2021年9月15日水曜日

「兎にも角にも大事なのは『早期発見・早期治療』」に根拠欠く東洋経済オンラインの記事

東京がん免疫治療センター長の明星智洋氏は「信用してはいけない医師」と言えそうだ。11日付で東洋経済オンラインに載った「がんを疑うべき人が抱える『9つの症状』と治療法~兎にも角にも大事なのは『早期発見・早期治療』」という記事には問題を感じた。

熊本県長洲町の砂浜

見出しにもなっている「兎にも角にも大事なのは『早期発見・早期治療』」に関するくだり見てみよう。

【東洋経済オンラインの記事】

がんに関してとにかく重要なのは「早期発見・早期治療」です。早く見つけ、適切な時期に治療できれば身体への負担は最小限で済ませられるのですが、病院嫌いによって気づいたときには手遅れ、ということも少なくありません

ここではまず検診の仕方について紹介していきましょう。必要な検診と、そうでない検診について紹介します。まずは、推奨したい検査についてです。


◎それだけ?

早期発見・早期治療」が「とにかく重要」と言えるエビデンスは何も示していない。「適切な時期に治療できれば身体への負担は最小限で済ませられるのですが、病院嫌いによって気づいたときには手遅れ、ということも少なくありません」としか書いていない。

これではダメだ。「早期発見・早期治療」には過剰診断・過剰治療の問題がある。明星氏も当然に知っているはずだ(記事でも少し触れている)。そのリスクを上回るメリットが「早期発見・早期治療」にはあると示せなければ「兎にも角にも大事なのは『早期発見・早期治療』」とは言えない。

ここでは医師の和田秀樹氏が書いた「病院のやめどき」という本の一部を引用したい。

【「病院のやめどき」の引用】

検診が無意味だと私が考える理由は、がんが発見される仕組みにあります。「早期発見せよ」といいますが、目にも見えない極小のがんを発見できるわけではありません。PET-CTを利用した精密ながん検診なら5㎜程度で発見できることはありますが、検診費用はおよそ10万円以上と高く、受ける人は多くありません。一般的な検診では1cmぐらいまでがんが大きくならないと、見つけることはできません。これでも早期発見の部類なのです。

それでは1cm程度のがんというのは、どれくらいの時間をかけて育ったのでしょうか。例えば、乳がんの場合、専門機関では7~8年ほどの時間がかかるとしています。これをどう考えればいいでしょうか。私なら7年間転移せずに大きくなってきたがんが、8年目に転移する確率はかなり低いだろうと捉えます。転移していないのならば、それから数年間放置していても、悪さはしないでしょう。治療は、なにか症状が起きてからでも問題ありません。

反対に、1cmで発見されるまでの7~8年の間で、すでに見えない転移がどこかにあって、体を蝕んでいる可能性もあります。超早期でがんを発見できたにもかかわらず、何年後かに転移が見つかるというのは、主にこのケースです。この場合は進行の速い悪質ながんです。

◇   ◇   ◇


和田氏の説明が絶対に正しいとは限らない。しかし「早期発見」の段階で「すでに見えない転移」がある可能性は明星氏も否定しないだろう。「転移している場合、手術しても無駄」との前提で考えれば「早期発見・早期治療」には意味がないケースも出てくる。「早期発見」の段階では自覚症状がないとすると、余計な「検診」を受けなければ、がんを気にせず楽しく暮らせていてかもしれない。

さらに言うと「早期治療」として手術を受けても「がん」を完全に取り除けたかどうかは誰にも分からない。和田氏も書いているように「目にも見えない極小のがん」が残っている可能性は十分にある。つまり「早期治療」で治せたかどうかは確認できない。

兎にも角にも大事なのは『早期発見・早期治療』」と言えるほど単純な話ではないのに明星氏は早々に検診へと話を移してしまう。そこに医師としての不誠実さを感じる。

そもそも「検診」に「総死亡率」を下げる効果はないとの研究結果もあるようだ。週刊ポスト2017年3月17日号の記事では、がん検診に関して以下のように記している。


【週刊ポストの記事】

昨年1月、世界的に権威のある『BMJ(英国医師会雑誌)』という医学雑誌に、「なぜ、がん検診は『命を救う』ことを証明できなかったのか」という論文が掲載された。その中で、「命が延びることを証明できたがん検診は一つもない」という事実が指摘されたのだ。

たとえば、最も効果が確実とされている大腸がん検診(便潜血検査)では、4つの臨床試験を統合した研究で、大腸がんの死亡率が16%低下することが示されている。その一方で、がんだけでなく、あらゆる要因による死亡を含めた「総死亡率」が低下することは証明できていない。


◇   ◇   ◇


命が延びることを証明できたがん検診は一つもない」としても、積極的に「検診」を受けて「早期発見・早期治療」へと進むのが本当に好ましいのか。明星氏がそう信じているのならば、「早期発見・早期治療」によって「総死亡率」を低下させられるというエビデンスを示してほしい。

それができないのならば「がんに関してとにかく重要なのは『早期発見・早期治療』です」などと言わないことだ。今回の記事のような説明を続ければ、知識に欠ける人を「早期発見・早期治療」へと引き込めるかもしれない。しかし、明星氏の医師としての適性には疑問符が付いてしまう。そのことを忘れないでほしい。


※今回取り上げた記事「がんを疑うべき人が抱える『9つの症状』と治療法~兎にも角にも大事なのは『早期発見・早期治療』

https://toyokeizai.net/articles/-/448863


※記事の評価はD(問題あり)

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