2017年9月21日木曜日

比較が恣意的すぎる週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」

週刊ダイヤモンド9月23日号の特集「株&投信 超理解」の中の「不透明相場にも負けない 長期のコツコツ積み立て」という記事の問題点をさらに指摘していく。この記事で目立つのがご都合主義的な比較だ。まずは「積み立て投資」に関する説明から見ていこう。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

「分散」とは、株や債券など複数の資産にお金を振り分けるだけでなく、積み立て投資に伴う“時間分散”の効果も指す。この観点からも、多くの企業の株式などに分散投資する投信が、資産形成の手段の王道となっている。

積み立て投資の効用が分かりやすいのが下図だ。仮に日経平均株価が最高値を付けた1989年末に同株価指数に一括投資した場合と、毎月積み立て投資をした場合の収益を比較したものだ。

その差は歴然で、同じ対象に同時に投資したにもかかわらず、後者は40%超も資産が増えている。相場が下がった際に多くの買い入れができたためで、これがいわゆるドルコスト平均法だ。



◎なぜ「最高値」の時を選ぶ?

投資初心者が上記の説明に触れたら「そうかドルコスト平均法でやると利益が得られやすいんだ」と思ってしまうかもしれない。しかし、記事での比較はあまりに恣意的だ。「日経平均株価が最高値を付けた1989年末」という「一括投資」には最悪のタイミングを選んで「毎月積み立て投資をした場合」と比べている。これでは「積み立て投資」の成績が良くなるのは当然だ。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線(大分県日田市)
           ※写真と本文は無関係です

こんな比較で良ければ「一括投資」が有利という話も簡単に作れる。バブル後の最安値を付けた2008年の7000円割れの水準から投資を始めれば、運用成績で「一括投資」が「積み立て投資」を圧倒するはずだ。だからと言って「一括投資」が優れているとも、もちろん言えない。これもご都合主義的な比較だからだ。

どんなタイミングで投資を始めても、「積み立て投資」の方が有利と言えるのならば「積み立て投資」を勧めるのも分かる。しかし、そんな根拠はないはずだ。筆者が分かっていて読者を欺くような説明をしたのか、分からずに書いているのかは判然としない。ただ、後者の可能性が高いような気がする。

積み立て投資の効用」を示した記事中の「下図」では「出所:コモンズ投信」と出ていた。投信を売る側にとっては、継続的に資金が入ってきて投資総額も膨らみやすい「積み立て投資」に投資家を誘導したいのは理解できる。投信を売る側の「積み立て投資の方が投資家にとっても有利なんですよ」といった説明を筆者は安易に信じてしまったのかもしれない。

この記事には、他にもご都合主義的な比較がある。

【ダイヤモンドの記事】

「長期・積み立て・分散投資」を続けた結果、複利効果も相まって運用成績に大きな差が出てくることが分かるのが、上右図だ。とりわけ、この図で明らかなのは、国内の株や債券だけでなく、「基本6資産」と呼ばれる国内・先進国・新興国の株と債券に分散投資した場合の運用効果の大きさである。

過去20年の実績を比べると、国内の株・債券に半分ずつ投資した場合と比べ、実に倍以上のリターンをたたき出しているのだ。


◎なぜ「国内の株・債券」と比較?

「国内株」「国内債券」「先進国株」「先進国債券」「新興国株」「新興国債券」を「基本6資産」と呼び、「分散投資した場合の運用効果の大きさ」が「明らか」だと訴えている。「国内の株・債券に半分ずつ投資した場合と比べ、実に倍以上のリターンをたたき出している」そうだ。しかし、これでは「分散」が大切だとは言い切れない。
九州北部豪雨後の福岡県東峰村 ※写真と本文は無関係です

基本6資産」に分散投資した場合と、「国内の株・債券」を外して「4資産」に留めた場合を比べたらどうか。「4資産」が勝つはずだ。「基本6資産」は分散をやり過ぎて運用成績を落としていることになる。分散投資の重要性は否定しないが、記事のような比較はご都合主義との誹りを免れない。

この「上右図」も金融庁の資料で、金融庁自身が分散投資の大切さを説くものではあった。なので筆者に同情の余地はある。ただ、投資に関する解説記事を書くのならば「この金融庁の資料は比較が恣意的だ」と気付いてほしかった。


※今回取り上げた記事「不透明相場にも負けない 長期のコツコツ積み立て
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21287

※記事の評価はE(大いに問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_18.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_94.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_86.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_65.html

なぜ「少額」投資のススメ? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_21.html

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_22.html

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