2018年12月1日土曜日

「海外」に正解あり? 日経「役員報酬 きしむ日本流」に見える悪癖

海外と日本に差がある場合に「海外が正しい。日本は海外に合わせるべきだ」と考えてしまうのは日本経済新聞の悪い癖だ。1日の朝刊1面に載った「役員報酬 きしむ日本流~『ゴーン問題』で注目 水準・透明性に課題」という記事にも、その傾向が見える。
上人ケ浜公園(大分県別府市)
        ※写真と本文は無関係です

記事を順に見ながら問題点を指摘したい。まずは最初の段落。

【日経の記事】 

日産自動車元会長カルロス・ゴーン容疑者の問題を受け、高額批判も出ている役員報酬。ただ、主要企業のトップの報酬を比較すると日本は米国の1割程度にとどまり、国際的には低い水準にある。経営者も含めた人材獲得のグローバル競争で後れを取る恐れがある。役員報酬を適切な水準へと見直していくべきだとの指摘があり、同時に決定過程を透明にするといった対応も課題となる。


◎誰が「指摘」?

経営者も含めた人材獲得のグローバル競争で後れを取る恐れがある。役員報酬を適切な水準へと見直していくべきだとの指摘があり」と書いているものの、最後まで読んでも誰が「指摘」しているのか分からない。この辺りから、どうも怪しい。

海外との比較に関しては、以下のように記している。

【日経の記事】

日本の役員報酬の平均水準は海外を大きく下回る。米コンサルティング会社、ウイリス・タワーズワトソンがまとめた17年度の日米欧主要企業のCEO報酬によると、米国の14億円に対して日本はわずか1.5億円。ドイツや英国、フランスと比べても2~3割の水準にとどまる。

「総中流」時代のなごりで格差への抵抗感が強く、高額な報酬を避ける経営者が多いためだ。報酬が1億円以上だと個別名の開示が必要になるため、「9990万円」程度に抑えるケースも珍しくない。業績や株価に連動する「インセンティブ報酬」の比率が国際的に低いという違いもある。

この結果、日本の役員報酬には「上方硬直性」が生じている。国内上場企業の17年度の役員報酬合計は約8800億円と10年度比で31%増加。だが、業績ほどには伸びていないため、純利益に占める役員報酬の比率は同期間に4%から1.95%へと半減した。


◎株主にデメリットある?

株主の立場で考えると、日本の状況は悪くない。役員報酬を低くしても問題ないなら、低いほど好ましい。記事によると、役員報酬は「31%増加」したものの「業績ほどには伸びていないため、純利益に占める役員報酬の比率は同期間に4%から1.95%へと半減した」という。その上に「ドイツや英国、フランスと比べても2~3割の水準」の役員報酬で済んでいる。株主としては歓迎すべき状況だ。

しかし担当者ら(松川文平記者、北爪匡記者、丸山大介記者)は記事の終盤で「外国人も含めて優秀な経営者を引きつけるには、日本の役員報酬は欧米に見劣りしない水準へと切り替わっていく必要がある」と結論付けてしまう。どの立場で記事を書いているのか。

さらに言うと、米英独仏との比較で「日本の役員報酬の平均水準は海外を大きく下回る」と書くのも感心しない。米英独仏との比較だけでは「日本の役員報酬の平均水準は海外を大きく下回る」かどうかは分からない。「海外」とは米英独仏だけではないはずだ。許容範囲としては「日本の役員報酬の平均水準は欧米を大きく下回る」ぐらいか。欧州も英独仏だけではないが…。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

個別企業でみても報酬と業績の関係はあやふやだ。東京商工リサーチのデータで国内主要100社の取締役ひとりあたりの報酬を算出し、業績動向を反映しやすい時価総額との関係を調べたところ、17年度中に「時価総額が大きく伸びたのに報酬は低位」の会社が2割にのぼった。反対に「時価総額の伸びが鈍いのに報酬は高位」も2割弱あった。

日産は時価総額が約3%増と低成長なのに、報酬額は約2億700万円と全体の平均値を上回る。ゴーン元会長の報酬が過少に記載されていたなら、「低成長・高報酬」の度合いはもっと強かった計算になる。



◎やはり「日本式」がいいのでは?

「役員報酬を増やすと業績がそれ以上に大きく伸びる」といった因果関係が成り立つならば「日本の役員報酬は欧米に見劣りしない水準へと切り替わっていく必要がある」との主張にも説得力が出てくる。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係です

しかし記事では「個別企業でみても報酬と業績の関係はあやふやだ」と解説している。だったらなおさら「役員報酬」は低い方がいい。「役員報酬 きしむ日本流」と見出しで打ち出しているが「きしむ」感じはない。

記事の終盤にも注文を付けておきたい。

【日経の記事】

日本の役員報酬には「決め方が不明確」という問題もある。報酬総額は株主総会の承認が必要だが、どう配分するかは「社長一任」としている企業が多い。歴史的に低い水準の報酬が続き、突っ込んだ議論が求められてこなかったためだ。

一方、米上場企業は「報酬委員会(総合2面きょうのことば)」の設置が義務付けられている。報酬委は外部の有識者などを交え、客観性をもたせながら取締役など個人別の報酬を決めるための仕組みだ。日本で報酬委(任意導入含む)を設置しているのは日立製作所やブリヂストンなどの932社。全上場企業の約26%にすぎない。日産も報酬委はなく、ゴーン元会長は自身の報酬を「お手盛り」で決めていたとされる。

「透明性と緊張感のある報酬制度は競争力の源泉」と一橋大学の伊藤邦雄特任教授は指摘する。外国人も含めて優秀な経営者を引きつけるには、日本の役員報酬は欧米に見劣りしない水準へと切り替わっていく必要がある。報酬委などの活用で透明性を高め、利害関係者の納得を得やすくするといった制度上の工夫がその第一歩になる。



◎報酬委員会で透明性が高まる?

報酬委などの活用で透明性を高め」と書いているので、担当者らは「報酬委員会」を設置すると「透明性を高め」る効果があると考えているのだろう。個人的には賛成できない。

そもそも「報酬委員会」がどのような議論を経て報酬を決めたのか株主に開示されるのか。それがないのならば、株主の立場で言えば「透明性」は基本的に高まらないし、「社長一任」と大差ない。

決め方が不明確」であり「透明性」を高めるべきだと担当者らが感じているのならば、話は簡単だ。「報酬が1億円以上だと個別名の開示が必要になる」今の仕組みを改め、全員の「開示」をまず義務付けたい。

さらに「決め方」を明確にするように規制すればいい。「社長は純利益の1%、副社長は0.5%、それ以外は0.1%」といった具合にすれば「不明確」さはなくなる。株主としてはそれで十分ではないか。

どうしても「優秀な経営者」に高い報酬を与える場合は基準を変えればいい。前述の例で言えば「社長は純利益の10%、他は0.01%」としてもいい。

百歩譲って「外国人も含めて優秀な経営者を引きつける」必要があるとしても、全体の「水準」まで上げるべきだとは思えない。個別に対応すれば済む。なのに担当者らは「日本の役員報酬は欧米に見劣りしない水準へと切り替わっていく必要がある」と断定してしまう。なぜそんなに「役員」の側に立つのか謎だ。


※今回取り上げた記事「役員報酬 きしむ日本流~『ゴーン問題』で注目 水準・透明性に課題
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181201&ng=DGKKZO38423100R01C18A2MM8000


※記事の評価はC(平均的)。担当者ら(松川文平記者、北爪匡記者、丸山大介記者)への評価も暫定でCとする。

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