2018年12月29日土曜日

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」

中央銀行が設定した物価の政策目標が2%で、実際の上昇率が2%を超えてきた。そこで物価抑制のために利上げに動いたものの、それでも2%台の物価上昇率が続いている。この場合、「(金融緩和にもかかわらず)それでも物価は上がらない」状況だと言えるだろうか。
別府港(大分県別府市)に停泊中の「えひめ」
        ※写真と本文は無関係です

日本経済新聞朝刊1面で連載した「モネータ 女神の警告~未来への問い」の取材班には、なぜか「それでも物価は上がらない」と映るらしい。日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 川崎健様 清水桂子様 松崎雄典様 白壁達久様 高見浩輔様 須永太一朗様 松本裕子様 福田航大様 丸山大介様

28日の朝刊1面に載った「モネータ 女神の警告~未来への問い(4)膨らむ『通貨外経済』 お金は不滅の存在なのか」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは以下のくだりです。

1694年に誕生したイングランド銀行の資産は金融緩和で膨らみ続け、GDPの2割を超えた。政府に融資していた18世紀の水準も上回るが、それでも物価は上がらない

英国の消費者物価指数の前年比上昇率は直近の11月で2.3%です。2017年2月以降は政策目標である2%を上回って推移しており、物価上昇を抑えるための利上げにも踏み切っています。なのに「それでも物価は上がらない」と言えますか。

8月2日付の「英9カ月ぶり利上げ、0.75%に 金融正常化へ」という記事で御紙の篠崎健太記者は以下のように記しています。

英国では16年の国民投票でEU離脱が決まった後、通貨ポンドが急落し輸入品が値上がりした。消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率は17年11月、3.1%に伸びた。英中銀は同月、約10年ぶりに利上げした。その後、物価上昇率は縮小したが政策目標(年2%)をなお上回り、追加の利上げ時期を探ってきた

この記事では「イングランド銀行」が「利上げはインフレの抑制に必要だと判断した」とも書いています。だとすると今回の「それでも物価は上がらない」との説明が間違っているのではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。篠崎記者に英国は「それでも物価は上がらない」状況なのか聞いてみるのも手です。

記事の中でもう1つ気になったのが以下のくだりです。

世界がネットでつながり、物々交換やモノを買わずに共有するシェアリングエコノミーが急速に広がる。芸術さえも貨幣価値で計って市場経済に組み込んできた流れの逆流だ。『経済と日常生活の伝統的な境界が壊れつつある』。英元財務省アドバイザーのダイアン・コイル氏はいう

疑問点を3つ挙げておきます。

(1)「物々交換」と「ネット」の関係は?

京都市の清水寺にほど近いアパートに賃料が要らない一室がある。月13万円の賃料に見合うモノとの物々交換で住人を受け入れる」という事例の後に「世界がネットでつながり、物々交換やモノを買わずに共有するシェアリングエコノミーが急速に広がる」と書いています。しかし「アパート」の話は「ネット」と関係なさそうです。少なくとも関係を説明はしていません。
浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)※写真と本文は無関係

ついでに言うと「物々交換やモノを買わずに共有するシェアリングエコノミーが急速に広がる」という書き方は上手くありません。「『物々交換やモノ』を買わずに共有する」と読めるからです。「物々交換や、モノを買わずに共有する」と読点を打つのが簡単な解決方法です。ただ、読点が多過ぎる感じもします。改善例を示しておきます。

<改善例>

世界がネットでつながり、モノを買わずに共有するシェアリングエコノミーだけでなく物々交換も急速に広がる。



(2)「シェアリングエコノミー」は「通貨外経済」?

皆さんは「シェアリングエコノミー」を「通貨外経済」と認識しているようですが、基本的には「貨幣価値で計って市場経済に組み込んできた流れ」に反しないでしょう。「シェアリングエコノミー」の代表的なサービスであるカーシェアリングや民泊は「通貨外経済」だと思いますか。これらのサービスの市場規模も「貨幣価値」で測れるはずです。


(3)「経済と日常生活の伝統的な境界」とは?

経済と日常生活の伝統的な境界が壊れつつある」とのコメントが理解できませんでした。「経済と日常生活の伝統的な境界」がまず分かりません。そもそも「経済と日常生活」には「境界」があるのですか。

記事を信じれば、スーパーで食料品を買うといった「日常生活」と「経済」の間には「伝統的な境界」があるはずです。しかし「そんなのあるの?」としか思えません。それが「物々交換」と何か関係あるのでしょうか。さらには「境界が壊れつつある」ようですが、どう「壊れ」ているのか記事からは読み取れません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~未来への問い(4)膨らむ『通貨外経済』 お金は不滅の存在なのか
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO39482100X21C18A2MM8000/


※記事の評価はE(大いに問題あり)。連載全体の評価はD(問題あり)とする。連載の責任者は川崎健氏だと推定し、同氏への評価をDで据え置く。同氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

川崎健次長の重き罪 日経「会計問題、身構える市場」http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_62.html

なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長「スクランブル」の欠陥http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_30.html

「明らかな誤り」とも言える日経 川崎健次長の下手な説明http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_27.html

信越化学株を「安全・確実」と日経 川崎健次長は言うが…http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_86.html

「悩める空売り投資家」日経 川崎健次長の不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_27.html

日経「一目均衡」で野村のリーマン買収を強引に庇う川崎健次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_11.html


※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

米国では「金利が消滅」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_45.html

予想通りに苦しい日経「モネータ 女神の警告~未来への問い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_28.html


※「モネータ 女神の警告」の過去の連載に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_14.html

株主・銀行は「力失った」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_7.html

強引に「運用難」を描き出す日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_72.html

製薬会社の従業員が「空港封鎖」? 日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_81.html

最終回も間違い目立つ日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_31.html

0 件のコメント:

コメントを投稿