物事を片側からしか見ていない記事と言えばいいのだろうか。13日の日本経済新聞朝刊 投資情報面にシニアライターの山下真一氏が書いた「一目均衡~環境・資源需給のジレンマ」という記事には不満が残った。その一部を見ていこう。
夕暮れ時の久留米市 |
【日経の記事】
石油や金属など資源の生産拡大を最優先してきた企業が、少しずつ再生エネや環境対策重視へと軸足を移している。鉱山会社の年次報告書は軒並み、生産活動への取り組みより、排出ガス削減への努力を前面に出し始めた。地球規模の環境対策には、こうした動きは大きな後押しではあるが、一方で資源生産が後退するといずれ原油や金属の需給が逼迫するのではないか、との懸念を生んでいる。
商品市場はいち早く資源の需給に警鐘を鳴らし始めた。昨年後半から海外市場で銅やニッケル相場が急上昇している。資源の生産が縮小する中、銅やニッケルを多く使う電気自動車(EV)の増産が続くと、いずれ不足が顕在化せざるをえないというジレンマを市場は意識している。
資源会社の転換は、ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視する投資家や金融機関から投資や融資の見送りという厳しいカードを切られたことが一因だ。「ここ数年、石炭会社は資金調達の手段が減っており、今後さらに状況は悪化するだろう」。米石炭大手の最高経営責任者(CEO)は最近、収支報告の席で苦しい台所事情を明かした。
社債を発行する資源企業の場合、購入する投資家が減って、高い金利を払わざるをえなくなる。結果的に資金調達のコストが増え予算が制約されるため、新しい鉱山の開発縮小や、既存の鉱山の売却を迫られる。
◎市場の調整機能が働きそうな…
上記のくだりで気になるのは市場の調整機能を考慮していないことだ。
「銅やニッケル」の不足が顕著になって価格が上昇すれば、まず既存の「鉱山会社」の採算が良くなる。「社債を発行する資源企業の場合、購入する投資家が減って、高い金利を払わざるをえなくなる」としても、価格上昇による恩恵が上回れば、資金的な問題はなくなる。資金もあって市場環境も悪くないのに「新しい鉱山の開発縮小」に動くだろうか。
既存の「鉱山会社」が「ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視する投資家や金融機関」の目を気にして「新しい鉱山の開発縮小」を止めないとしても、新規参入は期待できる。
「銅やニッケル」の不足によって「電気自動車(EV)の増産」が難しくなっている状況であれば、新規参入は歓迎されそうだ。そうした動きが活発になれば一時的に「不足が顕在化」しても、徐々に解消に向かう。それが市場の調整機能だ。
「新しい鉱山の開発」を禁止したりといった規制が加わるのならば話は別だ。そうではないのならば市場の調整機能に期待していい。
「資源生産量の減少が続くと、その分を別の資源で補うか、消費量を減らすしかない。代替エネを使う発電のコストを下げ一気にシフトするか、金属利用ではリサイクルを強力に進めるか、より少ない資源でいまと同じレベルの製品を作るか…。いずれも技術革新がカギを握る」と山下氏は続けている。
しかし、需要があるのに「資源生産量の減少」が一方的に進むと見るのは無理がある。「技術革新がカギを握る」面もあるだろうが、基本的には市場が「資源の需給」バランスを整えてくれると見るべきだ。「それだと当たり前すぎて記事として成立しない」とは感じるだろうが…。
※今回取り上げた記事「一目均衡~環境・資源需給のジレンマ」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210413&ng=DGKKZO70925730S1A410C2DTA000
※記事の評価はD(問題あり)。山下真一氏への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。山下氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経 山下真一氏の「一目均衡~ESGマネー導く条件」に感じた「ないものねだり」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/esg.html
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