14日の日本経済新聞朝刊 経済教室面に載った「金融政策点検の論点(上) 緩和継続の約束、一段と重く」という記事は説得力がなかった。記事の3分の2ほどをダラダラとこれまでの経緯の説明に費やしたのも残念だが、何より「緩和継続の約束、一段と重く」と言える根拠が弱い。問題のくだりを見ていこう。
夕暮れ時の熊本港 |
【日経の記事】
では今後「量」の面で求められるのは、必要額の買い入れだけだろうか。2%目標の実現にはなお時間がかかるなか、枠組み自体を修正すべきなのだろうか。
「量」に関して日銀は個々の資産買い入れに加え、資金供給量全体を将来にわたり拡大し続けるとの「先行き指針」を公表しており、それは引き続き緩和効果を発揮するとみられる。16年9月の政策修正時から、日銀は「マネタリーベースの拡大方針を、物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで継続する」という強いコミットメント(約束)を表明している。
量の拡大方針が2%目標にリンクしているため、目標達成に時間がかかるほど、将来の資金供給量や資産残高は累増していくと予想される。その予想は現在の金融環境をより緩和的にし、また日銀は簡単に利上げに転じないとのシグナルにもなるだろう。
図2は為替レートと株価の動きを示す。17年以降、様々なショックが発生し長期国債の買い入れペースが鈍化するなかでも、過度な円高には振れず緩和的な金融環境が維持されてきた。量拡大への強いコミットメントが底流で寄与してきたと推察され、今後もその役割が一層期待される。
この議論は、2%物価目標という枠組みの修正には極めて慎重にならざるを得ないことを意味する。2%目標を仮に引き下げれば、そこにひもづいて形成されている人々の緩和予想は大幅に修正され、甚大な引き締めインパクトとなろう。同様に出口戦略の議論も将来の引き締め計画のアナウンスとなることから、慎重な検討が求められる。現代の非伝統的金融政策では、将来の政策運営に関する情報発信はそれ自体が政策手段であり、人々の緩和予想を通じ経済に影響を及ぼすことを忘れてはならない。
副作用に配慮しつつ緩和の長期化を可能にするための工夫や見直しは、今後も模索が続くと予想される。超低金利の維持、必要に応じて実施される資産買い入れ、そして将来の緩和継続への固い約束は、目立たなくとも、日本経済にとって重要な支えであり続ける。
◎色々と分からないことが…
「17年以降、様々なショックが発生し長期国債の買い入れペースが鈍化するなかでも、過度な円高には振れず」と書いているが、まず「過度な円高」の水準が分からない。「過度」かどうかを判断する基準も不明だ。
筆者で神戸大学教授の宮尾龍蔵氏は「量拡大への強いコミットメントが底流で寄与してきたと推察」しているが、「推察」の根拠は示していない。「量拡大への強いコミットメント」の下で「過度な円高」が起きなかったとしても、そこに因果関係を安易に見出すのは危険だ。因果関係を「推察」しているのだから、何らかの根拠は欲しい。
「とにかく自分はそう信じている」といったレベルの話ならば、それをベースにした主張にはほとんど意味がなくなる。
「将来の政策運営に関する情報発信はそれ自体が政策手段であり、人々の緩和予想を通じ経済に影響を及ぼすことを忘れてはならない」と宮尾氏は言う。ならば、日銀が物価目標2%の達成に強い意思を示し、異次元緩和と言われるほどの策を打ったのに「2%物価目標」はなぜいつまで経っても達成されないのか。色々と言い訳はあるだろうが、「2%目標を仮に引き下げ」ても「人々」への影響は小さいと見る方が自然だ。
「円高」は悪いこととの前提も引っかかる。日本経済にとって円高が及ぼすマイナスの影響は以前より小さくなっているとも言われる。
インフレ率が為替相場に影響を与えるのは分かる。しかし日銀の「物価目標」に実際のインフレ率を動かす力は感じられない。「2%物価目標」を取り下げたところで、実際のインフレ率はゼロ%近辺の状況が続くだろう。
突然取り下げればサプライズに反応して一時的には円高に動くかもしれない。だが、実際の物価動向への影響が小さいと確認されれば、現実のインフレ率を反映した為替相場に戻ってくるのではないか。
この話は効かない薬を止める時と似ている。「この薬を飲んだらあっと言う間に症状が改善します」と言われて飲み続けたが一向に良くならない。「もうやめた方がいいのでは」と医者に相談すると次のように言われる。
「この間に症状が劇的には悪くなってないでしょ。これは薬の効果だと考えられます。これからもこの薬はあなたをしっかり支えてくれますよ。飲み続けましょう」
医者の言っていることが間違いとは立証できない。だが、少なくとも最初の話とは違う。
日銀の「物価目標」に関しては、実験してみればいい。宮尾氏は「物価目標」に大きな力があると信じているはずだ。「物価目標」を取り下げて「過度な円高」になった場合は「物価目標」を復活させれば済む。もっと円安にしたい場合は「物価目標」を3%とか4%にすればいい。
これで為替相場が動くならば、ものすごく簡単な為替介入の道具を日銀は手に入れたことになる。そんな簡単なものではないと思うが…。とにかく、やってみれば答えは出る。簡単に引き返せるのだから、ぜひやってほしい。
※今回取り上げた記事「経済教室金融政策点検の論点(上) 緩和継続の約束、一段と重く」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210414&ng=DGKKZO70946700T10C21A4KE8000
※記事の評価はD(問題あり)
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