宝満川(福岡県久留米市・佐賀県鳥栖市) ※写真と本文は無関係です |
1面の記事のベースになったとみられる「東芝半導体、日米韓と売却契約 アップルも資金」という電子版の記事(28日23時48分)には「(ウエスタンデジタルとの)係争が終結した後に官民ファンドの産業革新機構と日本政策投資銀行も東芝メモリに資本参加する」との記述がある。しかし、紙の新聞には出てこない。
紙面化する段階で1面に残せなかったのは仕方ないかもしれないが、総合2面や企業総合面で「産業革新機構」と「日本政策投資銀行」について、きちんと解説することはできたはずだ。日本の半導体メーカーの歴史をおさらいするのもいい。ただ、それは今回発表になった内容について十分に分析した後の話だ。
また、今回付与された「指図権」には分からないことが多い。日経は「東芝が保有する議決権の一部を2社に供与」と書いているが、「一部」とはどの程度なのか。
それに、なぜ「指図権」を付与するのかも謎だ。総合2面の記事では「『2期連続の債務超過で株式上場廃止』との東京証券取引所規定があるが、東芝は17年3月末で自己資本が5529億円のマイナスとなる債務超過だった。売却が完了すれば自己資本を7千億円強押し上げ、2千億円規模のプラスになる」と解説している。債務超過を解消できて上場を維持できるのならば、「産業革新機構」と「日本政策投資銀行」が抜けたままのスキームでも問題なさそうに思える。
何らかの事情があって「指図権」を付与するのだろうが、29日の日経朝刊には何の説明もない。この点に関心を持って、翌日30日の朝刊を見ると総合6面に「東芝、半導体枠組み多難」という続報が出ていた。しかし、疑問に答えてくれるほどの中身ではなかった。
「議決権構成 多い船頭、意思決定遅く」という見出しが付いた部分を見てみよう。
【日経の記事】
東芝メモリの議決権は東芝とHOYAの日本勢が過半を握る。一方、産業革新機構と日本政策投資銀行は、WDとの係争が終わるまで出資しない。その代わり、東芝が持つ議決権の一部を間接的に行使できる「指図権」と呼ばれる権利を手に入れる。
革新機構などは資本参加するまでの間に、東芝メモリの新経営陣が、革新機構などに不利な意思決定をしないよう監視できるメリットがある。例えば、東芝メモリの株主総会で東芝に対し決議の方向を指図できる。
東芝には東芝メモリの経営に両社が関与できる余地を残すことで、確実に出資してもらう狙いがあると見られる。ただ、指図権付与は国内では珍しく、どういった運用になるのか疑問の声も多い。
議決権のない優先株を取得するアップルなど米IT(情報技術)4社が、製品を引き取る権利にとどまらず、相応の発言力を持つ可能性もある。迅速な意思決定が競争力を決める半導体業界のなかで、船頭の多さは東芝メモリの経営の足かせになりかねない。
◎読むべき中身がないような…
30日の記事でも謎は解けないままだ。「議決権の一部」がどの程度なのかは、やはり教えてくれない。「東芝には東芝メモリの経営に両社が関与できる余地を残すことで、確実に出資してもらう狙いがあると見られる」とも書いているが、既に債務超過を解消できる仕組みが整っているのに、なぜ「確実に出資してもらう」必要があるのかも不明だ。「指図権付与」が「確実に出資してもらう」可能性を高めるものなのかも明確ではない。結局、疑問が膨らむばかりだ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です |
日経の記者も「きちんと説明できていない」と言うより「自分たちも分からない」のだとは思う。だとしたら、自分たちにも分からないことは何なのかを記事中で明示してほしかった。そうすれば「今後はそこを取材してくれるだろう」との期待が持てる。今回のような内容だと、あまり読む意味がない。
付け加えると、「船頭の多さは東芝メモリの経営の足かせになりかねない」と言うが、議決権を持つのは産業革新機構と日本政策投資銀行を加えても5者で、大した数ではない。銀行や大口取引先が経営にある程度の影響力を持つのも、ごく普通だ。「経営の足かせになりかねない」と言うほど「船頭」は多くない気がする。東芝メモリの「船頭」が多過ぎだとしたら、上場企業は全て「船頭の多さ」が「経営の足かせ」になっているはずだ。
※今回取り上げた記事「議決権構成 多い船頭、意思決定遅く」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170930&ng=DGKKZO21743130Q7A930C1EA6000
※記事の評価はD(問題あり)。29日の東芝関連の記事については以下の投稿も参照してほしい。
「東芝は日の丸メモリー最後の生き残り」と日経は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_99.html
「東芝、日米韓と売却契約」疑問ばかり浮かぶ日経の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_29.html