「物価は安定しているより、しっかり上昇した方がいい」という前提の記事を最近よく目にする。30日の日本経済新聞朝刊 経済・政策面に載った「解読 経財白書(3)デフレ体質 根強いまま~値上げに動けぬ企業多く」という記事もそうだ。しかし、どうも納得できない。記事の全文を見た上で理由を述べたい。
夕暮れ時の筑後川 |
【日経の記事】
デフレ脱却を掲げたアベノミクスが始まって8年以上が経過し、物価上昇率は恒常的なマイナス圏からは脱した。だが米欧に比べれば伸びは鈍い。2021年度の経済財政白書は、日本のデフレ体質が根強く残る理由として値上げを強く回避する企業の姿勢があると分析した。
白書は価格の「上がりにくさ」を調べるため、価格の変動率が前年比マイナス0.5~プラス0.5%とゼロ近傍にある品目が消費者物価指数(CPI、総合)を構成する品目でどれほどの割合になっているのか計算した。1990年代後半まではおおむね10~20%の割合で推移していた。だが物価上昇率がマイナスとなった99年には50%程度まで増加した。
政府・日銀が13年に2%の物価上昇率を目標に据えた後も、価格が据え置かれた品目の割合は高止まりしている。白書は「いまだに企業の価格決定には粘着性が高く、ゼロ近傍期待形成には変化は見られていない」と指摘した。
東大の渡辺努教授は「政策当局者も研究者も、日本の企業が値上げをこれほど避けているとは思っていなかった」と漏らす。
その上で「価格形成の粘着性が問題なら、その行動を変えるにはどうすればよいかをさらに分析し、直接効果がある政策を立案する必要がある」と述べる。
渡辺教授が提案するのは名目賃金上昇率の目標設定だ。仮に物価上昇率2%、生産性上昇率2%を目指すなら、4%の賃上げ目標を政府・日銀で共有する。「時限的に業界内で値下げを回避するカルテルを容認するのも一案だ」という。
企業が価格を決める手法や過程は複雑で、POS(販売時点情報管理)など様々なデータを使った分析も進んでいる。渡辺教授は「白書全体にいえるが、政府統計だけでなく、民間の非伝統的データをもっと活用した分析に取り組んでほしい」と注文する。
政府の経済分析も従来の枠組みにとらわれない試みが重要になる。
◎「価格形成の粘着性が問題」?
「物価上昇率は恒常的なマイナス圏からは脱した。だが米欧に比べれば伸びは鈍い」と聞くと「物価上昇率」は高い方がいいと感じる。しかし同意できない。日経自身が28日の記事で「インフレ懸念再燃、米金利1年半ぶり、原油3年ぶり高値」と伝えている。物価が「ゼロ近傍」で安定していて「インフレ懸念」も強くない日本の状況は悪くない。
なのに「デフレ体質 根強いまま」と問題視してしまう。しかも、本当に「デフレ体質」が「根強いまま」ならば、物価の「下がりやすさ」を伝えればいいのに「上がりにくさ」に着目してしまう。そして「価格の変動率が前年比マイナス0.5~プラス0.5%とゼロ近傍にある品目が消費者物価指数(CPI、総合)を構成する品目でどれほどの割合になっているのか」で「デフレ体質」を見てしまう。
「上がりにくさ」が強固ならば「インフレ回避体質」とでも呼んだ方がいい。「いまだに企業の価格決定には粘着性が高く、ゼロ近傍期待形成には変化は見られていない」とすると、物価の持続的安定が見込めて良いのではないか。
ところが「時限的に業界内で値下げを回避するカルテルを容認するのも一案だ」という自由競争を制限するようなコメントまで出てくる。「東大の渡辺努教授」は「価格形成の粘着性が問題なら~」とも発言しているが、なぜ「価格形成の粘着性が問題」なのかは教えてくれない。個人的には、そこに「問題」は感じない。「カルテルを容認」してまで物価を上げる必要はない。
「渡辺教授が提案するのは名目賃金上昇率の目標設定だ」という話から推測すると「賃金を上げるためには物価が上がらなければ」との問題意識があるのだろう。
だが物価と賃金がともに2%上がっても、ともに横ばいでも、実質的な差はない。物価が2%上がれば賃金はそれ以上に上がる訳でもない。
次の首相となる岸田文雄氏も「デフレ脱却が最優先」などと述べているらしい。日本の物価はずっと「ゼロ近傍」で安定していて問題はない。
なぜ、そんなに物価を上げたがるのか。謎だ。
※今回取り上げた記事「解読 経財白書(3)デフレ体質 根強いまま~値上げに動けぬ企業多く」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210930&ng=DGKKZO76180940Q1A930C2EP0000
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