コラムニストの小田嶋隆氏はやはり衰えが目立つ。日経ビジネス9月6日号に載った「小田嶋隆の『pie in the sky』絵に描いた餅ベーション~『火事場泥棒は断言する』」という記事の問題点を指摘してみたい。今回の記事で最も気になるのは批判対象が特定できないことだ。記事の後半部分を見てみよう。
熊本港 |
【日経ビジネスの記事】
怖いのは、その一方で専門的知見を持たない素人が当てずっぽうで垂れ流す断言が、バカにならない影響力を発揮しつつあることだ。
あまたある断言の中には、たまたま「ある特定の状況下」での「特定の問題」をうまく説明している事例が転がっていたりする。と、その断言をカマした人物は、突然「すべてを見通している人間」に格上げになる。
「要するに」「つまるところ」「端的に言えば」「誰もあえて言わないことだが」てな調子の接頭辞とともに供給されるこれらの断言の中には、コロナ疲れで、予測や不安そのものを面倒に感じている人々の心を確実に捉える、ある種の痛快さが含まれている。しかも、非常によろしくないことに、これらの非専門家の口の端から漏れ出す無責任な断言は、多くの場合、立場上の、あるいは政治的な意図をはらんでいる。
◎具体例がないと…
上記のような書き方は感心しない。「怖いのは、その一方で専門的知見を持たない素人が当てずっぽうで垂れ流す断言が、バカにならない影響力を発揮しつつあることだ」という割に具体例は出てこない。ゆえに「断言をカマした人物」が「突然『すべてを見通している人間』に格上げになる」ような状況が本当に起きているのか検証しようがない。反論されるのが怖いのかもしれないが、これでは困る。
続きを見ていこう。
【日経ビジネスの記事】
私が懸念しているのは、昨年のいまごろ(つまり第1波から第2波に対応した緊急事態宣言が出されていた2020年の春から夏にかけて)しきりに対コロナ楽観論(「コロナはただの風邪」だとかの、慌てるヤツらが愚かなのだと達観した風の言い方)を半笑いで振りまいていた人々が、現今の医療逼迫を捕まえて、異口同音に「医療従事者の怠慢」「コロナを拒否する医療機関がいけない」「医療ムラを解体しなければこの問題は解決しない」といった、政治の無策の責任を現場(つまり、医療関係者)に押しつける立論を供給しはじめたことだ。
◎コロナ楽観論者とは戦わないんじゃ?
2020年12月25日付の日経ビジネス電子版に載った「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』 ~世間に転がる意味不明~来年が凡庸で退屈な一年でありますように」という記事で「コロナ楽観論」に関して小田嶋氏は以下のように書いていた。
「論争から逃げているように見えてしまうのもシャクなので、あまりにもあたりまえで凡庸なお話ではあるが、以下、『コロナ楽観論』への反論をひととおり書き並べておくことにする。なお、この反論への反論にはお答えしない。理由はさきほども述べた通り、論争は、もっぱら異端の論を拡散せんとしている崖っぷちの人々の利益にしかならないからだ」
「コロナ楽観論」の批判だけして「反論への反論にはお答えしない」と逃げた小田嶋氏がまた「コロナ楽観論」者を批判するのはなぜか。「論争は、もっぱら異端の論を拡散せんとしている崖っぷちの人々の利益にしかならない」のではないのか。
前に書いたことを忘れているのだとは思うが…。
そして、やはり具体例は出てこない。「対コロナ楽観論を半笑いで振りまいていた人々」とは何人ぐらいいるのだろう。少なめに1000人としよう。その1000人が「異口同音」に「政治の無策の責任を現場に押しつける立論を供給しはじめ」るとは考えにくい。そんなに見事に主張が揃うものか。それに小田嶋氏は1000人の「立論」をきちんと確認したのか。
「新型コロナウイルスは大きなリスクではないのに騒ぎすぎ」と訴えてきた自分は「コロナ楽観論」者に入れてもいいだろう。しかし「政治の無策の責任を現場に押しつける立論を供給」したりはしていない。なのに「異口同音」なのか。
自分も含め「コロナ楽観論」的な主張の持ち主の多くは「感染症法上の扱いを5類に落とせ」と訴えている。「政治の無策の責任を現場に押しつける立論を供給」している人がゼロとは言わないが、小田嶋氏の説明は違う気がする。
しかし、小田嶋氏の言う「対コロナ楽観論を半笑いで振りまいていた人々」が誰を指すのか不明なので検証は難しい。ここがズルいところだ。批判するならば、対象を具体的に挙げてほしい。
結論部分を見ていこう。
【日経ビジネスの記事】
さらに彼らは「医療従事者に政治家が命令できる法律づくり」「政治によるトリアージの立法化」てなことを言い出している。防火への備えを軽視し、怠ったのみならず、放火に類する所業を為しておいての言い草は、わが国の医療システム、ひいては国民皆保険制度への公然たるテロ行為だと申し上げてよい。ていうか、よりによって今、医療関係者の足を引っ張ってどうする。“要するに”こういうことを言う人って「火事場泥棒」、もしくは「焼け太り」狙いなんじゃないのか?
◎強引すぎない?
批判の対象をぼかして反論から逃げているがゆえの安心感があるのだろうか。言いたい放題だ。しかし、なるほどとは思えない。
まず、なぜ「わが国の医療システム、ひいては国民皆保険制度への公然たるテロ行為だと申し上げてよい」のか。
「『医療従事者に政治家が命令できる法律づくり』『政治によるトリアージの立法化」てなことを言い出し」ているからなのか。これらが実現したら「国民皆保険制度」が崩れると仮定しよう。だからと言ってなぜ「テロ行為」なのか。もっと直接的に「国民皆保険制度は廃止せよ」と訴えても「テロ行為」とは感じない。暴力も暴言もないのに「テロ行為」なのか。
「防火への備えを軽視し、怠ったのみならず、放火に類する所業を為しておいて」とも言い切っているが、これもどうやって確認したのか。「コロナ楽観論」者全員の行動を小田嶋氏はチェックしているのか。
「放火に類する所業」が何を指すのか明確ではないが、とりあえず「新型コロナウイルスを他者に感染させる可能性のある行動」としよう。この場合、小田嶋氏を含むほとんどの人が「放火に類する所業」に手を染めているはずだ。小田嶋氏はこの1年半ずっと自宅に籠って一歩も外に出ずに暮らしているのか。他人との直接対面を一切やめているのか。
書き手としての衰えが目立つ小田嶋氏は、人物や組織を名指ししての批判では反論に耐えられなくなっているのかもしれない。だとしたら、コラムニストから足を洗うことも検討すべきだ。誰でもいつかは引退するのだから。
※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『pie in the sky』絵に描いた餅ベーション~『火事場泥棒は断言する』」
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00128/
※記事の評価はE(大いに問題あり)。小田嶋隆氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html
山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html
小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html
杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html
「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html
リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/pie-in-sky.html
「退出」すべきは小田嶋隆氏の方では…と感じた日経ビジネスの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html
「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_10.html
「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラムhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_15.html
根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の「律義な対応」を検証https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_28.html
小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した「コロナ楽観論批判」への「反論」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_29.html
「女性限定の反撃」は「罪」? 小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_25.html
「女性側に原因がないこともない」を「失言」と見なす小田嶋隆氏に異議https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_27.html
「彼女が中止のホイッスルを吹く日」に期待する小田嶋隆氏の矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_16.html
日経ビジネスでの橋下徹氏批判に見える小田嶋隆氏の「あまりにも粗雑な詭弁」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/08/blog-post.html
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