週刊東洋経済4月17日号に載った「ニュースの核心~新型コロナのゼロリスク志向と思考停止」という記事は評価できる。筆者は本誌コラム二ストの大崎明子氏。小さなリスクへの過大な対応が大きなマイナスを生んでいる現状を嘆く内容だ。当たり前のことを書いているだけとも言えるが、主要メディアに属する人物がこうした声を上げ始めたことは注目に値する。
夕暮れ時の耳納連山 |
記事の一部を見てみよう。
【東洋経済の記事】
2020年はパンデミック(感染症の世界的流行)の年だった。そう聞いて後世の日本人は戸惑うのではないか。パンデミックが怖いのは多くの死者を出すからだが、日本では高齢化が進んでいるにもかかわらず、20年の死者総数が19年よりも減少したのだ。
厚生労働省の人口動態統計速報によれば、20年の死者は0.7%減の138.4万人で、減少は11年ぶり。死因別の直近データは11月までだが、首位は腫瘍の35.7万人で、例年と変わらない。
新型コロナによる死者数は今年4月3日時点で9218人。昨年6月18日から検査陽性者の死は医師の確定を待たずに新型コロナによる死と報告されており、過大計上も指摘される。他方でインフルエンザと新型コロナ以外の肺炎による死者数は11月までで前年比1.8万人減少の7.2万人で、総合すると日本の感染症対策は期待以上の効果を上げたといえる。
ところが、こうしたデータは国会で完全に無視され、新型コロナへの対策をより軽くして国民の日常生活を取り戻そうという議論は見られない。野党も医療関係者も国民活動の縮小ばかりを要求する。安易に「ゼロコロナ」を掲げること自体、信頼に値しない。
特定のリスクをゼロにすることにこだわった結果、全体としてのリスクやコストが増大し、ベネフィットが失われる「ゼロリスクバイアス」が日本を覆っている。
緊急事態宣言は1月に再発出され、2度延長。さらに、「まん延防止等重点措置」が設けられ、ステージ2、3でも飲食店などへの規制が可能になった。過料こそ30万円から20万円へと下がったが、規制に従わない業者は少なく実質は緊急事態宣言と変わらない。現在6都市に適用されているが、さらに広がる可能性がある。
◎やや大げさだが…
基本的に異論はない。「『ゼロリスクバイアス』が日本を覆っている」とまで言われると、やや大げさに感じるが、全体として新型コロナウイルスの「リスク」にこだわり過ぎているのは間違いない。「日本では高齢化が進んでいるにもかかわらず、20年の死者総数が19年よりも減少した」のは、その表れだ。
今でもやり過ぎなのに「野党も医療関係者も国民活動の縮小ばかりを要求する」のも問題だ。医師会が「医療関係者」の都合を優先するのは分かるが、「野党」の立憲民主党が「ゼロコロナ戦略」を打ち出したのには本当に失望した。その辺りは大崎氏も同じ認識のようだ。
記事の後半部分で特に同意できるくだりを最後に紹介しておく。
【東洋経済の記事】
対面型授業の忌避で将来を担う若者の教育がおろそかにされ、「不要不急」の名の下に、スポーツや文化や芸術も犠牲にされている。そう言うと、高齢者の命を軽んずるのか、との非難を浴びそうだが、「生きることの質」も重要なはずだ。人は何らかの原因で必ず死ぬ。最期の日々に家族との面会も絶たれる現状が適切なのか。
これらを正当化する理屈が「医療逼迫」である。しかし、昨年から準備期間があったにもかかわらず、国民に感染防止を呼びかけるばかりで、医療提供体制は整わなかった。業界利益を代表する日本医師会に積極的な協力を取り付けられない政治の怠慢だ。民間病院といえども国の診療報酬制度に守られた公的インフラであることを肝に銘じるべきだ。対応の遅れを指摘した医師は、同業者から激しいバッシングを受けている。ゼロコロナ志向の前には冷静な議論もおぼつかない。
◎人命軽視批判を覚悟した点を評価
新型コロナウイルスに関しては「基礎疾患のある人や高齢者にはそこそこリスクがあるが、それ以外の人にとっては風邪と大差ない」という認識でいいだろう。そして「死者が高齢者に偏っているのならば社会活動の制限は基本的に不要」と思える。
主要メディアでこの主張を打ち出しにくいのは「高齢者の命を軽んずるのか、との非難を浴びそう」だからだ。テレビや新聞は高齢者に頼る部分も大きい。
東洋経済の読者層も若くはないはずだが、大崎氏は「非難」を覚悟の上で自説を展開している。この点は高く評価したい。
「高齢者の命」は社会活動を制限しない範囲で守ればいい。「対面型授業の忌避で将来を担う若者の教育がおろそかにされ、『不要不急』の名の下に、スポーツや文化や芸術も犠牲にされている」現状をもっと憂うべきだ。そこに一石を投じた大崎氏に改めて賛意を表したい。
※今回取り上げた記事「ニュースの核心~新型コロナのゼロリスク志向と思考停止」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26672
※記事の評価はB(優れている)。大崎明子氏への評価はD(問題あり)からC(平均的)に引き上げる。大崎氏については以下の投稿も参照してほしい。
東洋経済に載った木内登英氏のインタビュー記事が興味深いhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_23.html
0 件のコメント:
コメントを投稿