13日の日本経済新聞朝刊1面に生活情報グループ長の武類祥子氏が書いた「新政権に問う(6) 女性活躍をやり直そう」という記事に異論を述べてみたい。個人的には「女性活躍は十分にできている。やり直す必要はないのでは」と見ている。
コスモスパーク北野 |
記事を順に見ていこう。
【日経の記事】
女性活躍は忘れられたのか。
10月8日、岸田文雄首相の所信表明演説。安倍晋三・菅義偉両政権で繰り返された「女性が輝く社会」というキャッチフレーズが消えた。岸田首相の言葉を拾う限り、このテーマへの熱量に乏しい。担当相の野田聖子氏に丸投げするつもりなら、リーダーとしての自覚を疑う。
◎既に輝いているのでは?
「『女性が輝く社会』というキャッチフレーズが消えた」と武類氏は嘆くが「女性が輝く社会」が実現しているからと捉えてはどうか。日本の女性は十分に輝いている。日経の1面で堂々と主張を展開し「生活情報グループ長」という肩書を持つ武類氏もその1人だ。武類氏には周りを見回してほしい。日経の「女性」社員は「輝く」機会を与えられず無為に日々を過ごしているのか。
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【日経の記事】
新型コロナウイルス禍は出生数を下押しした。第一生命経済研究所の星野卓也氏は2021年の合計特殊出生率を2020年より0.05ポイント低い1.29、出生数を同4万人減の80万人前後と試算する。ダウントレンドが続けば、2047年に総人口1億人割れという最も悲観的な人口推計の現実味が増す。
人口の51%を占める女性の力をどう生かすか。これからの日本の根底に関わる課題だ。にもかかわらず、安倍政権から進めてきた女性活躍推進は看板倒れだったことが新型コロナ禍で露呈した。
◎少子化と「女性活躍」の関係は?
「女性活躍推進」と「出生数」の減少にどういう関係があるのか、上記の説明ではよく分からない。「子供を産むこと=女性活躍」との認識なのか。「子供を産んでいない女性は活躍できていない」とは思えないが…。
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【日経の記事】
シーセッション。彼女(she)と景気後退(recession)を掛け合わせて、女性の雇用悪化を表す造語だ。飲食や宿泊などで女性が多く働いていた分、新型コロナ禍の営業縮小で打撃を受けた。100万人の女性が実質的な失業状態に陥り、保育所の登園自粛要請や小学校の一斉休校で多くの女性が育児か仕事かの二者択一を迫られた。
新型コロナ禍からの日本再建に、傷んだ女性雇用の立て直しの視点がなければ、女性の社会進出が台無しになる。
◎女性の雇用はそんなに大変?
昨年春には確かに「女性の雇用悪化」が見られたが、今はそんなに大変でもないだろう。1日付で日経電子版に載った「8月の完全失業率、前月比横ばい 緊急事態宣言下でも底堅く推移」という記事では「完全失業率を男女別にみると、男性が前月から横ばいの3.1%、女性は0.1ポイント上昇の2.5%」と伝えている。男女とも水準は低いし、女性の失業率は男性を下回っている。なのに「傷んだ女性雇用の立て直しの視点がなければ、女性の社会進出が台無しになる」と危機感を持つべきなのか。
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【日経の記事】
世界に目を転じれば、女性を社会や経済の中枢に据える動きが加速する。多様性がイノベーションの源泉になるからだ。メルケル、イエレン、ラガルド……政治や経済のリーダー各氏が女性であるのは普通の光景だ。
◎エビデンスはある?
「世界に目を転じれば、女性を社会や経済の中枢に据える動きが加速する」と武類氏は言うが具体的なデータは見当たらない。何を根拠に「加速」と判断したのか。
「多様性がイノベーションの源泉になる」という話は「女性活躍」絡みの記事でよく出てくるが、これも具体的な根拠は見当たらない。「イノベーション」の範囲を明確化するのがまず困難だし、できたとしても「多様性」との因果関係を証明するのはさらに難しいだろう。
仮に「多様性がイノベーションの源泉になる」としても、それが性別の「多様性」にも当てはまるのかという問題もある。例えば「メルケル」氏は長年ドイツの首相を務めてきたが、その間のドイツが「イノベーション」の創出力で米国などを圧倒していた印象はない。
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【日経の記事】
日本の状況は厳しい。上場企業の女性役員比率は7.4%にとどまり女性役員がゼロの企業は43%もある。政治の世界はさらに遅れが目立ち、岸田政権の女性閣僚比率もG7で最低だ。
女性活躍の通知表ともいえるジェンダーギャップ指数で日本は先進国で最も低い120位にいる。どうしたら女性を働かせやすいかではなく、どうしたら女性が働きやすいかを考えるべきだ。企業目線から働き手目線に制度や仕組みを180度ひっくり返し、利益を出していく。そんな発想の大転換が必要だ。
◎勝手に「通知表」にされても…
まず「ジェンダーギャップ指数」を「女性活躍の通知表」と見るのがおかしい。国会議員や管理職の女性比率を上げると「ジェンダーギャップ指数」は上向く。しかし国会議員や管理職として働く女性だけが「活躍」している訳ではない。
子育てに追われる専業主婦も、非正規職員や平社員として働く女性も、社会の中で立派に「活躍」している。武類氏も同じ考えならば「ジェンダーギャップ指数」を「女性活躍の通知表」と見なすのが間違いだと分かるはずだ。
「いや。立派な通知表になる」と見るのならば、武類氏は「活躍」をどう定義しているのか。「専業主婦や女性平社員は活躍できていない」との認識なのか。
ついでに言うと「企業目線から働き手目線に制度や仕組みを180度ひっくり返し、利益を出していく。そんな発想の大転換が必要だ」という話は抽象的でよく分からない。
「どうしたら女性を働かせやすいか」という「企業目線」で企業内託児所の整備を進めた企業があるとしよう。この企業が「働き手目線に制度や仕組みを180度ひっくり返し」たいと考えた場合、企業内託児所はどうすべきなのか。
「180度ひっくり返し」ていくなら廃止だろうか。それが「どうしたら女性が働きやすいか」につながるのか。「企業目線」と「働き手目線」を完全に対立する「目線」と武類氏は捉えているようだが、違うのではないか。
記事の終盤を見ていく。
【日経の記事】
一度職を離れても、機会が整えばまた戻れる。女性に偏った家事・育児負担を改善するため、男性の家庭参画を進める。低賃金、不安定な待遇に偏った女性の雇用を成長産業へ移行させる策を練る。望むライフプランにあわせた社会の居場所をつくる。どれも古い社会・企業慣行の抜本見直しが必要で、政府の強力な後押しと首相のコミットメントが欠かせない。
女性活躍を一からやり直す。新政権に覚悟がなければ何も変わらない。
◎「政府の強力な後押し」に頼るな!
「一度職を離れても、機会が整えばまた戻れる」環境は既にあるのではないか。
「女性に偏った家事・育児負担を改善するため、男性の家庭参画を進める」のに「政府の強力な後押し」が必要なのか。各家庭でやれば済む話だ。そんなことにまで「政府の強力な後押し」を求めるのか。
そもそも「女性活躍」が大事ならば「女性に偏った家事・育児負担を改善する」必要はない。「家事・育児」分野での「女性活躍」が後退してしまう。
「低賃金、不安定な待遇に偏った女性の雇用を成長産業へ移行させる策を練る」という話もピンと来ない。まず「成長産業」がそんなにあるのか。あるとして、そこは「低賃金、不安定な待遇」とは無縁なのか。
また「女性」が「成長産業へ移行」した後の「低賃金、不安定な待遇」の仕事は誰が引き受けるのか。男性なのか。その場合、男性は「成長産業へ移行」しなくていいのか。
「望むライフプランにあわせた社会の居場所をつくる」という話も、これまた抽象的だ。「社会の居場所」は、あると言えば既にある。
こうした課題について「どれも古い社会・企業慣行の抜本見直しが必要」と武類氏は言うが、そんなに難しい話なのか。例えば「成長産業」に属する企業が好待遇で社員を募集すれば「低賃金、不安定な待遇」に不満を持つ女性はどんどん転職していくだろう。「低賃金、不安定な待遇」の職場に縛り付けておく方が困難だ。
「政府の強力な後押し」も「古い社会・企業慣行の抜本見直し」も必要ない。市場原理に任せておけば自然と「成長産業へ移行」していく。
「女性活躍を一からやり直す」必要はない。さらに「女性活躍」を進めるにしても「政府の強力な後押し」に頼るのは感心しない。「活躍」への意欲と能力が女性にあるのならば、勝手に「活躍」してしまうはずだ。
既に立派に「活躍」してきた実績もある。武類氏には「もっと日本女性を信頼しては」と助言したい。
※今回取り上げた記事「新政権に問う(6) 女性活躍をやり直そう」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211013&ng=DGKKZO76577970T11C21A0MM8000
※記事の評価はC(平均的)。武類祥子氏への評価はCを維持する。武類氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「日経 武類祥子次長『女性活躍はウソですか』への疑問」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_79.html
おばあさん以外は「脇役」? 日経 武類祥子生活情報部長に異議https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_8.html
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