2018年8月11日土曜日

「富裕層の2%がビジネスジェット保有」に見える日経の説明不足

「日本の富裕層の2%がビジネスジェットを保有している」と聞いて信じられるだろうか。因みに日本での保有機数は90機程度で、民間保有に限るとさらに少ないらしい。どうも辻褄が合わない。しかし、11日の日本経済新聞の記事でホンダジェットの藤野道格社長はそう語っている。藤野社長ではなく、筆者ら(古川慶一記者と杉本貴司記者)に説明不足の問題がありそうだ。
飛び立ったハンググライダー(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 古川慶一様 杉本貴司様

11日の朝刊総合6面に載った「ホンダジェット、上期納入首位 『世界販売絶対負けぬ』 米ホンダエアクラフトカンパニー 藤野道格社長」という記事についてお尋ねします。記事の中で藤野社長は以下のように述べています。

日本にもビジネスジェットを買える人は十分にいるが、保有率が非常に低い。例えば米国では富裕層の18%ほどがビジネスジェットを保有しているとされ、欧州の主要国は8%、日本は2%ほどにとどまる。ポテンシャルは十分だ

ビジネスジェットの日本での保有は90機程度と言われています。日本の富裕層の「2%」がビジネスジェットを保有しているのですから、日本には富裕層が約4500人しかいない計算になります。あまりに少な過ぎませんか。

野村総合研究所では「純金融資産保有額が1億円以上5億円未満」の世帯を「富裕層」、「5億円以上」を「超富裕層」と定義し、日本には2015年時点で121.7万世帯あると推計しています。こちらから計算すると、2万機以上のビジネスジェットが既にあるはずです。

超富裕層」の7.3万世帯で考えても、「2%」の保有比率ならば1000機を超えます。「米国では富裕層の18%ほどがビジネスジェットを保有しているとされ、欧州の主要国は8%、日本は2%ほどにとどまる」という情報は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

例えば「富裕層」の定義を「資産30億円以上」などとすれば、藤野社長の発言と整合するかもしれません。しかし、これでは一般的な定義とかけ離れ過ぎています。独自の定義に基づいて「富裕層」の「2%」などと言っているのであれば、その定義を記事中で明示すべきです。

さらに言うと「日本でも6月にホンダジェットの受注を始めた。ただ、日本の市場は90機弱と小さい」という聞き手側のコメントにも説明不足を感じます。

断りなく「日本の市場は90機弱」と書いてある場合「日本での販売は年間90機弱」と解釈するのが自然です。しかし、「90機弱」というのは「日本での保有機数」を指すと思われます。それを市場規模として使うなとは言いません。しかし「90機弱」が何の数字なのかは明確にすべきです。

業界では顧客の保有機数で市場規模を語るのが常識なのかもしれません。しかし、ほとんどの読者は「常識」を共有していないはずです。その辺りを補って記事を作り上げるのが古川様と杉本様の仕事です。今回はそれができていません。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「ホンダジェット、上期納入首位 『世界販売絶対負けぬ』 米ホンダエアクラフトカンパニー 藤野道格社長
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180811&ng=DGKKZO34074070Q8A810C1EA6000

※記事の評価はD(問題あり)。古川慶一記者への評価はDで確定させる。杉本貴司記者への評価は暫定でDとする。古川記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

悪い意味で無邪気な日経 未来学面「考えるクルマ 街へ空へ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_26.html

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