2021年8月23日月曜日

人口減少のプラス面に言及したのは評価できる日経1面連載「人口と世界」

人口と為替相場は似たところがある。2つとも、上下どちらに動くのが好ましいか単純には決められない。なのに日本経済新聞は「円高と人口減少は好ましくない」との前提で記事を書く場合が多い。しかし23日の日本経済新聞朝刊1面に載った「人口と世界 成長神話の先に(1)人類史、迫る初の人口減少 繁栄の方程式問い直す」という記事では「人口」に関して評価すべき変化が見えた。もちろん問題点もあるのだが、ここではプラス面に光を当ててみたい。

夕暮れ時の桂川

【日経の記事】

1800年に約10億人だった世界人口はいまや78億人。人口が爆発的に増えたのは人類史で直近の200年間だけだ。急膨張した人類は、破綻を危ぶんだ。ローマクラブは1972年、人口増と環境汚染で100年以内に「成長の限界」を迎えると警告した。

流れを変えたのは女性の教育と社会進出が加速したことによる出生率の低下だ。女性1人が生涯に産む子供の数(合計特殊出生率)は17年現在で2.4と、人口が増えなくなる2.1の目前だ。

人口減時代は新たな難題が待つ。人口増が前提の年金や社会保障制度は転換を迫られる。労働者が減れば過去の経済成長モデルは通用しない。

ただ見方を変えれば、人口爆発の副産物だった環境問題や資源枯渇の危機は和らぐかもしれない。雇用を奪うとの抵抗もある人工知能(AI)などのデジタル技術は、生産性を引き上げ労働力不足を補う武器になる。

いち早く人口減に突入した日本にとっても改革のチャンスだ。従来の発想を捨て、人口減でも持続成長できる社会に大胆につくり変えられるか。歴史人口学者の鬼頭宏前静岡県立大学長は予言する。「次の文明システムへの転換期。乗り切るか没落するかの分かれ目だ」


◎人口をどう考えるべきか

見方を変えれば、人口爆発の副産物だった環境問題や資源枯渇の危機は和らぐかもしれない」という記述に希望を感じた。「人口が減ると経済成長が難しくなる。何とか食い止めなければ…」という視点だけで考えていないのが分かる。

今回の連載に関しては「川合智之、山田宏逸、星正道、早川麗、鈴木壮太郎、柳瀬和央、張勇祥、中村裕、覧具雄人、天野由輝子、村松洋兵、大西智也、松井基一、川手伊織、松尾洋平、小川知世、木寺もも子、竹内弘文、新田祐司、島本雄太、杉浦恵里、北川開、今出川リアノン、鎌田健一郎、北爪匡、渡辺健太郎、桑山昌代、合田義孝、松田崇、鈴木泰介、勝野杏美、湯沢華織が担当します」と出ていた。

この中の誰が「人口減少にはプラス面もある」と感じているのかは分からない。できれば全員にこの視点を持ってほしい。人口減少のマイナス面も当然ある。大事なのは総合的に物事を分析することだ。人口問題に関して日経はそこが欠けていた。今回の連載を機に変わってほしい。

もう1つ好ましい変化の兆しを感じた。「女性の教育と社会進出が加速したことによる出生率の低下」という記述だ。総合・政治面の関連記事でも「女性1人が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は、発展途上地域で1950年代前半の6から2010年代後半に2.6まで急減した。女性の教育と社会進出が進んだのが要因とされ、多産を望む若者が減った」「少子化は一人ひとりの人生の選択が積み重なった結果で、押し戻すのに成功した国はほぼない」と述べている。

この認識は基本的に正しい。「北欧などを見習って社会を進歩的な方向に変えていけば少子化対策になる」などと主張しがちな日経だが今回は違うようだ。

出生率の低下」を「女性の教育と社会進出が進んだのが要因」としてしまうのは女性問題を扱う筆者の多くにとって都合が悪い。こうした書き手は「女性の社会進出を支援すべきだ。そうしないと出生率は上向かない」と訴えたがる傾向がある。しかし、そうした主張に説得力はない。

今回の連載では「少子化は一人ひとりの人生の選択が積み重なった結果で、押し戻すのに成功した国はほぼない」と現実を受け入れた上で「人口減」を前提に主張を組み立てようとしている。

それでいい。2回目以降の記事に期待したい。


※今回取り上げた記事「人口と世界 成長神話の先に(1)人類史、迫る初の人口減少 繁栄の方程式問い直す」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA021H00S1A600C2000000/


※記事の評価はC(平均的)

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