2019年6月2日日曜日

冒頭から拙さ目立つ日経 藤井一明経済部長の「Deep Insight」

日本経済新聞社で経済部長になるには激烈な出世競争を勝ち抜く必要がある。長時間労働を厭わず早耳筋的な情報を追いかける勤勉さや、上司に歯向かわない従順さは必須だ。しかし、経済コラムの優れた書き手である必要はない。藤井一明経済部長が朝刊オピニオン面に書いた「Deep Insight~フリーランスが崩す岩盤」という記事を読むと、それが分かる。
グラバー園の旧リンガー住宅(長崎市)
       ※写真と本文は無関係です

Deep Insight」を「本社コラムニスト」だけでなく部長や編集委員にも書かせるのは賛成だ。ただ、訴えたいことを持っている優れた書き手に限るべきだ。少なくとも藤井部長は外した方がいい。記事の冒頭から拙さが目立つ。

記事の問題点については日経に送った以下の問い合わせを見てほしい。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞 経済部長 藤井一明様

1日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~フリーランスが崩す岩盤」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは最初の段落です。藤井様は以下のように説明しています。

平成が幕を下ろすのを待ち構えていたかのように、JR東日本の労働組合から組合員が大量に流出している。2018年2月に約4万6千人いた最大労組の組合員数は改元を間近に控えた19年4月で約1万1千人にまで落ち込んだ。ほかの労組も含め、加入している人の割合を示す組織率はかつての9割から3割に急落した

平成が幕を下ろすのを待ち構えていたかのように、JR東日本の労働組合から組合員が大量に流出している」のであれば、「平成が幕を下ろ」した直後から「組合員が大量に流出」しているはずです。

しかし記事では「改元を間近に控えた19年4月で約1万1千人にまで落ち込んだ」と書いているだけで「平成が幕を下ろ」した後の「流出」に触れていません。

そもそも「19年4月」に近い時期に「大量に流出」したわけでもありません。藤井様も書いているように「直接のきっかけは一時浮上したストライキの不発」です(このくだりにも問題があります。後で触れます)。

2018年4月10日付の東洋経済オンラインの記事では「JR東日本(東日本旅客鉄道)の最大労働組合『東日本旅客鉄道労働組合』に異変が起きている。今年2月中旬以降、この1カ月余りの間に約2万8000人もの組合員が脱退しているというのだ。今年1月時点では約4万6000人(社員の約8割が加入)もいた組合員が半減以下になるという、かつてない異常事態だ」と書いています。「大量に流出」したのは昨年の「2月中旬以降」のようです。

だとすると「改元」と絡めるのはさらに厳しくなります。「平成が幕を下ろすのを待ち構えていたかのように、JR東日本の労働組合から組合員が大量に流出している」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

直接のきっかけは一時浮上したストライキの不発」という説明にも注文を付けておきます。この書き方だと「一時浮上したストライキ」が「不発」に終わったから、それを不満に思う組合員が「大量に流出」したと理解したくなります。

しかし2018年7月30日付の朝日新聞の記事では「今年の春闘で当時の執行部が経営側にストライキ権の行使を通告したのをきっかけに、同労組の運営に対する強い反発が広がったためとみられる」と「大量に流出」した理由を説明しています。東洋経済オンラインの記事にも同様の記述が見られます。これらが大筋で正しいとすると「(大量脱退の)直接のきっかけは一時浮上したストライキの不発」との説明はかなり問題があります。厳しく言えば間違いです。

さらに言えば「ほかの労組も含め、加入している人の割合を示す組織率はかつての9割から3割に急落した」との説明も感心しません。なぜ「かつて」と時期をボカしているのですか。どの程度の期間で「急落した」のかは読者に示すべきです。

そもそも「かつて」と比べるのが好ましくありません。今回は「2018年2月に約4万6千人いた最大労組の組合員数」が急減したという話をしているのですから、この間の「組織率」の「急落」をまず見せるべきでしょう。その上で「かつて」との比較も出すかどうか検討すべきです。

藤井様は経済部長として記者だけでなくデスクも指導する重要な職責を担っています。記事を書くのであれば、書き手としての力量を記者やデスクに示し「この人に指導されたい」と思わせる必要があります。残念ながら、今回の記事はそのレベルに達していないと感じました。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

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追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~フリーランスが崩す岩盤
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190601&ng=DGKKZO45528630R30C19A5TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。藤井一明経済部長への評価も暫定でDとする。

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