夕暮れ時の筑後川 |
「企業は敵対的買収を恐れるあまり買収防衛策や株の持ち合いに走るべきではない。15年に始まった企業統治改革によって、買収防衛策を廃止したり持ち合いを解消したりする企業が増えてきた。これが海外投資家からの評価にもつながっている面もあり、この流れを逆戻りさせてはならない」
こう主張しているのであれば、新たな「持ち合い」には批判的であるはずだ。しかし、そうとも限らない。例えば3月24日付の「トヨタといすゞが再び資本提携、400億円規模 新会社も」という記事では「トヨタ自動車といすゞ自動車は24日、相互出資すると発表した」と書いているだけで「持ち合い」という言葉をそもそも用いていない。
そして4月6日の朝刊総合1面に載った「トヨタ・いすゞが挑む課題」という社説では「トヨタ自動車といすゞ自動車が資本提携に踏み切った。トヨタ傘下の日野自動車も加わり、環境対策や疲弊する物流の改善に乗り出すという。いわば社会課題の解決が共通目標といえるだけに、早期に協力の成果を出してほしい」と持ち合いを伴う「資本提携」を前向きに取り上げている。
社説を最後まで読んでも「持ち合い」はもちろん「相互出資」という言葉すら出てこない。「持ち合いを解消」する「流れを逆戻りさせてはならない」と訴えているのに、なぜ「トヨタ自動車といすゞ自動車」の新たな「持ち合い」を問題視しないのか。
事情は想像できる。「持ち合い」は解消に向かうべきというのが日経のスタンスだ。しかし有力企業であるトヨタを批判して関係を悪化させる事態は避けたい。そこでニュース記事では「持ち合い」と言わず「相互出資」と言い換える。
社説では「持ち合い」「相互出資」には触れずに「自動車産業だけではなく、日本の製造業は難しい社会課題にどう向き合うかが問われている。トヨタといすゞの連携は、様々な取り組みの試金石の一つとなる」などと書いて逃げたのだろう。
「そんな腰抜けメディアではない」と日経の論説委員らが思うのならば「トヨタ」による新たな「持ち合い」の動きの是非を論じるべきだ。
批判しろとは言わない。「良い持ち合いもある。トヨタの場合はそれ」という話ならば「持ち合いを解消」する「流れを逆戻りさせてはならない」という主張にも修正が要る。良い「持ち合い」を解消する必要はない。むしろ増えていいはずだ。
※今回取り上げた社説「トヨタ・いすゞが挑む課題」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210406&ng=DGKKZO70717690V00C21A4EA1000
※社説の評価はD(問題あり)
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