2021年10月26日火曜日

「接種のメリットの方が大きい」と読者を誤解させる日経 落合修平記者の罪

25日の日本経済新聞朝刊ニュースな科学面に載った「接種後、心筋炎の症例~ワクチンで発症率に差、若い男性多く」という記事は罪深い。筆者の落合修平記者はデータの分析力が欠けているのか。あるいは、あえてワクチンのリスクを小さく見せようとしているのか。いずれにしてもワクチン関連の記事を書かせてよい書き手ではない。

夕暮れ時の筑後川河川敷

問題点を具体的に見ていこう。

【日経の記事】

新型コロナウイルスワクチンの接種後、心筋炎とみられる症状がごくまれに出ることへの対応が国内外で相次ぐ。米モデルナ製で報告が多く、接種を一部制限した国もある。接種と心筋炎の因果関係は不明だが、コロナに感染した方が発症頻度は高い。専門家はリスクよりも接種のメリットの方が大きいという


◎大事な点を無視してない?

コロナに感染した方が発症頻度は高い」としても「リスクよりも接種のメリットの方が大きい」とは言えない。これに関しては後で詳しく論じたい。

続きを見ていく。


【日経の記事】

心筋炎は一般に、細菌やウイルスの感染によって起きる。胸の痛みや心不全の兆候、息切れなどが生じるが、1~2週間程度で回復する場合が多い。

米ファイザー製やモデルナ製のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンを接種した後、心筋炎や心臓の膜に炎症が起きる「心膜炎」とみられる症状がまれに出ることは以前から報告されていた。接種者が増え、より詳細な実態が見えてきた。

報告をみると、若い男性で心筋炎などの発症が比較的多い傾向がある。国内では10月3日までの報告によると、ファイザー製を2回接種した20代男性では100万回接種あたり10.7件、30代男性では同2.0件だった。一方、50代男性では同0.4件、60代男性では同1.0件にとどまる。男女差をみると、20代女性では同0.5件、30代女性では同0.8件といずれも同年代の男性の方が多く発症している。

モデルナ製の方がファイザー製よりも心筋炎の報告数は多い。モデルナ製の2回目接種後の報告は10代男性で100万回接種あたり43.2件、20代男性で同31.5件。それぞれファイザー製接種後の同2.9件、同10.7件を上回る。

海外でも心筋炎などの報告がある。米疾病対策センター(CDC)によると8月18日までの報告で、2回接種後から7日以内における発症頻度は、18~24歳男性ではモデルナ製で100万回接種あたり37.7件とファイザー製(同37.1件)と同程度だった。ただ25~29歳男性ではモデルナ製で同14.9件とファイザー製の同11.1件より多い。

北欧では心筋炎のリスクを踏まえ、モデルナ製の接種を制限する国がでている。スウェーデンは6日、30歳以下へのモデルナ製の使用を中断すると発表した。フィンランドも30歳未満の男性への接種の中断を表明している。

日本では15日、1回目にモデルナ製を接種した10~20代の男性が、2回目にファイザー製を選べるとの方針を厚生労働省が示した。同日に開かれた専門部会では、ファイザー製の接種を同年代の男性に推奨する案が諮られたが、合意には達しなかった。ワクチンに優劣があるとの誤った認識が広がる恐れを指摘する意見などが出たという


◎「誤った認識」?

ここでは「ワクチンに優劣があるとの誤った認識が広がる恐れを指摘する意見などが出たという」との記述が引っかかる。他の面で差がなく「心筋炎」のリスクに関して「モデルナ製」の方が「ファイザー製」より高いとすれば「ワクチンに優劣がある」と考えるのが自然だ。

専門部会」で出た「意見」を紹介しただけだと落合記者は言うかもしれないが、「ワクチンに優劣がある」と考えるのは「誤った認識」だと読者が誤解しかねない。

続きを見ていく。


【日経の記事】

mRNAワクチンの接種と心筋炎との因果関係や、モデルナ製の接種後の方が発症頻度が高い理由などはよく分かってないのが実態だ。専門家の間では免疫反応との関連などを指摘する声もあるが、今後の詳しい研究が待たれる。

ただ新型コロナに感染した場合、接種後よりも心筋炎などの症状がより多く報告されている。厚労省によると、感染して入院した国内の15~39歳男性では、100万人あたり834人と高い頻度で心筋炎などの疑いがある報告があった


◎なぜ「15~39歳男性」?

新型コロナに感染した場合」に関して「15~39歳男性」の数字だけを見せているのはなぜか。「モデルナ製の2回目接種後の報告は10代男性で100万回接種あたり43.2件」。これに対して「100万人あたり834人」という数字を見せれば「新型コロナに感染した場合」の方が圧倒的に人数が多いと読者は受け取るだろう。しかし比較対象が合っていないので、実のところは何とも言えない。

百歩譲って「10代男性」でも「100万人あたり834人」だとしよう。この場合「モデルナ製」であっても「心筋炎」になるリスクは相対的に小さいと評価して良いだろうか。

ここにも大きな落とし穴がある。ワクチンに関しては、接種すればその全員が接種に伴うリスクを負う。しかし接種を見送った人に関しては、全員が「新型コロナに感染」する訳ではない。ここが極めて重要だ。

しかも「100万人あたり834人」というのは「感染して入院した」人に限った話だ。仮に未接種の「10代男性」が「感染して入院」する可能性が1%だとしよう(かなり高めの数字だと思う)。この場合、未接種の「10代男性」の「心筋炎」リスクは「100万人あたり」で10人以下になる(感染しないで「心筋炎」になる可能性はほぼゼロと仮定)。

記事では「新型コロナに感染」したケースで「15~39歳男性」の数字を使っているので「10代男性」に限ったデータを使えば未接種の場合の「心筋炎」リスクはさらに小さくなるかもしれない。

そのデータと「モデルナ製の2回目接種後の報告は10代男性で100万回接種あたり43.2件」というデータを比較して「接種」の是非を判断すべきだ。しかし、そこを怠ったまま落合記者は以下のように書いてしまう。


【日経の記事】

接種後の心筋炎は多くが軽症だ。イスラエルで2020年12月~21年5月に約510万人を対象にした研究報告では、接種後に心筋炎または心筋炎と推定された136件のうち、129件は軽度の症状だった。佐賀大学医学部教授の野出孝一さんは「基本的には接種によって得られるメリットの方が大きい」と話す


◎メリットの方が小さそうだが…

まともなデータ比較ができていないのに「基本的には接種によって得られるメリットの方が大きい」という「佐賀大学医学部教授」のコメントを紹介してしまう。

接種後に心筋炎または心筋炎と推定された136件のうち、129件は軽度の症状だった」というデータも使っているが、これも未接種で「心筋炎」になった場合との比較がないので何とも言えない。

きちんとした検証をせずに「メリットの方が大きい」と読者に思わせてしまう書き方は、意図的にやっているのならば読者への背信行為だ。

若者が「接種後」に高熱が出たといった報告はごく当たり前にある。データを持っている訳ではないが、新型コロナウイルスに感染して高熱に苦しんだ若者より、ワクチンの影響で高熱を出した若者の方が圧倒的に多いだろう。

若者は感染してもほとんどが無症状か軽症で済む。そうした点も考慮すると「メリットの方が大きい」とは考えにくい。「心筋炎」に限って見ても「メリットの方が大きい」と判断できる材料を落合記者は提示できていない。

なのに若者をワクチン接種へと誘導していくのか。その罪はあまりに重い。


※今回取り上げた記事「接種後、心筋炎の症例~ワクチンで発症率に差、若い男性多く

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211025&ng=DGKKZO76888960S1A021C2TJN000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。落合修平記者への評価は暫定でEとする。

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