2017年7月19日水曜日

ソニーの例えが下手な週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者

記事中の「例え」は正しく使えば効果的だが、上手くないと書き手の実力を疑わせてしまう。週刊ダイヤモンド7月22日号の「財務で会社を読む~ソニー 営業利益5000億円達成へ 復活の裏で否めぬ“小粒化”」という記事では、例えの下手さが目に付いた。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線の筑前岩屋駅
  (福岡県東峰村)※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

「営業利益5000億円」。これはソニーにとって因縁の数字だ。今まで達成したことは一度きり。ITバブル前の1997年度、出井伸之社長の時代に、平面ブラウン管テレビ・ベガのヒットで連結営業利益5202億円を達成したときのみだ。

リーマンショック前年の2007年度には4752億円と、目前まで近づいた。ノートPCのバイオ、家庭用ビデオカメラのハンディカム、デジタルカメラのサイバーショットなどが貢献し、エレクトロニクス事業のセグメント利益が過去最高を記録した。

その後10年たった17年度。再び5000億円が見えてきた。ソニーは今年度の営業利益を5000億円と予想している。17年度末を最終年度とした、中期経営計画を達成できる、と宣言したのだ。

2000年代以前と比べると、ソニーの中身は大きく変わった。それまでは、いわば「満塁場外ホームランを打った後は全ての打席で三振する」会社だった。つまり、ヒット商品の有無で毎年利益水準が大きくぶれる。07年度に最高益を達成した後、エレキ事業(携帯電話、デジタルカメラ、テレビなどの合計)は08年度から5年連続の赤字に沈んだ。

それに比べると「ホームランは打たないが、毎回出塁はする」のが、現在のソニーだ。


◎「ホームランを打った後は全ての打席で三振」?

筆者の鈴木洋子記者はソニーを「それまでは、いわば『満塁場外ホームランを打った後は全ての打席で三振する』会社だった」と評している。この例えが苦しい。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市
      ※写真と本文は無関係です

この場合、ソニーが「ホームラン」を打つのは1度だけで、残りの打席は全部「三振」のはずだ。さらに「ホームラン」は「満塁場外」(個人的には「場外満塁ホームラン」の方がしっくり来る)でなければならない。

だが、記事で言及した時期だけでも2回は「三振」を免れている。「ITバブル前の1997年度、出井伸之社長の時代に、平面ブラウン管テレビ・ベガのヒットで連結営業利益5202億円を達成したとき」と「エレクトロニクス事業のセグメント利益が過去最高を記録した」2007年度だ。

鈴木記者は2007年度に関して「三振」だとは思っていないはずだ。なのになぜ「満塁場外ホームランを打った後は全ての打席で三振」と表現してしまったのか。「全ての打席」とは1試合の「全ての打席」という意味なのかとも考えてみた。1試合には4回ぐらい打席が回ってくる。だが、会社の経営で4年をひとまとめにして「1試合」と認識するのは一般的とは思えない。

記事で取り上げたもの以外にも、ソニーはこれまでウォークマンやプレイステーションなどの大ヒット商品を生み出している。これらを「満塁場外ホームラン」に含める場合、「満塁場外ホームランを打った後は全ての打席で三振」という例えは、さらに的外れとなる。

記事からは2007年度に「満塁場外ホームランを打った」と判断できるが、「満塁場外」と表現するのも苦しい。「ノートPCのバイオ、家庭用ビデオカメラのハンディカム、デジタルカメラのサイバーショットなどが貢献」したのであれば、コツコツとヒットを重ねた結果として「エレクトロニクス事業のセグメント利益が過去最高を記録した」と考える方が自然だ。

鈴木記者は「『ホームランは打たないが、毎回出塁はする』のが、現在のソニーだ」と解説しているが、2007年度にも「ホームラン」は出ていないのではないか。

ついでに、鈴木記者が唱える「小粒化」についても異議を唱えておきたい。

【ダイヤモンドの記事】

16年度に2887億円だった連結営業利益が17年度に5000億円に伸びるとした理由は、16年度に熊本地震による減損等が響いて赤字となった、カメラ用CMOSセンサーを手掛ける半導体事業が回復し、1200億円の営業利益を稼ぐと想定したことが大きい。半導体に加えゲーム事業の1700億円、金融事業の1700億円などが5000億円達成の3本柱だ。皆、もとはソニーにとって「傍流」だった事業である。

エレキ事業は売上高では2兆5800億円のボリュームがあるが、営業利益は1230億円にとどまる予想だ。復活ではあるが最盛期のソニーの「再興」ではない。

“小粒化”が否めないソニーは次の10年でどこに向かうのか。5000億円達成の“次”の青写真は、いまだぼやけている。
九州北部豪雨後の二連水車(福岡県朝倉市)
        ※写真と本文は無関係です



◎結構な「大粒」では?

鈴木記者は「“小粒化”が否めない」と言うが、ソニーの事業はかなり「大粒」に見える。「5000億円達成の3本柱」を見ると、「カメラ用CMOSセンサーを手掛ける半導体事業」が「1200億円の営業利益を稼ぐ」。「ゲーム事業の1700億円、金融事業の1700億円」もかなりの利益水準だ。これのどこが「小粒」なのか。記事には、きちんとした説明が見当たらない。

付け加えると、なぜ「5000億円達成の3本柱」としたのか謎だ。「エレキ事業」の「営業利益は1230億円」で半導体事業とほぼ同額なので「4本柱」と捉える方が素直だ。


※今回取り上げた記事「財務で会社を読む~ソニー 営業利益5000億円達成へ 復活の裏で否めぬ“小粒化”
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/20737


※記事への評価はD(問題あり)。鈴木洋子記者への評価は暫定でDとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿