2020年12月18日金曜日

女性だけ「念入り」にすべき? 日経社説「コロナで困窮する女性への支援念入りに」

女性に限定して問題を論じる意味があるのか。18日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「コロナで困窮する女性への支援念入りに」という社説を材料にこの問題を考えてみたい。社説の全文は以下の通り。

JR久留米駅に停車中の無限列車

【日経の社説】

新型コロナウイルスの感染拡大が、労働市場を直撃している。とりわけ女性は非正規で働いている人が多く、雇用が不安定だ。コロナによる影響も、女性の多いサービス業などで強く出ている。

女性の収入減や失職は、その家族をふくめ大きなダメージとなる。育児など家庭内での負担も増えるなか、新たに仕事を探すのも簡単ではない。ひとりで抱え込み、精神的に追い込まれることがあってはならない。暮らしを安定させられるよう、政府や自治体はあらゆる策を動員してほしい。

大事なのは、必要な支援が必要な人にしっかり届くことだ

野村総合研究所が10月に実施した調査では、休業を余儀なくされているパート・アルバイトの女性で、休業手当を受け取っていない人は7割にのぼった。卸・小売り、宿泊、飲食などの業種でその割合が高い。外出自粛や営業時間短縮の影響が表れている。

企業が従業員に休業手当を支払う場合、政府は雇用調整助成金を出してバックアップしている。先行きへの不安を広げぬよう、経営者はできる限り休業手当を支払う努力をすべきだ。ほかの業務に配置転換するなど、従業員を休ませずに済む方法はないか探る努力も尽くしてほしい。

政府は休業手当を受け取っていない中小企業の従業員を対象に、休業前の賃金の8割を休んだ日数に応じて支給する「休業支援金・給付金」制度も設けている。本人が直接、申請できる。こうした制度を政府はもっと周知すべきだ。

感染の収束が見通せないため、休業中の従業員がもとの職場に復帰できなくなる心配もある。非正規の契約が更新されない「雇い止め」が増えることも懸念される。

介護サービスなど人材の需要が旺盛な分野は少なくないが、女性一人ひとりの事情に応じてきめ細かく対応することが大切だ。国のハローワークの機能を、民間ノウハウを取り入れて強める必要がある。新しい仕事に移るための能力開発の支援もより重要になる。

コロナによる暮らしへの影響は多岐にわたる。就労支援と福祉が連携することも一層、大切になる。一定の条件のもと収入が減った人らに家賃を補助する制度は、支給期間の延長が決まった。自治体のなかには、生活困窮者への相談窓口を年末年始も開くところもある。悩みをしっかり受け止められるよう、柔軟に対応してほしい。


◎男女を区別する意味ある?

女性は非正規で働いている人が多く、雇用が不安定だ。コロナによる影響も、女性の多いサービス業などで強く出ている」というのが事実だとして「女性への支援」を男性に比べて「念入りに」する必要があるだろうか。

非正規で働いている」男性も当然にいるし、正規雇用での職を失う男性もいる。「女性の多いサービス業など」でも男性は働いているはずだ。仮に「支援」が必要な人の8割が「女性」だとして、人数が多いから男性よりも「女性」を「念入りに」支えていくべきだろうか。基本的には男性差別だ。男女の別なく「必要な支援が必要な人にしっかり届く」ようにすべきだ。

例えば「女性」は家計の主な担い手になるケースが圧倒的なので、補助的な役割の男性よりも「念入りに」支えるべきとの主張であれば、まだ理解できる。しかし常識的に考えれば、この根拠で「念入り」な「支援」を正当化できるのは男性の方だろう。

女性の収入減や失職は、その家族をふくめ大きなダメージとなる」と社説では書いている。「男性の収入減や失職は、その家族をふくめ大きなダメージとはならない」と言えるのならば「女性」に限定して「支援」の必要性を訴えていくのも分かる。しかし現実と合致しないのは明らかだ。

男性には既に「念入り」な「支援」があるのに「女性」にはないといった場合も「女性への支援念入りに」と訴える意味は出てくる。しかし社説にそうした記述はない。

必要な支援が必要な女性にしっかり届くこと」は「必要な支援が必要な人にしっかり届くこと」と同義ではない。社説を書いた論説委員も分かっているはずだが…。


※今回取り上げた社説「コロナで困窮する女性への支援念入りに

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201218&ng=DGKKZO67447410Y0A211C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

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