2017年9月10日日曜日

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問

文藝春秋10月号にジャーナリストの大西康之氏が書いた「深層リポート~産業革新機構がJDI(ジャパンディスプレイ)を壊滅させた」という記事の問題点をさらに指摘したい。まず、これまで「改革」ができなかったのはJDI自身の問題なのか、それとも国の「介入」のせいか。記事を読んでも、よく分からない。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

8月9日の発表した「全社員の3割にあたる約3700人を削減し、主力工場の1つである能美工場(石川県)での生産を停止する」という再建策について、大西氏は以下のように解説する。

【文藝春秋の記事】

(JDIのCEOである)東入來氏がまとめた再建策は、設立から5年間、JDIの歴代経営陣が、大株主の産業革新機構や、その大株主である国の「介入」で、やりたくてもできなかった改革だ。

◇   ◇   ◇

ここからは、JDI自身は改革に積極的に取り組もうとしていたと読み取れる。しかし、読み進めると話が変わってくる。

【文藝春秋の記事】

12年に日立製作所、ソニー、東芝、パナソニック、旧三洋電機(現パナソニック)、セイコーエプソンの中小型液晶事業を統合して発足したJDIは、各社の液晶工場と人員を引き継いだ。いわば、各社の「お荷物」を1つにまとめたような会社なのだ。

(中略)工場と人員が多すぎることは誰の目にも明らかだったが、母体企業の背番号を背負った役員には「うちの工場だけは閉めさせるな」と圧力がかかる。キャッシュフローを改善するために「固定費を削減しよう」などと言い出せば「おたくの工場からどうぞ」と言われかねない。

◇   ◇   ◇

こちらの記述を信じれば、産業革新機構や国の「介入」がなくても、「改革」は無理だったと思える。話の辻褄が合っていない。
九州北部豪雨後の宝珠山駅(福岡県東峰村)
           ※写真と本文は無関係です

もう1つ気になるのが「産業革新機構がJDIを壊滅させた」というタイトルだ。なぜ「経済産業省」や「」ではなく「産業革新機構」なのかという問題を考えてみたい。

【文藝春秋の記事】

シャープを鴻海に奪われたことは技術流出を忌み嫌う経産省の痛恨事。だからこそ、その対抗軸であるJDIには金も出し、口も出して、過剰なまでに介入した。その過干渉がJDIの経営を歪めている。JDIの元幹部の1人はこう打ち明ける。

「中国のスマホメーカーからの注文が激減し、茂原と東浦の減損処理に踏み切った時も、経産省から『アベノミクスの失敗のように見える施策は困る』と圧力がかかった。震源地は官邸でした。蘇州工場で人員削減を計画した時も『ジャパンの名前がついた会社で労働争議が起きたら政治問題になるんじゃないか』と圧力がかかりました。圧力をかけたのは菅義偉官房長官に近い前商務情報政策局長(現中小企業庁長官)の安藤久佳、首相秘書官の今井尚哉ら、経産省の企業経営への介入を是とするターゲティング派とされています」

◇   ◇   ◇

別のところでは、白山工場の建設について以下のように記している。

【文藝春秋の記事】

しかし「建設中止」はJDIの一存で決められない。JDIの経営陣は大株主である産業革新機構にお伺いを立て、産業革新機構は生みの親である経産省に打診する。すると経産省から産業革新機構に御下問があり、産業革新機構の担当者がJDIの経営陣に問い合わせを入れてくる。

◇   ◇   ◇

これらを総合すると、JDIに圧力をかけてくる実質的な主体は「経産省」あるいは「官邸」だ。産業革新機構は間に立つ伝言役に過ぎない。なのになぜ「産業革新機構がJDIを壊滅させた」と打ち出したのか。「経産省がJDIを壊滅させた」の方がしっくり来る。実質的な決定権を持たない窓口役の「産業革新機構」を前面に押し出して「壊滅させた」などと見出しを立てても、あまり意味がない。
鳥栖プレミアム・アウトレット(佐賀県鳥栖市)
            ※写真と本文は無関係です

ついでに言うと、経産省が「過剰なまでに介入した」のかどうかも疑問だ。「茂原と東浦の減損処理に踏み切った時も、経産省から『アベノミクスの失敗のように見える施策は困る』と圧力がかかった」と大西氏は書いている。

この説明を信じれば、圧力に逆らって「減損処理に踏み切った」のだろう。だとすれば「過干渉がJDIの経営を歪めている」例にはならない。

蘇州工場の人員削減」については実現したのかどうか記事からは分からない。ただ、「ジャパンの名前がついた会社で労働争議が起きたら政治問題になるんじゃないか」と言われただけならば、大した「圧力」とも思えない。「人員削減はいいが、政治問題にならないように慎重にやってくれよ」というメッセージとも取れる。「過剰なまでに介入した」と言うほどではない。

そもそも、経産省がそれほど「改革」に消極的ならば、「全社員の3割にあたる約3700人を削減し、主力工場の1つである能美工場(石川県)での生産を停止する」という再建策を今回はなぜ決められたのかとの疑問が残る。

経産省の方針が変わったのか。それとも経産省の圧力に逆らってCEOの東入來氏が再建策をまとめたのか。大西氏は「過去のしがらみにとらわれず、大ナタを振るおうとする東入來氏の勇気は讃えられるべきかもしれない」とは書いているが、今回の再建策を決める過程で経産省(あるいは産業革新機構)がどういう意向を持っていたのかには触れていない。

改革」が遅れたのはJDI自身の問題なのか、経産省の圧力のせいなのか。ここに来て「改革」が動き出したのは、経産省が変わったのか、JDIが経産省に反旗を翻したからなのか。そして、本当に経産省は過去に「過剰なまでに介入した」のか。色々なことがよく分からない記事だった。


※今回取り上げた記事
深層リポート~産業革新機構がJDI(ジャパンディスプレイ)を壊滅させた


※記事の評価はD(問題あり)。今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html


※大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

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