実際には存在しないのに、なぜか存在するものとして語られるのが「データ寡占」だ。「デジタル経済」を論じる記事でよく見かける。15日の日本経済新聞朝刊1面に載った「デジタルのジレンマ(3)GAFA、10年で買収400件~データ寡占に規制追いつかず」という記事でも「データ寡占」の存在が前提となっているが、実体は見えない。
新田大橋 |
「10年で買収400件」という話は「データ寡占」を裏付けるものではない。世界にある全ての「データ」を「GAFA」だけで保有しているなら「データ寡占」でいいだろう。だが、あり得ない。日経もソニーもトヨタも携帯電話会社も銀行もコンビニも「データ」は持っている。どうやったら「寡占」が成立するのか。
記事の説明を見ていこう。
【日経の記事】
バイデン米大統領は9日、市場シェアの高い大企業への監視を強化する大統領令に署名し、議会でも巨大ITの事業分割を視野に反トラスト法(独占禁止法)の改正機運が高まる。とはいえフェイスブックは本体だけで30億人弱の利用者を抱える。対話アプリ「ワッツアップ」などの傘下企業を切り離しても膨大なデータを独占的に持ち続ける限りSNS市場での支配力は揺るがないとの声は多い。
いまの米国の競争政策は規制緩和が進んだ1980年代に枠組みが固まった。国主導で企業やデータを管理する中国とは一線を画し、値上げなど消費者に不利益がなければ自由な競争に委ねる姿勢をとった。だがデータ寡占の問題を前にルールの限界も見えてきた。
◎どういうこと?
「フェイスブック」は「膨大なデータを独占的に持ち続け」ているらしい。どういうことなのか。「データ寡占」ではなかったのか。「独占」に近いのか。そう思って読み進めると「データ寡占の問題を前に~」と「寡占」に戻ってしまう。
「フェイスブック」が「膨大なデータを独占的に持ち続け」ているのならば、世界中の「データ」の90%以上は「フェイスブック」のもので、残りを世界中の企業・個人で分け合っているとの認識なのか。だとすると問題は「GAFA」ではなく「フェイスブック」だ。しかし、同社が「データを独占的に」保有していることを裏付ける情報は示していない。
ついでにもう1つ指摘しておこう。
【日経の記事】
一方で膨張が他社による発明や新事業の創出を妨げている側面もある。米シカゴ大学のラグラム・ラジャン教授らの21年の研究では、グーグルとフェイスブックの買収があった業界はその後の3年でベンチャーキャピタル投資が40%減り、案件数も20%減った。
◎説明になってる?
まず「グーグルとフェイスブックの買収があった業界はその後の3年でベンチャーキャピタル投資が40%減り、案件数も20%減った」としても、因果関係が証明できた訳ではない。別の要因で「ベンチャーキャピタル投資」に変化が起きた可能性はある。
因果関係があるとしても「膨張が他社による発明や新事業の創出を妨げている側面もある」と言い切るのは早計だ。「ベンチャーキャピタル投資」が減ったからと言って「発明や新事業の創出」も細っているとは限らない。「ベンチャーキャピタル投資」に頼らなくても「発明や新事業の創出」はできる。資金調達先が銀行などにシフトしただけかもしれない。
「膨張が他社による発明や新事業の創出を妨げている」のではないかと仮説を立てるのはいいが、裏付けとなるデータの扱いには慎重であるべきだ。今回は仮説にこだわり過ぎて説明が強引になっている気がする。
※今回取り上げた記事「デジタルのジレンマ(3)GAFA、10年で買収400件~データ寡占に規制追いつかず」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN261IG0W1A520C2000000/
※記事の評価はD(問題あり)
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