2017年7月3日月曜日

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」

3日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「小池系が過半数、自民惨敗 都議選 
安倍政権に打撃 都民フが第1党 」という記事には、大石格編集委員による解説記事が付いている。その見出しは「対決型政治に限界」。だが、「限界」を感じるのは「対決型政治」よりも大石編集委員の書き手としての力量だ。読むべき部分はあまりなく、正確さにも欠ける。順に見ていこう。
大丸福岡天神店(福岡市中央区)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

1950年代に流行したロックンロール。軽快なビートが世界を席巻した。だが、すてきな新商品を売り出せば世間が飛びつくとは限らない。

ジョン・レノンはこう振り返っている。「エルビス以前には何もなかった」。ブームが起きるには、新たなトレンドと同時に、現状への強い不満が必要だ。

裏返せば、都民ファーストの会の勝因探しばかりしていても、いまの政治の潮流は見えてこない。要するに、自民党が勝手にこけたのだ。

閣僚らの不穏当な言動が自民党候補の足を引っ張ったのは間違いない。「長期政権の緩み」と評する向きが多いが、根はもう少し深いのではなかろうか。


◎問題点が多すぎる…

最初の3段落で既に多くの問題点を露呈している。

まず、「ロックンロール」の話が生きていない。今回の都議選とどう重なるのかが描けていない。「ロックンロール都民ファーストの会」「エルビス小池百合子都知事」と言いたいのだろうか。だが、1950年代にどんな「現状への強い不満」があったのか記事では触れていない。これでは、今の政治状況と重ねて「なるほど」と納得はできない。しかも「都民ファーストの会」が「すてきな新商品」かどうかも微妙だ。

記事を読むと「ロックンロール=エルビスがゼロから作り上げた音楽」との印象を抱いてしまう。これも問題ありそうな気がする。

3月19日付の「チャック・ベリーさん死去=ロックの創始者、90歳-米」という時事通信の記事には以下の記述がある。

【時事通信の記事】

86年にロックの殿堂入り。その際、殿堂は「ロックンロールの創始者を誰か一人に絞ることはできないが、最も近い存在はチャック・ベリーだ」と功績をたたえた。

◇   ◇   ◇

日経の記事に出てくる「裏返せば、都民ファーストの会の勝因探しばかりしていても、いまの政治の潮流は見えてこない。要するに、自民党が勝手にこけたのだ」という解説も苦しい。まず「裏返せば」になっていない。「裏返せば」と言う場合、表から見るか裏から見るかの違いだけで、同じことを言っている話にする必要がある。「日本は山地が多い」を裏返すと「日本は平地が少ない」といった具合だ。
千仏鍾乳洞(北九州市)※写真と本文は無関係です

今回の記事であれば、「裏返せば、現状への強い不満がある場合、ブームを起こすのは難しくない」といった書き方ならば分かる。しかし、そうはなっていない。ロックンロールから都議選に話自体が移ってしまっている。

その上に「要するに、自民党が勝手にこけたのだ」との見方が当たり前すぎる。世の中全体が「都民ファーストの会」の強さにばかり目を向けているのならば、記事のような書き方でいい。だが、「自民党が勝手にこけた」と多くの人が感じているはずだ。ロックンロールの話まで持ち出して「自民党が勝手にこけたのだ」と分析する意味があるのか。「そんなことは分かってるよ」と返したくなる。

大石編集委員の記事には、さらに問題が続く。今度は記事の後半を見ていく。


◎「たまたま権力者と親しかった」?

【日経の記事】

そこに起きたのが、一連の不祥事だ。なお戦略を変えず、「怪文書のたぐい」などと切って捨てたことは、有権者が抱いていた安倍政権への不信感を一気に増幅した。

特区制度が成長戦略の重要な柱のひとつであることは理解できる。その選定を巡り、賄賂が動いた風でもない。たまたま権力者と親しかった。法的には何の問題もない。だけど……である。かかわっていたのは、日本の美徳の体現者のような顔をしてきた面々なのだ。

理屈の話ならば政権も打つ手があろう。だが、ひとの行動を最後に左右するのは感情だ。

◇   ◇   ◇

記事では「たまたま権力者と親しかった」と断定しているが、何を根拠にそう言い切っているのだろうか。文部科学省が公表したメールなど様々な状況証拠から判断すると「たまたま権力者と親しかった」だけと信じる気にはなれない。「たまたま権力者と親しかった」だけと断定できる材料を大石編集委員が持っているのならば、記事で明示してほしかった。

理屈の話ならば政権も打つ手があろう」というくだりも問題がある。「感情の話だと政権も打つ手がない」とでも言いたいのだろうか。だが「『怪文書のたぐい』などと切って捨てたことは、有権者が抱いていた安倍政権への不信感を一気に増幅した」という分析が正しければ、打つ手はあったはずだ。「『怪文書のたぐい』などと切って捨て」ずに、真摯で丁寧な説明をすれば「安倍政権への不信感を一気に増幅」させずに済んだのではないか。そんなに難しい話ではない。

記事の終盤に関して、もう1つ指摘しておきたい。


【日経の記事】

昨年、あるカリスマ経営者が業績が悪いわけでもないのに突然、地位を追われた。身びいきがあったとかなかったとか。誰が見ても明らかとまでは言い切れない問題の当否は難しい。それでも反乱は起きるのだ。



◎「突然、地位を追われた」?

上記のくだりはセブン&アイ・ホールディングスの会長などを務めた鈴木敏文氏のことを言っているのだろう。だとしたら事実誤認がある。鈴木氏は「地位を追われた」のではない。自分の推す人事案が取締役会で否決されたのを受けて、自ら退任を決めている。

「『あるカリスマ経営者』は鈴木氏ではない」と大石氏は言うかもしれないが、記事の書き方だと鈴木氏に言及していると思われても仕方がない。

ここまで記事の問題点を列挙してきた。大して長くもない記事にこれだけ粗が目立つのだから、大石編集委員の書き手としての能力に「限界」が見えているのは間違いない。


※今回取り上げた記事「対決型政治に限界
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170703&ng=DGKKZO18390940T00C17A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

0 件のコメント:

コメントを投稿