豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です |
まず「本当に劣化しているのか」について考えてみたい。本来ならば、例えば刑事事件で摘発された議員数といった客観的なデータに基づいて論じたいところだ。しかし、記事で語られるのはかなり漠然とした話だ。
【日経の記事】
政治の世界をみていると、出てくるのはお粗末な話ばかりである。
自民党内では2012年の衆院選で初当選した「魔の2回生」といわれる議員をはじめとして、ワイドショーをにぎわす不祥事が次から次へと発覚。離党、釈明会見……と目をおおわんばかりだ。
抜てきされた女性の防衛相もむざんな辞め方を余儀なくされた。改造内閣でも初入閣の閣僚が「役所の原稿を朗読する」と口走り説明を迫られるなど情けないありさまだ。
◎単純に「劣化」で片づけられる?
「離党、釈明会見」や「(閣僚の)むざんな辞め方」は昔から当たり前にあった。「そんなことはない。最近はすごく増えている」と芹川論説主幹が信じるのならば、その根拠を示してほしかった。
九州北部豪雨後の九州横断自動車道(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です |
いつと比べての「劣化」なのか明示していないのも気になったが、「激しい権力闘争を繰りひろげていた昭和の政治家には良しあしは別に貫く棒のようなものがあった」と述べているので、芹川論説主幹としては「昭和の政治家」を比較対象にしているのだろう。
だが、「昭和の政治家」の方が立派だったとは言い切れない。時代の変化が「劣化」しているように見せている面もあるからだ。秘書に対する女性議員の暴言が問題となったが、この件を受けて「昔の政治家で秘書に暴言を吐く者は少なかったのに、最近は目立って増えてきた」と考えるべきだろうか。暴言に対する社会の姿勢が厳しくなり、さらにはICレコーダーという「昭和」にはなかった機器が使えるようになったから大きな問題になったのではないか。
「昭和」の頃は「経済一流、政治は三流」とよく言われた。「経済一流」が怪しくなってきたので最近はほとんど耳にしない。この「政治は三流」の時代を芹川論説主幹が必要以上に「昔は良かった」と振り返っている印象は受けた。事情はもう少し複雑な気がする。
さて、政治家の「劣化」を受けて、芹川論説主幹が提案するのが「回転ドア」だ。記事では以下のように書いている。
【日経の記事】
戦争の経験がなく、貧しさも知らず、イデオロギー対立とも無縁の中で育ってきた純粋培養の政治家に過去を押しつけても仕方がない。肝心なのは政治家の劣化を食いとめるにはどうするかの方法論である。
ひとつの方法は外部の血をいれることだ。公務員から国会議員になり、また公務員に戻るのを認める休職制度を設けている国がある。
国立国会図書館の調べによると、ドイツやフランスは法律で定めており、オーストリアは憲法で明文化している。
外から政治の世界に入り、また元に戻る「回転ドア」の制度化は考えていい。
◎「劣化の理由」と整合しないような…
政治家の「劣化の理由」として芹川論説主幹は「議員の属性」「選挙制度」「議員の教育」の3つを挙げ、「選挙制度」のところで「1993年の衆院選が最後の中選挙区を知る議員は異口同音に、小選挙区でどんどん交代する議員のあり方に疑問を投げかける」と書いている。
国立病院機構大分医療センター(大分市) ※写真と本文は無関係です |
「小選挙区でどんどん交代する」のが好ましくないのに「回転ドア」を制度化して「劣化」を防げるのか。「回転ドア」制度が広く利用された場合、「どんどん交代する」をさらに加速させるだけだろう。
「議員の属性」の説明ともあまり整合しない。
【日経の記事】
自民党は候補者の選定で公募を原則にしている。政治のアマチュアにも門戸を開き、広く人材を求めるやり方は間違っていない。
一般公募の場合「高学歴・留学経験・専門職」が選ばれるケースが目立つという。選抜する都道府県連の幹部は、コンプレックスもあってどこかスマートな印象で選んでしまうらしい。ところが当選すると「地方議員に会おうとしない。あいさつしない。地元を回ろうとしない」と、ある政府高官は手厳しい。
◎「公務員」なら大丈夫?
公募で選んだ「高学歴・留学経験・専門職」の人が「政治家の劣化」を招いていると取れる書き方だ。これを「回転ドア」制度の導入で「公務員」と入れ替えて「外部の血」を入れていけば「劣化」に歯止めがかかるのだろうか。「公務員」の場合、キャリア官僚が中心となるはずだ。「高学歴・留学経験・専門職」の人と似たり寄ったりではないか。「外部の血」としての質に大きな差は感じられない。
芹川論説主幹の分析が正しいとの前提で考えれば、「劣化」を食い止めるもっと簡単な方法がある。それは「議員の教育」だ。
【日経の記事】
自民党の教育訓練機関は派閥だった。派閥によって政治家としての立ち居振る舞い、政治資金の集め方、陳情の処理、官僚との付き合い方など教えこんだものだ。
ところが派閥が壊れ、単なる議員の集まりになってそうした機能がなくなった。
◎だったら党が教育すれば…
「派閥」に教育機能がなくなっているのならば、党本部が教育機能を担えばいい。若手議員に「政治家としての立ち居振る舞い、政治資金の集め方、陳情の処理、官僚との付き合い方」などを教え込む仕組みを作れば済む話だ。「回転ドア」よりも効果が高そうな気がするし、党で決めればいいだけなので制度導入も容易だ。
※今回取り上げた記事「核心~なぜ政治家は劣化したか 『回転ドア』で質の向上を」
https://www.blogger.com/blogger.g?blogID=6389495891574633352#editor/target=post;postID=1230229780608537142
※記事の評価はC(平均的)。芹川洋一論説主幹への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。芹川論説主幹については以下の投稿も参照してほしい。
日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html
日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html
日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html
日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html
日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html
「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html
日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html
日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html
日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html
「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html
ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html
日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html
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