2017年7月15日土曜日

現状は「川下デフレ」? 日経 川手伊織記者への疑問

一生懸命に書いているのは伝わってくるし、問題意識も感じる。それでも、15日の日本経済新聞朝刊総合4面に載った「『川下デフレ』崩せるか 消費財、節約志向で値下げ圧力 生産性向上、賃上げ欠かせず」という記事には色々と注文を付けざるを得ない。

豪雨で流された夜明橋(大分県日田市の大肥川)
            ※写真と本文は無関係です
記事を見ながら、具体的に指摘していく。

【日経の記事】

人手不足に伴う賃上げや景気回復を背景に、外食産業などを中心に真剣に値上げを検討する企業が増えてきた。ところが家計は節約志向が染みついており、小売りなど消費者に近い「川下」ほど価格転嫁しにくい構図はさらに強まっている。日本の物価上昇を阻んできた「川下デフレ」のぶ厚い壁を崩すことができるだろうか


労働市場の逼迫で企業の人件費はかさんでおり、リクルートジョブズ(東京・中央)がまとめた5月のアルバイト・パート時給は前年同月より2.3%高い1006円だ。昨年12月につけた過去最高額に並んだ。

原材料価格も上昇が止まらない。中国の景気回復期待から銅や亜鉛など非鉄金属の国内価格が上昇。スマートフォン(スマホ)市場の拡大などで、半導体メモリーの価格も上がっている。
豪雨で流された夜明橋(大分県日田市の大肥川)
      ※写真と本文は無関係です

この結果、日銀が企業間で取引するモノの価格を調べた6月の企業物価指数をみると、素原材料は22.9%も上昇した。ただ部品など中間財の上昇率は4.4%、消費財となるとわずか0.5%どまり。流通段階の川下に行くほど物価の伸びは鈍い構図だ。家計が直接触れる価格をまとめた5月の生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)もプラス0.4%だ。

末端の消費者に近くなるほど価格転嫁が難しく、値下げ圧力が強まる「川下デフレ」現象は、過去の物価上昇局面と比べても際立っている。例えば原油バブルがピークに達した2008年8月のCPIは2.4%上がった。日銀の異次元金融緩和による円安で輸入コストが膨らんだ13年12月も1.3%上昇した。


◎「川下デフレ」の壁は崩すべき?

小売りなど消費者に近い『川下』ほど価格転嫁しにくい」状況を筆者の川手伊織記者は「川下デフレ」と呼んでいる。まず気になるのが、この状況を打破すべきとの前提に立っている点だ。記事の最後でも「長年の『川下デフレ』を崩せるかどうかは時間との勝負といえそうだ」と書いている。

素原材料は22.9%も上昇した」一方で、消費者物価指数は「プラス0.4%」。物価安定を良しとするならば、悪くない状況だ。日銀の物価目標が2%だとしても、川手記者がそれに縛られる必要はない。「企業は自社の利益を食いつぶしてコストを吸収」しているとしても、一方で消費者はコストを負担せずに済む。「日本経済にとっては消費者がコストを負担するのが好ましい」と言えるわけでもない。

川下デフレ」は「明らかに解消すべき状況」とは思えない。なのになぜ「『川下デフレ』のぶ厚い壁を崩すことができるだろうか」という問題提起になるのか。


◎そもそも今は「川下デフレ」?

そもそも「川下デフレ」と呼べる状況なのかどうかも疑問だ。企業物価も消費者物価もマイナスにはなっていない。これでは苦しい。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

川手記者は「末端の消費者に近くなるほど価格転嫁が難しく、値下げ圧力が強まる」状況を指して「『川下デフレ』現象」と呼んでいるが、こうした傾向が読み取れるとも言い切れない。

素原材料は22.9%も上昇した。ただ部品など中間財の上昇率は4.4%、消費財となるとわずか0.5%どまり。流通段階の川下に行くほど物価の伸びは鈍い構図だ」という説明は分かる。だが、「5月の生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)」は「プラス0.4%」で企業物価の「消費財」と大差ない。

つまり大まかに言えば、企業間取引での消費財の値上がり分は小売価格に転嫁できている。「小売りなど消費者に近い『川下』ほど価格転嫁しにくい」とは考えにくい。

川手記者は「第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストの試算によると、製造業のコスト吸収額は今年1~5月だけの累計で4兆円に達する」とも書いている。これが正しいとすると、メーカー(製造業)から卸や小売りに販売する段階での価格転嫁が難しいと理解する方が自然だ。しかし、なぜか小売価格(消費者への販売価格)への転嫁が難しいとの前提に立って話が進んでしまう。そこが惜しい。


※今回取り上げた記事「『川下デフレ』崩せるか 消費財、節約志向で値下げ圧力 生産性向上、賃上げ欠かせず
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170715&ng=DGKKASFS08H0Y_T10C17A7EA4000

※記事の評価はC(平均的)。川手伊織記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cに引き上げる。川手記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「転職しやすさが高成長を生む」? 日経の怪しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_75.html

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