2017年7月23日日曜日

なぜ発表の2カ月後に? 日経「宝くじ販売 先細り」

23日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「宝くじ販売 先細り 堅実重視で客離れ、10年で2割減」という記事は「なぜ今なのか」がよく分からなかった。 記事に出てくる最新の数字は2016年度。年度が終わって4カ月近く経っている。そんなに発表が遅いのかなと思って調べてみると、5月には16年度の売上額が明らかになっているようだ。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線の宝珠山駅付近
(福岡県東峰村)※写真と本文は無関係です

ちなみに産経新聞は5月29日付で「年末ジャンボふるわず 宝くじ売上額、2年ぶり減」という記事を出している。日経も同時期に何か書いていないか調べてみたが、見当たらなかった。「必ず発表直後に書け」とは言わないが、2カ月近くも間を空けた意味がよく分からない。今回のような内容ならば、発表から10日以内ぐらいには紙面化してほしかった。

記事には他にも気になる点がある。まずは記事の中身を見ていこう。

【日経の記事】

宝くじの売れ行きが振るわない。総務省によると、2016年度の売り上げは18年ぶりの8千億円台となり、ピークの05年度から23%減った。最高賞金引き上げやインターネット販売の導入といったてこ入れも不発気味。自治体財政を助ける打ち出の小づちは存在感が薄くなっている。

発売初日は天候不良でお客さんは少なかったけど、いまはボチボチ」。20日、東京都心の宝くじ販売店。全国で一斉発売した「サマージャンボ宝くじ」の客足を販売員に聞いた。


◎「初日」はいつ?

発売初日は天候不良でお客さんは少なかったけど、いまはボチボチ」というコメントを使っているが、「初日」がいつか書いていない。「サマージャンボ宝くじ」の「発売初日」がいつか読者は知っているとの前提で記事を書くのは、かなり不親切だ。「発売初日(18日)」と入れれば済む話だ。

打ち出の小づち」も引っかかる。宝くじが本当に「自治体財政を助ける打ち出の小づち」ならば、「宝くじの売れ行き」は際限なく自由に増やせるはずだ。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

16年度の売上額は8452億円。賞金は上がったのに売り上げは伸びない。販売網も縮小し、06年に4744軒あった専業販売店は3560軒。販売員の高齢化や再開発に伴う駅前立地の閉店が響く。店舗減を補うネット販売も力不足だ。口座引き落としのみでクレジットカード決済に対応できていない。

最近の投資家は一獲千金より堅実さを重んじる。少額投資非課税制度(NISA)など長期投資の利点が意識され、宝くじも賞金は低めでも当たりやすい方がいいと思う人が多い


◎宝くじ購入者は「投資家」?

上記の書き方だと、宝くじの購入者を「投資家」に含めている印象がある。宝くじ購入を投資と称するのが明らかな誤りだとは言わないが、違和感はある。一般的に言えばギャンブルだ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

次のくだりは、さらに問題が多い。

【日経の記事】

当たってもうまみは乏しい。1枚300円のくじで戻りは平均150円。リターンはマイナス50%だ。東証1部全銘柄の配当利回り(加重平均)は約2%。上場投資信託(ETF)には分配金利回りが10%を超えるものもある。


◎「当たってもうまみは乏しい」?

サマージャンボ宝くじ」に関して、日経は別の記事で「1等(5億円)の当せん本数は20本、1等の前後賞(1億円)が40本、2等(1千万円)が60本」と書いている。これで「当たってもうまみは乏しい」と言われても説得力はない。

参加者全体で見て宝くじが「うまみ」の乏しいギャンブルであるのは確かだ。だが、1等や2等が当たれば「うまみ」は非常に大きい。今回の記事に関して言えば「当たってもうまみは乏しい」を「ギャンブルとしてのうまみは乏しい」などと直せば、問題は解消する。

付け加えると、宝くじの「マイナス50%」というリターンを「東証1部全銘柄の配当利回り」やETFの「分配金利回り」と比べても意味がない。株やETFはそれ自体の価格が変動するので、そこも含めてリターンを見る必要がある。

そもそも、宝くじの購入者の中で「宝くじと株式では期待リターンから判断してどちらが得か」といった比較をしている人はまれだろう。宝くじとの比較対象にするならば、スポーツくじ、競馬、パチンコなどの方がしっくり来る。

さて、記事の最後も見ておこう。

【日経の記事】

高い公益性という看板もかすみがちだ。宝くじの収益金は発売元自治体の財源となり、公共工事や福祉事業などに回る。「震災復興」などと銘打つくじの売れ行きはよいが、最近ではふるさと納税が急伸。16年度納税額は2844億円と存在感を高める。

高市早苗総務相は「消費者目線でくじの魅力を高める」と話す。だが、カジノもライバルになりそうで、宝くじ再興の切り札はみえない


◎「宝くじ再興の切り札はみえない」?

筆者は「宝くじ再興の切り札はみえない」と記事を締めている。だが、記事の説明が正しいのであれば、「再興の切り札」は見えるのではないか。

ヒントとなるのが「少額投資非課税制度(NISA)など長期投資の利点が意識され、宝くじも賞金は低めでも当たりやすい方がいいと思う人が多い」との記述だ。だったら、「賞金は低め」でも当たりやすくすればいい。「1等(5億円)の当せん本数は20本」もあるのだから、これらを見直すのも手だ。もちろん、記事の分析が正しければの話ではあるが…。


※今回取り上げた記事「宝くじ販売 先細り 堅実重視で客離れ、10年で2割減
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO19150360S7A720C1EA1000/

※記事の評価はD(問題あり)。

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