11日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「接種7割では集団免疫難しく~デルタ型で目安8割超に」という記事には色々と疑問が残った。中身を見ながら具体的に指摘したい。
道の駅 昆虫の里たびら |
【日経の記事】
新型コロナウイルスのインド型(デルタ型)の広がりで、ワクチンによる集団免疫の獲得が遠のいている。従来型ウイルスでは人口の6~7割の接種が目安とされたが、デルタ型は8~9割に上がった公算が大きい。接種率を最大限に上げる努力を続けつつ、コロナとの共存も視野に入れた出口戦略が必要になる。
◎そもそも「集団免疫の獲得」は可能?
ワクチン接種率が「8~9割」になれば「集団免疫の獲得」に至ると筆者は見ているようだ。しかし共同通信の記事によると「オックスフォード大のアンドルー・ポラード教授は(8月)10日、(英国)下院の超党派議員らに、集団免疫獲得を前提とした接種計画を立てないよう警告」し「接種した人も感染しており(デルタ株がある中)集団免疫を達成する可能性はない」と断言したらしい。
「可能性が低い」のではなく「集団免疫を達成する可能性はない」と言い切っている。本当にワクチン接種率が「8~9割」になれば「集団免疫」を「獲得」できるのか。日経の担当記者は改めて考えてほしい。
さらに見ていこう。
【日経の記事】
「国民の70%が接種しても、恐らく残りの30%が防護されることにはならない」。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は7月29日、こう述べた。実際、人口の6~7割が2回接種したイスラエルやアイスランドでもデルタ型の感染者が増えている。
日本政府によると国内で9日までに2回接種した人の割合は34%。月内の4割到達をめざす。
集団免疫とは免疫を持つ人が一定以上の割合になって感染の連鎖が起きにくくなり、流行が収束していく状態。無防備な集団で感染者1人が何人にうつすかを示す基本再生産数から、集団免疫に必要な接種率の目安(しきい値)をはじける。
仮に集団免疫が達成できなくても、接種率を高める意義は大きい。入院や死亡を防ぐワクチンの効果はデルタ型でも90%以上と高い。完全ではないが感染を減らす効果も確認されている。
達成が難しくなった最大の理由はデルタ型の感染力の強さだ。その基本再生産数を英インペリアル・カレッジ・ロンドンは5~8程度、米疾病対策センター(CDC)は5~9程度と推定する。
おたふく風邪(基本再生産数4~7)や風疹(同5~7)並みか、水ぼうそう(水痘、同8~10)に近い。5と仮定するとしきい値は80%、6なら83%に上がる。英国の有力医学誌ランセットの呼吸器内科専門誌も、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のマーティン・ヒバード教授の「基本再生産数が6~7であれば集団免疫のしきい値は85%程度」との見解を報じた。
従来型ウイルスの基本再生産数は2.5~3程度と推定されていた。2.5ならしきい値は人口の60%、3なら67%となる。これが集団免疫を獲得できる接種率の目安が「人口の6~7割」とされてきた根拠だった。
◎なぜ自然感染は無視?
「集団免疫とは免疫を持つ人が一定以上の割合になって感染の連鎖が起きにくくなり、流行が収束していく状態」だと記事では書いている。自然感染でも「免疫」は獲得できる。しかし、なぜか完全に無視して話が進む。
「集団免疫のしきい値は85%程度」で、「集団免疫」を「獲得」するのに必要な接種率は「8~9割」。これは無理がある。「集団免疫のしきい値は85%程度」だとしても、既に多くの人が自然感染している場合は、もっと低い接種率で「集団免疫」を「獲得」できるはずだ。
自然感染を含めて考えれば、接種率がどんなに低くても「集団免疫」を「獲得」できるという計算は成り立つはずだ。ワクチン接種を進めたいとの意図が筆者にはあるのだろうが、だからと言って自然感染を無視するのは感心しない。
※今回取り上げた記事「接種7割では集団免疫難しく~デルタ型で目安8割超に」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC029TZ0S1A800C2000000/
※記事の評価はD(問題あり)
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