御番所公園(宮城県石巻市) ※写真と本文は無関係です |
記事の前半は以下のようになっている。
【エコノミストの記事】
「米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏を生涯リターンで大幅に上回る人物がいる。“物言う株主”として有名なカール・アイカーン氏だ」──。
5月19日、マネックス証券が都内で開いたアクティブ投資などをテーマとした個人向けセミナーで、同社の松本大(おおき)会長は、会場のほか、ネットを通じ参加した約1100人に訴えた。
アイカーン氏は企業の経営に積極的に関与するアクティブ投資家として知られる。アクティブ投資とは、ファンドマネジャーが有望な銘柄を選定・投資することでベンチマーク(目安となる指数)を上回る成果を目指す。つまり、株価の上昇が見込める銘柄の“目利き”ができるファンドマネジャーに、運用を“おまかせ”する投資法と言える。
アクティブ投資は、株式や債券などの相場動向を示す「指数」、例えば日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)と連動した運用成績を目指す「インデックス投資」と対極にある投資法だ。
日本の個人投資家の間では、これまでインデックス(指数)投資を重視する人が多かったが、足元でアクティブ投資を見直す人が急速に増えているのだ。
◎データはなし?
「日本の個人投資家の間では、これまでインデックス(指数)投資を重視する人が多かったが、足元でアクティブ投資を見直す人が急速に増えている」と言い切っているが、それを裏付けるデータは最後まで出てこない。なのに見出しに「高まるアクティブ人気」と持ってくる気が知れない。
「これまでインデックス(指数)投資を重視する人が多かった」という情報に関しても、データは示していない。
さらに記事を見ていこう。
【エコノミストの記事】
従来の「インデックス偏重」の背景には、株式投資の基礎的な理論である「効率的市場仮説」があった。すなわち「利用可能な全ての情報はすぐに株式市場に織り込まれるため、継続的に“市場平均=インデックス”を上回る成績をあげるのは難しい」という説だ。
しかし、日本株ではアクティブ投資が、インデックス投資よりも大きな超過リターンを生むことが認識され始めている。機関投資家向けに投資情報を提供するイボットソン・アソシエイツによると、2007年から18年までの12年間では、日本株のアクティブ投信235本のうち、145本(62%)がインデックス投信の運用成績を上回った(図)。
◎なぜ「12年」?
まず、なぜ「2007年から18年までの12年間」なのか。キリがいい10年なら分かるが、わざわざ「12年間」としたのは、それが「アクティブ投信」の成績を良く見せるのに都合がいいからではないかとの疑問が湧く。
さらに言えば「日本株のアクティブ投信235本」をどうやって選んだのかも気になる。「12年」以上の運用実績がある「日本株のアクティブ投信」が「235本」あるのだとしよう。その場合、生存者バイアスの問題も考慮する必要がある。成績の悪いファンドは「12年間」に多くが淘汰されてしまい、残っているファンドの成績は良く出やすいと考えられる。
続きを見ていく。
【エコノミストの記事】
日本でインデックス投資がさえない理由は、TOPIX採用銘柄に含まれる大企業の中には、日銀が大量に買い入れているETF(上場投資信託)に組み入れられ株価が割高に保たれる結果、経営改善へのインセンティブ(誘因)が働かず、この先株価の大きな上昇が見込めない企業が多数含まれるからだ。その結果、TOPIXの上値も重くなる。
一方で、TOPIXに採用されていない中小企業の中には有望な企業が多い。日本株に投資するタイヨウ・パシフィック・パートナーズのブライアン・ヘイウッド創業パートナーは、「日本株は“宝の山”。ものすごい技術を持っている企業がたくさんあるのに、相当数が割安に放置されている」と話す。
◎説明が成り立たないような…
上記の説明は成り立っていない。記事を信じれば「2007年から18年までの12年間」は「インデックス投資」のパフォーマンスが悪かったはずだ。しかし「日銀が大量に買い入れ」をしたため「TOPIX採用銘柄」は「株価が割高に保たれ」たという。日銀が「ETF」を「買い入れ」するようになったのは2010年以降なので、日銀の買いはこの間の「インデックス投資」にとってプラスに働いている。
タマホーム スタジアム筑後(福岡県筑後市) ※写真と本文は無関係です |
一方、「TOPIXに採用されていない中小企業」は今も「相当数が割安に放置されている」のであれば、「TOPIXに採用されていない中小企業」を狙う「アクティブ投信」のパフォーマンスはまだ上がっていない可能性が高い。
なのに、結果は「インデックス投資がさえない」らしい。辻褄が合っていない。
付け加えると「アクティブ投信」が「TOPIXに採用されていない中小企業」(東証1部以外の上場企業)を投資対象としているのならば、「TOPIX」と比べるのは不適切だ。ジャスダック指数などをベンチマークにすべきだろう。
先に出てきた「イボットソン・アソシエイツ」のデータも、中小型株の「アクティブ投信」を「TOPIX」連動型の「インデックス投信」と比べているのではないかとの疑問が残る。仮にそうならば「日本株ではアクティブ投資が、インデックス投資よりも大きな超過リターンを生む」という話はさらに怪しくなる。
最後の段落も見ておく。
【エコノミストの記事】
金融庁が「老後資金として夫婦で2000万円が必要」とする報告書を作成して問題になった。額はともかく、老後を年金だけに頼っていられないことは確かだ。自助努力で資産形成の手段が求められている中、「アクティブ投信」は有力な選択肢になる。
◎「アクティブ投信」は有力な選択肢にならない!
「『アクティブ投信』は有力な選択肢になる」と記事では断言しているが、そうはならないと言い切れる。既に述べたように「イボットソン・アソシエイツ」のデータは根拠として弱い。
仮に「中小型株は『宝の山』」で「アクティブ投資」が有利だとしよう。しかし、それは「アクティブ投信」を選ぶ理由にはならない。手数料の問題があるからだ。
「自助努力で資産形成の手段が求められている」のならば、自力で「中小型株」の中から有望銘柄を探すべきだ。1%を超える信託報酬を「アクティブ投信」に支払うのは無駄としか思えない。「インデックス投信」ならば信託報酬は0.1%程度のものもある。
個人で銘柄を選ぶよりも1%以上リターンを高めてくれる可能性が十分に高いと判断できる「アクティブ投信」はあるのか。個人的にはないと思えるし、仮にあっても事前にそれを見つけるのは非常に難しいはずだ。
「特別な力を持ったファンドマネジャーを見つける特殊能力が自分にはある」と確信できる人を除いて「アクティブ投信」には近づくべきではない。
「アクティブ投信を強引に推す稲留記者と吉脇記者を信じるな!」。投資初心者にはそう助言したい。
※今回取り上げた記事「高まるアクティブ人気 中小型株は『宝の山』」
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190702/se1/00m/020/059000c
※記事の評価はD(問題あり)。稲留正英記者への評価はDを維持する。吉脇丈志記者は暫定でDとする。
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