久留米市の千光寺(あじさい寺) ※写真と本文は無関係です |
7日の「(3) 見え始めた『見えざる手』 最適価格、中銀の役割問う」という記事も例外ではない。まず最初の事例が苦しい。
【日経の記事】
平日の午後4時半。バンコクの焼肉店「ムー・アンド・モア」では、日が沈む前から3組の客が夕食をとっていた。「かつてはガラガラの時間帯」(店主)をレストラン予約アプリ「イーティゴ」が変えた。料理の価格が時間帯ごとに変わり、夕食時の前をアプリで予約すれば通常の半額だ。
時間帯によって見込まれる客数と店側が期待する利益率を掛け合わせ、30分ごとの最適な割引率をはじく。空席率7割とされる外食産業。ドイツ出身のマイケル・クルーセル最高経営責任者(CEO)は「埋まる席は最高価格、空席は最低価格で」を徹底し、店の利益の最大化をめざす。
需要の変化をデータでとらえ、最適な値段を瞬時にはじく。航空運賃などから始まった「ダイナミック・プライシング」という変動価格が経済全体に広がる。慶大の坂井豊貴教授は、需要と供給に応じて市場で合理的に価格が決まるという「教科書の世界に世の中が近づいてきた」とみる。
◎自分でできるような…
「『かつてはガラガラの時間帯』(店主)をレストラン予約アプリ『イーティゴ』が変えた」と書いているが、似たようなことは「イーティゴ」に頼らなくてもできる。「ガラガラの時間帯」の価格を下げればいいだけだ。「店主」の判断でできる。
「イーティゴ」を使うと「埋まる席は最高価格」が実現するような印象を受けるが、これも無理がある。「夕食時の前をアプリで予約すれば通常の半額」になるとすれば「通常」の価格でも「埋まる席」の一部を「半額」で埋めてしまっている。なのに「埋まる席は最高価格」なのか。
さらに言えば「夕食時の前をアプリで予約すれば通常の半額」と決まっているのならば、この部分は「ダイナミック・プライシング」とは言えないだろう。「ダイナミック・プライシング」ならば、様々な割引率が適用になるはずだ。
もう1つ気になるのが「空席は最低価格」という説明だ。「最低価格」の定義が明確ではないので、とりあえず「店が許容できる最低価格」としよう。この場合「空席は最低価格」に意味があるだろうか。
「空席」に関して「店が許容できる最低価格」が5000円で「客が許容できる最高価格」が1万円だとしたら、店としては「イーティゴ」を通じて1万円と提示するのが合理的だ。しかし「空席は最低価格」の原則に従うと店には5000円しか入ってこない。
記事の結論部分にも注文を付けておこう。
【日経の記事】
ところが価格が頻繁に小刻みに動き、市場の需給を効率的に映し出し始めた。物価統計という従来の尺度ではその実態をつかめない。いつも最適な水準に向かって価格が落ち着いていく経済では、物価の安定を目標に金融政策を運営する意味は薄れる。見えざる手に導かれて最適化する価格はモノやサービスの価値だけでなく、金融政策のあり方さえも問い直している。
◎「金融政策」の「意味は薄れる」?
筆者は「市場の需給を効率的に」価格に反映できれば物価は安定すると思っているのだろう。「最適な水準に向かって価格が落ち着いていく」としても、それが「物価の安定」につながるとは限らない。
株式市場を考えれば分かる。上場株に関しては「価格が頻繁に小刻みに動き、市場の需給を効率的に映し出し」ているのに、バブルが発生したり相場急落を招いたりの連続だ。「物価の安定」が必要なことならば「いつも最適な水準に向かって価格が落ち着いていく経済」であっても「金融政策」の意味は薄れない。
逆から考えてみてもいい。例えばハイパーインフレが起きたベネズエラ。「ダイナミック・プライシング」をしっかり根付かせておけばハイパーインフレを防げただろうか。あるいは「ダイナミック・プライシング」の力でハイパーインフレを抑え込めるだろうか。
「物価の安定を目標に金融政策を運営する」ことを中央銀行が放棄して無茶をすればハイパーインフレは起こり得る。それを防ぐ手段として「ダイナミック・プライシング」はほぼ無力だと思える。「Neo economy~広がる異世界」の取材班のメンバーはどう考えるだろうか。
※今回取り上げた記事「Neo economy~広がる異世界(3) 見え始めた『見えざる手』 最適価格、中銀の役割問う」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190607&ng=DGKKZO45363510Y9A520C1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。
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