14日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「接種証明と医療充実で暮らしの回復を」という社説は肝心の問題を論じていない。全文を見た上で具体的に指摘したい。
福岡県小郡市 |
【日経の社説】
新型コロナウイルスのワクチンを2回接種した人が国民の5割を超えた。今の接種ペースが続けば11月ごろまでにほとんどの希望者に行き渡る。ワクチンの効果を生かし、社会経済活動の範囲を広げていく方策も考えるときだ。
菅義偉政権は接種証明や検査による陰性証明を活用した行動制限の緩和の基本的な考え方をまとめた。周囲にコロナを感染させるリスクが低いことが接種証明や陰性証明で確認できる人を対象に、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域でも行動制限を緩めるものだ。
11月ごろから感染対策の第三者認証を受けた飲食店で営業時間などの制限を緩めたり、県境をまたぐ旅行を自粛要請の対象外としたりすることを想定している。
自民党総裁選や衆院選では従来の対策とのバランスなどの議論を深め、コロナとの共生を前提に社会経済活動を広げる工夫を着実に進めるべきだ。
いまコロナに感染しているのはワクチンを接種していない人が中心だ。接種を終えた人から活動範囲を広げていくのは、感染防止と経済活動を両立させる観点からも理にかなう。欧米でも接種率が5割を超えた段階で接種証明の活用を始めた国が目立つ。
行動制限の緩和は、ワクチンを打つインセンティブにもなるはずだ。営業制限に協力する外食店などの我慢も限界に近い。政府は接種・検査証明のデジタル化など、円滑に活用できるようにする準備を急いでほしい。
接種証明の活用が未接種者に対する差別的な取り扱いにつながることはあってはならない。就職や入学、選挙の投票で未接種者を排除するといった使い方は不当だ。政府は差別的な取り扱いを避けるために、業種ごとの具体的な指針をつくるべきではないか。
デルタ型の強い感染力への警戒も欠かせない。今年春に行動制限を緩めたイスラエルでは、12歳以上のワクチン接種率が8割弱に達しているのに感染者や死亡者が急増した。日本は海外事例や最新の知見を踏まえ、緩和対象や運用ルールを考える必要がある。
行動制限の緩和は医療の充実が前提になる。感染者が増えても医療へのアクセスが確保され、重症化を極力抑えることができる体制が要る。治療薬の開発・承認や、病床を機動的に増やすための臨時医療施設の整備を急ぐべきだ。
◎「差別的な取り扱い」がダメなら…
「接種証明の活用が未接種者に対する差別的な取り扱いにつながることはあってはならない」と社説では訴えている。これを徹底する場合「接種証明の活用」による「行動制限の緩和」は基本的にできない。「接種証明がないと対面授業が受けられない」「接種証明がないとスタジアムでのスポーツ観戦ができない」といった状況を「差別的な取り扱い」ではないと見なすのは無理がある。
「就職や入学、選挙の投票で未接種者を排除するといった使い方は不当だ」とも書いているので、筆者は「重要な問題での差別はダメだが、そうではない場合は差別もあり」とイメージしているのではないか。
そこを完全に否定するつもりはない。だとしたら「差別的な取り扱いにつながることはあってはならない」と書くのではなく「差別は最小限にとどめるべきだ」などと訴えるべきだろう。
「政府は差別的な取り扱いを避けるために、業種ごとの具体的な指針をつくるべきではないか」と「政府」に丸投げして「許される差別」の基準を自ら考えないのも感心しない。
個人的には、政府・自治体など公的機関による差別は全て禁止、民間ではそれぞれの判断に任せるとするのが一番スッキリする(ただ民間での差別は既契約者に関しては認めない。既に入学している私大の学生に対し、大学が対面授業の条件として接種証明を求めるのはアウトとしたい)。
さらに気になるのが「接種証明の活用」にそもそも意味があるのかという問題だ。
社説でも「今年春に行動制限を緩めたイスラエルでは、12歳以上のワクチン接種率が8割弱に達しているのに感染者や死亡者が急増した」と書いている。「接種証明」を「活用」すれば「社会経済活動を広げ」ても「感染者や死亡者が急増」する事態は避けられるとの前提は、そもそも正しいのか。
その辺りが気になるのだろうか。「行動制限の緩和は医療の充実が前提になる。感染者が増えても医療へのアクセスが確保され、重症化を極力抑えることができる体制が要る」と書いている。
「接種証明の活用」を進めても「行動制限の緩和」が感染拡大につながると見ているのだろう。だとしたら、「接種証明の活用」なしでの「行動制限の緩和」の方が分かりやすい。それだと「感染者や死亡者が急増」する度合いが大きくなると言うならば、「医療の充実」をその分上積みすればいい。
そんなに難しい話ではない。よく言われるように感染症法上の扱いを5類に落とせば、かなりの問題は解決する。それこそが「コロナとの共生を前提に社会経済活動を広げる工夫」ではないのか。
※今回取り上げた社説「接種証明と医療充実で暮らしの回復を」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210914&ng=DGKKZO75713270T10C21A9EA1000
※社説の評価はD(問題あり)
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