入を税制が妨げているわけではない (2)都市部で転用に伴う大幅な値上がりを待っている所有者にとっては、税負担が多少増えても売りに出すのが合理的とは言えない (3)耕作放棄地かどうかを判断するのは難しいので、マンパワーが足りない中できちんと仕分けるのは困難だし費用がかさむ (3)今の制度の下でも耕作放棄地を貸し出した方が放置するより合理的なので、農業の担い手が土地を確保できない理由にはなりにくい--と言えそうだ。

この問題の専門家ではないので、見落としている点があるかもしれない。しかし、日経の記事からは「耕作放棄地への課税強化で農業の大規模化が進み競争力が高まる」といった未来は思い描けなかった。

結局、日経は何のために耕作放棄地への課税強化に執心しているのだろうか。

※記事の評価はD。今後は「やっぱり耕作放棄地への課税強化は必要だ」と思えるような記事を期待したい。

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