2017年7月25日火曜日

「脱時間給」必要性の説明に無理あり 日経 山口聡記者

毎度のことではあるが、「脱時間給」に関する日本経済新聞の記事は論理展開に無理がある。経営側に都合がいいこの制度を、労働者にとっても好ましいように書こうとして辻褄が合わなくなるのが、いつものパターンだ。25日朝刊経済面の「『脱時間給』で綱引き 政労使、調整急ぐ 生産性向上に期待/長時間労働に懸念」という記事と、「働き方、成果に応じ効率的に」という解説記事(筆者は山口聡記者)も内容に矛盾がある。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市
       ※写真と本文は無関係です

まず、解説記事から見ていこう。

【日経の記事(解説)】

長時間会社にはいるものの、目立った成果をあげていないAさんと、夕方になるとさっと引き揚げるが、いつも成果を出すBさん。この2人のうちAさんの方が給料が多いと言われると多くの人が違和感持つのではないだろうか。働いた時間ではなく、成果に着目して給料を支払う「脱時間給制度」が実現すれば、この違和感は払拭されるかもしれない

日本企業ではいまだに長く会社にいることを評価する向きがある。有給休暇の取得もなかなか進まない。こんな状態を続けていては時間当たりの生産性も上がるはずがない。労働人口が減る中で労働者をいつまでも会社に長く縛り付けておけるはずもない。脱時間給制度を契機に日本人の働き方を今こそ効率的に変えなければならない

◇   ◇   ◇

これだけ読むと、「脱時間給制度がないから日本人は効率的な働き方ができないのかな?」と感じる人がいるかもしれない。だが、「『脱時間給』で綱引き」という記事では以下のようにも書いている。

【日経の記事】

脱時間給の概念をいち早く取り入れている企業もある。ネスレ日本は昨年7月からマーケティングなど企画業務型の社員を対象に導入した。今年4月から工場のシフト勤務などを除き、全社員に広げている。

会社の都合で発生した時間外労働には残業代を支払うなどの例外措置はあるが、労働時間で評価する仕組みを原則撤廃した。16年12月の1人当たり売上高は13年同月比で2割弱増加し、生産性も向上した。「社員に短い時間で最大の効果を上げようとする意欲が高まった」(同社)という。


◎制度新設の必要ある?

山口記者は「脱時間給制度を契機に日本人の働き方を今こそ効率的に変えなければならない」と訴える。だが、「ネスレ日本」の事例は、現行制度の下でも「脱時間給の概念」を採り入れられると示している。同社で「労働時間で評価する仕組みを原則撤廃した」ところ、「16年12月の1人当たり売上高は13年同月比で2割弱増加し、生産性も向上した」と日経自身が書いている。
豪雨被害を受けた福岡県東峰村 ※写真と本文は無関係です

つまり、新たに「脱時間給制度」など導入しなくても「労働時間で評価する仕組み」は「原則撤廃」できる。なのに、なぜ新たな制度を作る必要があるのか。今の法制度の下で「ネスレ日本」と同様の改革を進めて効率性を上げればいいではないか。

脱時間給制度」を幅広く適用できるようになれば、「ネスレ日本」は「会社の都合で発生した時間外労働には残業代を支払うなどの例外措置」を撤廃できるだろう。そこは変わるかもしれない。そう考えると、「脱時間給制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)」という日経の言葉の使い方に問題を感じる。これはやはり「残業代ゼロ制度」と呼ぶ方が適切だ。

山口記者が例に挙げた「長時間会社にはいるものの、目立った成果をあげていないAさんと、夕方になるとさっと引き揚げるが、いつも成果を出すBさん」に関しても、「違和感」は現行制度の下でも簡単に払拭できる。両者の給与に最初から差を付ければいいだけだ。例えば、年俸制でAさんは年収500万円、Bさんは2000万円をベースにすれば、別途支払う残業代でかなりの差が出ても「Aさんの方が給料が多い」とはならないはずだ。残業を原則禁止し許可制にすれば、さらに問題はなくなる。

山口記者は「AさんとBさんの基本給は同じ」という前提を置いているように思えるが、それは会社の方針で何とでもなる。「成果に着目して給料を支払う」ことは「脱時間給制度」がなくても十分に可能だ。それを強引に結び付けてしまうから、おかしな主張になってしまう。


※今回取り上げた記事

『脱時間給』で綱引き 政労使、調整急ぐ 生産性向上に期待/長時間労働に懸念
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170725&ng=DGKKZO19200150U7A720C1EE8000

働き方、成果に応じ効率的に
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170725&ng=DGKKZO19200200U7A720C1EE8000


※記事の評価はD(問題あり)。山口聡記者への評価はDを維持する。山口記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

山口聡編集委員の個性どこに? 日経「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_76.html

問題目立つ日経 山口聡編集委員の「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_29.html

日経「地方の医師不足 解消進まず」 山口聡記者の不正確な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_10.html

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