2018年8月1日水曜日

自ら「解」を示さないのが惜しい日経1面「人材開国」

日本経済新聞朝刊1面での連載が1日で終わった「人材開国」は合格点を与えてもよい出来だ。今回の連載は「鈴木壮太郎、川手伊織、重田俊介が担当」している。外国人労働者の受け入れに関する3人の問題意識もしっかりと感じられた。1つ注文を付けるとすれば、自ら「解」を示す姿勢が見られなかったことだ。
道の駅太良(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

連載3回の結論部分は以下のようになっている。

【日経の記事(7月30日)】

英国では移民への不満が欧州連合(EU)離脱を決める要因となった。「景気が悪化して仕事がなくなったからといって、すぐに母国に帰ってくれとは言えない」(ゼネコン首脳)。人手不足に悩む企業にも拙速を自戒する声は残る。議論を尽くすときを迎えた。


【日経の記事(7月31日)】

米国では成人の親戚まで呼び寄せる「連鎖移民」が社会問題となっている。安倍政権は外国人材の受け入れ拡大を「移民政策ではない」というが、ほしい人材だけ受け入れようといういいとこ取りの議論で終わらないか。一橋大の森千香子准教授は「事実上の移民政策として議論すべきだ」と説く。外国人を対等な立場で受け入れ、社会の多様性を生かす知恵が問われる。


【日経の記事(8月1日)】

人材開国で先行する国をみても、共生への絶対の正解は見当たらない。だがなし崩しに門戸を開けば、社会に深刻な亀裂を生みかねないのは確かだ。恐れず、たゆまず、新たな成長へ国をどう開くか。百年の計が求められている。



◎議論を求めるだけでは…

議論を尽くすときを迎えた」「社会の多様性を生かす知恵が問われる」「百年の計が求められている」と3回とも似たような結論になっている。「議論を尽くすときを迎えた」のならば、連載を担当した3人が「社会の多様性を生かす知恵」を出してもいいではないか。「百年の計」がどうあるべきかを示してもいい。

せっかく朝刊の1面を使って自らの考えを示す機会を得たのに、それを生かさずに「議論を尽くすときを迎えた」「知恵が問われる」などと解決策を「自分たち以外」の人に丸投げするのは勿体ない。

恐れず、たゆまず、新たな成長へ国をどう開くか」という問いへの答えを、3人は持っていないのだろう。だから「百年の計が求められている」で逃げて連載を締めた--。気持ちは分かるし、それでも記事としては成立している。ただ、もう一段上の完成度を求めるのならば、自分たちなりの解決策を最終回だけでもいいので示してほしい。

1つ勝手に作った例文を示そう。以下のような解説に説得力を感じるだろうか。個人的には「なぜ自らの策は示さないのか。日経の社説か」とツッコミを入れたくなる。

「増税すれば景気の腰を折る恐れがある。しかし、増税を避けたままでは財政状況の悪化に拍車が掛かる。景気後退を避けながら財政健全化を進めるにはどうすべきか議論を尽くす時だ。日本経済の活力を維持するための知恵を集めた国家百年の計が今こそ求められている」


※今回取り上げた記事

人材開国(上) 政策転換 問われる覚悟 起点は人手不足
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180730&ng=DGKKZO33257160R20C18A7MM8000

人材開国(中) 多様性生かす知恵求む 選ばれる国へ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180731&ng=DGKKZO33456670W8A720C1MM8000

人材開国(下) 共生へ百年の計あるか 解なき先行国
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180801&ng=DGKKZO33457200W8A720C1MM8000


※連載の評価はC(平均的)。鈴木壮太郎記者と重田俊介記者への評価は暫定でCとする。川手伊織記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cへ引き上げる。川手記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「転職しやすさが高成長を生む」? 日経の怪しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_75.html

現状は「川下デフレ」? 日経 川手伊織記者への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_22.html

潜在成長率低下の分析が怪しい日経 川手伊織記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_31.html

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