分析記事を書く上で比較対象の選択は重要だ。不適切な比較をすれば記事の信頼性に疑問符が付く。21日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~市場が映す企業の浮沈」という記事で、筆者の西條都夫上級論説委員はあえて不適切な比較をしているように見える。
夕暮れ時のうきは市 |
【日経の記事】
さて日本企業の弱点として「成長力不足」が指摘されて久しいが、この弱みは株高の今も継続中だ。ここでは日本を代表する銘柄として、経済界のパワーエリートである経団連正副会長の母体企業19社に登場してもらおう。
時価総額を自己資本で割った株価純資産倍率(PBR)の値が大きいほど成長期待が大きく、逆に1倍を切れば、経営のまずさやその他の要因で、株主価値が将来にわたって破壊されると市場が判断していることを意味する。厳しくいえば、PBR1倍割れ銘柄は「事業の継続が株主にとってプラスにならない」とみなされている企業である。
日本企業はもともとこのPBRが海外勢に比べて低いが、経団連銘柄はさらに低く、19社平均のPBRは0.75倍。個別企業でみても2倍超えの銘柄はなく、最高がコマツの1.46倍。以下1倍超えは日立製作所、三菱電機、ANAホールディングス(HD)、トヨタ、東京海上HD、NTTの計7社で、残る12社は時価総額が解散価値(=自己資本)を下回っている。
なぜこんなことになるのか。シンプルな答えは経団連銘柄の構成企業が総じて古く、成長力に欠けることだ。19社中、純粋な戦後生まれはANAHDただ1社で、それとて1952年の創業。社齢は70歳近い。
一方で米国のダウ構成銘柄はマイクロソフトやウォルマートなど戦後生まれが半数近くを占める。経団連銘柄とダウ銘柄を直接比較するのはやや強引かもしれないが、やはり日本の産業社会の新陳代謝の不足はここでも明らかであり、私たちが直視すべき「日本経済の弱み」である。
◎なぜ「日米の株価指数」で比べない?
「米国のダウ構成銘柄」との比較対象を日本で探すとすれば何が適切だろうか。株価指数の構成銘柄だということは最優先で考慮すべきだ。すぐに思い付くのは日経平均株価だろう。
「ダウ」の30社に対して日経平均は225社で社数が違いすぎると考えるならばTOPIXコア30がある。これなら日米ともに30社で比べられる。どちらもその国の主要企業が名を連ねる。「構成銘柄」の歴史の長さで日米の「新陳代謝」の差を見せたいのならば、自分が思い付く範囲ではTOPIXコア30が最適だ。西條上級論説委員が適切な比較対象をしっかり探していれば辿り着けそうな指数だ。TOPIXコア30を知らなかったとしても日経平均は選べるはずだ。
しかし西條上級論説委員は「経団連正副会長の母体企業19社」を選んでいる。「経団連銘柄とダウ銘柄を直接比較するのはやや強引かもしれないが」とは書いているが、「やや強引かもしれない」ではなく「明らかに不適切」だ。
どうしても「経団連銘柄」を使いたいのならば、米国の比較対象をビジネス・ラウンドテーブルの会員企業にしてもいい。このぐらいのことは西條上級論説委員も分かっているだろう。
では、なぜ不適切な比較を選んだのか。「米国のダウ構成銘柄」には「新陳代謝」が顕著に感じられ、「経団連銘柄」にはそれがないからではないか。西條上級論説委員が描こうとするストーリーに合うように比較対象を恣意的に捉えたと考えれば腑に落ちる。
例えばTOPIXコア30を比較対象に選ぶとソフトバンクグループやキーエンスなど多くの「戦後生まれ」企業が入ってくる。米国も「戦後生まれ」は「半数近く」に過ぎないのだから日米の差はあまり明確にならない。
それはまずいと考えて「経団連銘柄」との比較を選んだのならば、ご都合主義との誹りを免れない。TOPIXコア30や日経平均との比較は全く思い付かなかったとすれば、分析記事を書くための基礎的な能力が欠けていると言わざるを得ない。
※今回取り上げた記事「核心~市場が映す企業の浮沈」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201221&ng=DGKKZO67474640Y0A211C2TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條上級論説委員については以下の投稿も参照してほしい。
春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html
7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html
日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html
何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html
日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html
タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html
日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html
「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html
さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html
「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html
「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html
「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html
「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html
「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html
「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html
「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_16.html
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