旧内外クラブ記念館(長崎市)※写真と本文は無関係です |
【ダイヤモンドの記事】
Jポップの哲学からの考察は、形而上学的なテーマだけではなく、社会事象を考える上でも有効だ。
例えば、アイドルグループ、AKB48のライバル的存在として結成された乃木坂46と欅坂46の歌詞は、日本社会の変化を反映している。
2000年代後半に登場したAKB48は、選挙投票による競争をゲーム化することで脚光を浴びた。「競争をしないはずのゆとり世代のアイドルが、ハングリーな競争を繰り広げるところが支持を得た」(同)のだ。
しかし、東日本大震災でこの流れは変わる。くしくも乃木坂46の結成は11年8月だ。AKB48と異なり乃木坂46のセンターは、ファンではなく運営が決める。メンバーは競い合わず、人気投票もない。「戦いのない世界に戻りたい。ポスト3・11の協調重視の流れが見て取れます」(同)。
◎色々と誤解が…
「AKB48と異なり乃木坂46のセンターは、ファンではなく運営が決める」と書いてあると「AKB48」は「運営」ではなく「ファン」が「センター」を決めると理解したくなる。それは年1回の選抜総選挙(2019年は開催見送り)後のシングルだけだ。「AKB48」も基本的には「センターは、ファンではなく運営が決める」。記事の説明は誤解を招く。
「乃木坂46」に関する「メンバーは競い合わず」という説明は完全に間違いだ。どのシングルでも選抜と選抜以外に振り分けられるので「メンバー」内の競争は常にある。
そもそも「乃木坂46」は「AKB48のライバル的存在として結成された」のだから「戦い」に身を置くのが前提だ。なのに「戦いのない世界に戻りたい。ポスト3・11の協調重視の流れが見て取れ」るのか。
さらに続きを見ていく。
【ダイヤモンドの記事】
18年のヒット曲「シンクロニシティ」では、「言葉を交わしていなくても 心が勝手に共鳴するんだ 愛を分け合って」「いつしか心は一つになる…」と、人間は自然に理解し合えるという世界観が色濃い。
「これはハーバーマスの政治哲学を思わせる普遍主義の考え方。敵や敵意はない、他者はいない、コミュニケーションできない人はいないことが前提です」(同)
ハーバーマスは、マルクスの影響を受けた社会学者で、コミュニケーションによって望ましい社会が到来する可能性を探った。人々が対話を重ねる「公共性」によって、合意に達したものが真理であると説く。
この乃木坂46に対し、体制と闘う反抗のアイドルとして15年に結成されたのが欅坂46だ。17年のヒット曲「不協和音」には、「僕はyesと言わない(中略)最後の最後まで抵抗し続ける」「君はyesというのか 軍門に下るのか」といった歌詞がある。団結して闘うのだという明確なメッセージが打ち出されている。
戸谷氏は「敵を否定することで結束を固め、闘うことで自由や自分の存在意義を求める世相の表れ」とみる。そしてそれは、共同体が外部を否定することで内部を維持、強化する、デリダの洞察を想起させるという。相対化の視点である。
流行りのJポップの背後に哲学あり。ぜひお気に入りの一曲を分析してほしい。
◎日本社会は劇的に「変化」した?
「乃木坂46と欅坂46の歌詞は、日本社会の変化を反映している」と奥田氏は言うが、どんな「変化」なのかは明確ではない。強引に読み解けば「人間は自然に理解し合えるという世界観」が支配する社会から「敵を否定することで結束を固め、闘うことで自由や自分の存在意義を求める」社会へと「変化」したということか。
この劇的な「変化」は「欅坂46」が結成された「15年」から「不協和音」が発売された「17年」にかけて起きたのだろう。ずっと「日本社会」で生きてきたが、そんな急激な変化が起きた印象はない。
「ポスト3・11の協調重視の流れ」では「戦いのない世界に戻りたい」と願ったのに、わずか数年で「闘うことで自由や自分の存在意義を求める」方向に社会の意識が変わったのか。「3・11」の前は「戦い」を肯定する社会だったと取れるので、短い間に何度も急激な変化が起きている。
それを裏付ける材料を奥田氏は持っているのか。この手の分析は多少は主観的な要素が入ってもいいとは思うが、それにしても強引すぎる。
さらに言えば時系列的な問題もある。「乃木坂46」から「欅坂46」へという流れで「日本社会の変化」を見ているのに、取り上げたのは「乃木坂46」が「18年のヒット曲」で「欅坂46」が「17年のヒット曲」だ。「乃木坂46」の曲が先に出ていないと、話の展開としては苦しい。
結局、深く考えずに話を作ってしまったということだろう。
※今回取り上げた記事「米津玄師はニーチェ、星野源はアリストテレス!?~哲学で読み解くJポップ」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26668
※記事の評価はD(問題あり)。奥田由意氏への評価も暫定でDとする。
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