2017年7月3日月曜日

データの扱いが恣意的な日経「企業の現預金、世界で膨張」

2日の日本経済新聞朝刊1面トップに据えた「企業の現預金、世界で膨張 10年で8割増 1350兆円、有望な投資先なく」という記事に及第点は与えられる。ただ、データの扱いには、ご都合主義的な恣意性が見られる。
久留米成田山(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

問題の部分では以下のように説明している。

【日経の記事】

世界の企業の手元資金が膨らみ続けている。日本経済新聞社がQUICK・ファクトセットのデータから集計したところ、現預金に保有債券や貸付金などを足した広義の手元資金は12兆ドルと10年前から8割増えた。人類が有史以来採掘した金(7.5兆ドル)を買い占めても使い切れない。


◎「手元資金」と「10年前」に恣意性

まず、なぜ「現預金に保有債券や貸付金などを足した広義の手元資金」で見るのか。記事の冒頭で「世界の上場企業の手元に膨大なキャッシュが積み上がっている」と書き、見出しで「企業の現預金、世界で膨張」と打ち出すのならば、単純に「現預金」の動きを見る方が自然だ。「手元資金」で見るのが適切との判断であれば、見出しも「手元資金」にしてほしい。

記事に付けたグラフを見ると、「現預金・短期投資」は2017年に入ってわずかながら減少に転じているようだし、13年頃から伸び悩み気味だ。「債券・貸付金など」を加えて話を進めた方が想定したストーリーに合うから「広義の手元資金」を使ったのではないかと勘繰りたくなる。

10年前」としか比べていないのも引っかかる。記事では「余剰資金をひたすら積み上げる経営姿勢は日本企業の専売特許だったが、ここにきて世界企業の『日本化』が進んでいるのだ」とも解説している。だとしたら「ここにきて」どう変化しているのかの説明が欲しい。

記事には手元資金について「地域別では米国が2兆8千億ドル、欧州が2兆1千億ドル、日本が1兆9千億ドル、中国が1兆7千億ドル」と記してはいるものの、「ここにきて世界企業の『日本化』が進んでいる」と裏付ける数字はない。グラフを見る限りでは、2005年以降の「キャッシュ総額」は08年を除いて増加が続いている。「ここにきて」目立った変化が起きているわけではない。
熊本県立甲佐高校(甲佐町)※写真と本文は無関係です

筆者である富田美緒記者は「ここにきて」をどの程度の期間だと認識しているのだろうか。個人的には、長くても2~3年だと思えるが…。

ついでに言うと、以下の解説にも疑問が残った。

【日経の記事】

企業に現金が積み上がるのは、産業構造の変化の影響も大きい。インターネットやスマートフォンの技術革新で成長するIT企業は大型設備を必要とせず、使い道が研究開発やM&A(合併・買収)、自社株買いなどに限られる

代表格が米アップルだ。直近の手元資金は2568億ドル(約28兆円)と「iPhone」を初めて発売した10年前から17倍に膨らんだ。時価総額が約19兆円のトヨタ自動車を楽に買収できる規模だ。



◎「IT企業は大型設備を必要とせず」?

インターネットやスマートフォンの技術革新で成長するIT企業は大型設備を必要とせず、使い道が研究開発やM&A(合併・買収)、自社株買いなどに限られる」と言い切っているのが引っかかる。そういう企業もあるかもしれないが、「大型設備を必要」とするIT企業は当たり前にある。

ここでは同じ日経ビジネスオンラインの3月16日の記事を一部引用してみる。

【日経ビジネスオンラインの記事】

設備投資額は3年で294億ドル(約3兆3000億円)に達し、世界中にプライベートネットワークを張り巡らせ、独自開発のセキュリティチップでハードウエアを防御――。米GoogleのUrs Holzle上級副社長が2017年3月9日(米国時間)、「Google Cloud Next 2017」の基調講演で同社のインフラの内側を明かした。

中略)世界規模のネットワークを構築するためにGoogleは毎年1兆円に近い設備投資を行い、自社海底ケーブルまで張り巡らせた。自社海底ケーブルは今日では、米Microsoftや米Facebook、米Amazon.comなども保有するが、「通信事業者以外で初めて海底ケーブルを敷設した民間企業はGoogleだ」(Holzle上級副社長)と胸を張った。

◇   ◇   ◇

記事によると、グーグルは「データセンター網も拡大が続いている」らしい。アマゾン・ドット・コムは日本にも巨大な物流センターを有している。「IT企業は大型設備を必要とせず」と断定するのは、かなり苦しいだろう。

企画記事を作る時に、あらかじめストーリーを想定するのは悪くない。だが、見込みと違った場合は軌道修正をためらうべきではない。当初のストーリーに固執すると、話に無理が生じてしまう。今回の記事には、そうした要素が感じられた。


※今回取り上げた記事「企業の現預金、世界で膨張 10年で8割増 1350兆円、有望な投資先なく
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170702&ng=DGKKZO18382500S7A700C1MM8000

※記事の評価はC(平均的)。富田美緒記者への評価は暫定でCとする。

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