2017年7月4日火曜日

柳井正氏の責任問わぬ週刊ダイヤモンドのユニクロ特集

週刊ダイヤモンド7月8日号の特集「ユニクロ 柳井正 最後の破壊」は一言で表現すれば「柳井正礼讃特集」だ。「どこかで似たような記事を読んだような…」と考えていたら思い出した。それは同誌2015年6月6日号の特集「流通最後のカリスマ 鈴木敏文の破壊と創造」だった。タイトルもそっくりだ。そして、どちらもカリスマ経営者に擦り寄るような中身になっている。
小倉城(北九州市)※写真と本文は無関係です

まずは今回のユニクロ特集の最初に出てくる「Prologue~大変革の拠点で起きた 知られざる混乱の真相」という記事を見た上で、問題点を指摘したい。


【ダイヤモンドの記事】

2016年末、ファーストリテイリング(ファストリ)の執行役員がまた一人、同社を後にした。辞めた役員とは、外部企業出身の物流の総責任者である。

来る者も多いが去る者もまた多いファストリでは、もはやおなじみの役員退社。しかし、その裏には同社にとっても決して「おなじみ」とはいえない大混乱が広がっていた。

震源地は16年春に稼働を開始したばかりの東京・有明の巨大物流倉庫。最上階のオフィス部分は、その高級ホテルのような空間が今年3月、マスコミに公開されたばかりだ。が、その下の倉庫部分では、“音なき緊急アラーム”が響き渡っていた。

ファストリは今、「世紀の大変革」の真っただ中にある。デジタル化といった時代の波を乗り切るため、従業員の働き方からサプライチェーンの在り方まで、全てを抜本的に改革しようと動いているのだ。

中でも、他に先駆けて改革に動いたのが物流だった。14年、前述の有明の物流倉庫を大和ハウス工業と共同で建て、共に運営すると帝国ホテルで華々しく発表した。リアルタイムの販売状況に合わせ、商品を短時間で仕分けて配送するという、効率を極めた物流拠点の構築に着手したわけだ。

有明は物流改革の中心地であるとともに、大変革全体の拠点にもなった。業務速度を上げるため、eビジネス(インターネット販売など)の“現場”である物流倉庫の最上階に広大なオフィスをワンフロアで展開。ユニクロの商品企画やマーケティング担当者など、約1000人を配置した。

大変革は水面下で着々と進んでいる。例えば、生産を委託している有力な協力工場には、効率化の一環で、工場に物流施設を併設してもらう方向で動いているもようだ。実店舗の品ぞろえも、店側の意見をより多く取り入れて決められる体制を目下、模索中だ。

ところが、冒頭の通り、肝心要の有明の倉庫部分で緊急アラームが鳴っている。いったい何が起こったというのか。

まず、物流倉庫内のオペレーションの不備によって想定外の費用が膨れ上がった

有明の物流倉庫は、海に囲まれた場所にある。一般的に臨海地での物流業務には、高い専門性を必要とする商習慣があり、適切に対処しないとビジネスが行き詰まってしまう

小売業界にも、失敗の前例はあった。にもかかわらず、冒頭の物流担当役員はこうした商習慣への対処を取引企業に「丸投げ」(柳井正・ファストリ会長兼社長)してしまった。こうして、高額な費用負担を余儀なくされるという、のっぴきならない状況に陥った

また、物流倉庫内部の仕組みにしても、そもそも柳井会長が求める効率化のレベルに全く達していなかった。

一時は、有明内部のオペレーション効率は当初の目標の「半分にも達していない」と、物流業界の関係者の間でささやかれたほどだ。

当然ながら怒り心頭に発した柳井会長の号令により、有明の物流倉庫は今、稼働からわずか1年にして“完全リフォーム”で仕組みごと変えられようとしている。


◎柳井氏には責任なし?

東京・有明の巨大物流倉庫」の運営がうまくいかず、「外部企業出身の物流の総責任者」が会社を去ったらしい。記事では「平たく言えば、物流担当役員の“クビ”」だとも書いている。「有明は物流改革の中心地であるとともに、大変革全体の拠点にもなった」のであれば、会社のトップである柳井氏も意思決定に関わっているはずだ(関わっていないのであれば、怠慢の誹りを免れない)。なのに取材班は柳井氏の責任を問おうとはしない。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係です

物流倉庫内部の仕組みにしても、そもそも柳井会長が求める効率化のレベルに全く達していなかった」「怒り心頭に発した柳井会長の号令により、有明の物流倉庫は今、稼働からわずか1年にして“完全リフォーム”で仕組みごと変えられようとしている」などと、柳井氏には何の責任もないような書き方をしている。

特集の中には柳井氏へのインタビュー記事もあるが、当然に同氏の責任を問うたりはしない。さらには「今回の有明の大変革もそうですが、柳井会長は『破壊と創造』を繰り返してここまで会社を成長させてきました。なぜ成功体験をあっさり捨てられるのですか?」などと柳井氏を持ち上げるような質問を連発していく。

鈴木敏文氏についても、ダイヤモンドは似たスタンスを取っていた。セブン&アイホールディングス傘下のイトーヨーカ堂の経営不振について、鈴木氏の責任を厳しく追及しようとはしなかった。取材班の顔ぶれは変わってもダイヤモンドのヨイショ体質は変わらないということだろうか。

さらに言えば、この記事で話の中心になっている「東京・有明の巨大物流倉庫」の話が漠然とし過ぎている。「肝心要の有明の倉庫部分で緊急アラームが鳴っている。いったい何が起こったというのか」と問題提起をしてみたものの、「何が起こった」のか最後まで見えてこない。

記事によると「物流倉庫内のオペレーションの不備によって想定外の費用が膨れ上がった」らしい。しかし「物流倉庫内のオペレーションの不備」が具体的に何を指すのかは教えてくれない。

一般的に臨海地での物流業務には、高い専門性を必要とする商習慣があり、適切に対処しないとビジネスが行き詰まってしまう」のに、「冒頭の物流担当役員はこうした商習慣への対処を取引企業に『丸投げ』(柳井正・ファストリ会長兼社長)してしまった」ようだ。その結果、「高額な費用負担を余儀なくされるという、のっぴきならない状況に陥った」という。この説明では、具体的にどんな問題が起きたのか、さっぱり分からない。

一般的に臨海地での物流業務には、高い専門性を必要とする商習慣があり」という記述も謎だ。「臨海地」以外の物流業務には「高い専門性」は要らないのか。常識的には考えにくいし、なぜ「臨海地」が特別なのかも不明だ。さらに言えば「一般的に臨海地での物流業務には、高い専門性を必要とする」というのは「業界の常識」かもしれないが、「商習慣」ではないだろう。言葉の使い方が不自然だ。


※今回取り上げた特集「ユニクロ 柳井正 最後の破壊
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/20577

※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

新井美江子(Dを維持)
大矢博之(Dを維持)
深澤 献(暫定B→暫定D)
松本裕樹(暫定D)

1 件のコメント:

  1. 最後にご指摘の部分、私も理解できず困惑しました。
    誰か解説している方か同じ疑問を持った方がいないか検索して、
    こちらにたどり着きました。
    臨海地物流の特殊性や専門性を軽くネット検索してみましたが、不明でした。

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