2018年8月17日金曜日

企業が「土地やマネーを独占」できる? 日経「パンゲアの扉」

16日の日本経済新聞朝刊1面に載った「パンゲアの扉 つながる世界~混沌を超えて(中)資本主義の常識壊す 機会平等の窓ひらく」という記事の問題点を指摘したい。

まず最初の段落から。
中神島(熊本県三角町)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

馬車から車へと人々の移動手段が代わってから130年余り。そのガソリン車の生みの親である独ダイムラーは7月、会社を3分割すると発表した。乗用車、トラック、そしてカーシェアだ。



◎本当に「130年余り」経ってる?

馬車から車へと人々の移動手段が代わってから130年余り」というのは本当なのか。ガソリン自動車の販売が始まったのが1886年と言われているので、そこを起点に「130年余り」と書いたのだろう。しかし、自動車の販売が始まるのと同時に「人々の移動手段」が一気に「馬車から車へと」代わったわけではない。記事の説明は不正確だと思える。

不正確と言う点では「独ダイムラーは7月、会社を3分割すると発表した。乗用車、トラック、そしてカーシェアだ」という説明も同じだ。記事からは「カーシェア」が「乗用車、トラック」と並ぶ三本柱になるとの印象を受ける。

しかし、7月27日付の日経の記事では以下のように報じている。

【日経の記事】

ダイムラーは同じ名称のまま持ち株会社になる。乗用車とバンを担当する新会社は「メルセデス・ベンツ」、トラックとバスは「ダイムラー・トラック」、カーシェアリングなどのサービスと金融は「ダイムラー・モビリティ」の名称のもとで再編され、持ち株会社の傘下に入る。

◇   ◇   ◇

三本柱の1つが「カーシェアリングなどのサービスと金融」と聞くと、話が違って見えてくる。「大きな変化が起きている」と訴えたい気持ちは分かるが、こういうやり方は感心しない。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

カーシェアの普及で2040年までに世界の新車販売が4割減るとの予測もある。乗り捨て放題の手軽さから昨年のダイムラーのカーシェアの利用者は300万人に達した。所有から利用へユーザーをいざなうシェアエコノミーのうねりは抜群のブランド力を誇るダイムラーでさえもあらがえなくなっている。

私有財産制のもと、土地やマネーを独占することが資本主義世界での勝利の方程式だった。企業は人々の所有欲をくすぐり、様々なモノやサービスを売り、そこで得た資金を拡大再生産に振り向け巨大化してきた。



◎そんな「勝利の方程式」ある?

私有財産制のもと、土地やマネーを独占することが資本主義世界での勝利の方程式だった」と書いているが、そんな「方程式」が成り立つのか。そもそも「土地やマネーを独占することが資本主義世界で」可能なのか。実現した企業があれば教えてほしい。

記事で取り上げた「ダイムラー」はもちろん、どんな大企業でも「土地やマネーを独占すること」は基本的に不可能だ。例えばトヨタ自動車が日本の「土地やマネーを独占」できるだろうか。トヨタが「マネーを独占」する社会では、車を買う客がいなくなってしまう。客は「マネー」を1円も持っていないのだから。

今回も「論理展開が強引すぎて記事に説得力がなくなる」という日経1面企画にありがちなパターンにはまっている。



※今回取り上げた記事「パンゲアの扉 つながる世界~混沌を超えて(中)資本主義の常識壊す 機会平等の窓ひらく
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180816&ng=DGKKZO34186710V10C18A8MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。


※「パンゲアの扉 つながる世界」の以前の連載については以下の投稿も参照してほしい。

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_2.html

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_4.html

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_28.html

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_8.html

「小が大を制す」が見当たらない日経1面「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html

今度は「少数言語の逆襲」が苦しい日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html

「覆る常識」を強引に描き出す日経1面「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_95.html

華僑の始まりは19世紀? 日経1面「パンゲアの扉」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/19.html

「覆る常識」というテーマを放棄? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_27.html

「崩れ始めた中央集権」に無理がある日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_82.html

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