22日の日本経済新聞朝刊1面に載った「パクスなき世界~大断層(2)『巨大ITが秩序』現実に デジタル化、国家置き去り」という記事は無理のある内容だった。特に引っかかったのが以下のくだりだ。
耳納連山に沈む夕陽 |
【日経の記事】
伊ボローニャ大のエミリオ・カルバノ准教授らの実験では、複数の人工知能(AI)に商品の値付けをさせると、バラバラだった価格が最終的に均一の価格となった。AIが他者の動きをにらんで利益を最大化した結果で、消費者には不利益となる価格水準に収まるケースもある。
既存の概念では「価格カルテル」に当てはまりそうな事例だが、カルバノ氏は「人の意思や交渉によらない『AIカルテル』を、現行の競争法で規制することはできない」と指摘する。経済協力開発機構(OECD)もこれまでの報告書で同様の懸念を示している。
◎既存の概念では「価格カルテル」?
「AIが他者の動きをにらんで利益を最大化した結果」として「バラバラだった価格が最終的に均一の価格となった」という「実験」に触れて「既存の概念では『価格カルテル』に当てはまりそうな事例」と解説している。
「AI」間で合意があるならば分かるが「他者の動きをにらんで利益を最大化した」だけならば、同じことを人間がやっても「価格カルテル」にはならない。
例えば同じ地域のガソリンスタンドの価格が「均一」に近い状態になるのは珍しくない。クルマの運転者に分かるようにそれぞれのガソリンスタンドが道路に向けて価格を表示している影響が大きいのだろう。だが「他者の動きをにらんで利益を最大化」しただけならば取り締まりの対象とはならない。
「AI」が既に話し合いや合意形成の力を持っているという話ならば、そう書いてもらわないと困る。
記事の続きを見ていこう。
【日経の記事】
米グーグルの新たな決済アプリ。2021年からシティバンクなどの口座がひも付くが、銀行側には口座維持手数料や最低残高の決定権が制限されているという。グーグルなど「GAFA」合計の時価総額はシティなどグローバルに展開する30金融機関の2倍。強者のルールに弱者が従う構図は金融も例外ではない。
トマス・ホッブズが17世紀に「リバイアサン」で提唱して以来、万能な国家が市民の上に立つのが近代の統治モデルの前提だった。21世紀のいま、膨大な個人データとデジタル技術を持つ巨大IT企業は国家をしのぐ影響力を持ち始めている。
米国では当局がグーグルとフェイスブックを反トラスト法(独占禁止法)で提訴している。圧倒的な市場支配力で公正な競争を阻害していると判断し、M&A(合併・買収)で事業領域を拡大したフェイスブックに対しては、事業分割も求めている。
◎「国家をしのぐ影響力」?
「膨大な個人データとデジタル技術を持つ巨大IT企業は国家をしのぐ影響力を持ち始めている」と言うが、それを裏付ける材料は見当たらない。「口座維持手数料や最低残高の決定権」を「グーグル」が「制限」できるからなのか。「国家」の「影響力」はそれをはるかにしのぐはずだ。
「圧倒的な市場支配力で公正な競争を阻害していると判断」されれば「国家」の力で「事業分割」を強制されることもある。記事を読む限りでは「巨大IT企業」が「国家をしのぐ影響力を持ち始めている」感じはしない。
記事の結論部分も引っかかった。
【日経の記事】
富やデジタル化の恩恵を人々に平等に分配する仕組みやルールを誰が、どう作るのか。各国の政府や司法機関は前例のない問いに対する答えを探し始めている。
◎「平等に分配」すべき?
「富やデジタル化の恩恵を人々に平等に分配する仕組みやルールを誰が、どう作るのか」と書いているので「富やデジタル化の恩恵」は「平等に分配」すべきとの考えが取材班にはあるのだろう。起業して成功を収めた人も、働かずに生活保護を受けて暮らしている人も「富」は「平等に分配」されるべきなのか。
税金などを使って「富」を再分配するのは分かる。しかし「平等に分配」していたら、起業して頑張ろうと考える人はほとんどいなくなるだろう。良い就職先を見つける必要もなくなる。働かずに家で待っていれば「富」を「平等に分配」してもらえるからだ。
それでは社会が上手く回らないことは自明のはずだが…。
※今回取り上げた記事「パクスなき世界~大断層(2)『巨大ITが秩序』現実に デジタル化、国家置き去り」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201222&ng=DGKKZO67491180Y0A211C2MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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