29日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「追跡広告見直し機運~サッポロビール、予算7割減 個人情報使わぬ新技術も」という記事は苦しい内容だった。中身を見ながら具体的に指摘したい。
有明海 |
【日経の記事】
ネット閲覧履歴などに基づき個人ごとに広告を出すターゲティング(追跡型)広告(総合2面きょうのことば)の見直しが日本でも広がり始めた。サッポロビールやアスクルは予算を大きく減らす。個人データを使わない広告の採用企業も増えている。個人情報の乱用につながるとの批判が高まり、データの入手が難しくなるためだ。プライバシー保護が技術開発を促し、ネットビジネスを大きく変えつつある。
◎2社だけでは…
この記事はいわゆる「まとめ物」だ。「ターゲティング(追跡型)広告の見直しが日本でも広がり始めた」という話に説得力を持たせるなら最低でも3社は事例が欲しい。1面トップであれば5社ぐらいあってもいい。しかし最後まで読んでも「サッポロビール」と「アスクル」しか出てこない。
記者は当然、他にも事例を探したのだろう。なのに2社しか見つからなかったのであれば「ターゲティング(追跡型)広告の見直しが日本でも広がり始めた」と理解するのは早計だ。
記事では「(日本の)ネット広告の中でも1兆円超が追跡型とみられる」とは書いているが、その規模が小さくなっているという話は出てこない。やはり怪しい。
さらに言えば「サッポロビール」と「アスクル」の話にも問題がある。その部分を見ていこう。
【日経の記事】
状況は急変している。酒類事業の広告宣伝・販促費に約190億円を使うサッポロビールは「個人追跡型には今後、頼れなくなる」として予算を約7割減らし、ネット広告全体に占める追跡型の比率を3割から1割以下にした。アスクルはネット通販「ロハコ」で追跡型広告の予算を直近3年で10分の1に減らした。
◎予算は削減済み?
最初の段落では「サッポロビールやアスクルは予算を大きく減らす」と書いているので、これから「予算」が減るのだと理解したくなる。しかし読み進めると「サッポロビール」も「アスクル」も「予算」を削減済みだと分かる。騙しに近い書き方だ。
「アスクル」は「予算を直近3年で10分の1に減らした」のだから、予算削減の動きはかなり前から出ていたはずだ。なのに「状況は急変している」のか。もう減らし終わっているのではないか。「アスクル」に関しては「予算」の規模に触れていないのも辛い。
例えば年間1億円の予算を1000万円に減らした程度ならば、事例としてのインパクトは弱い。だから実額に触れなかったのだろうか。
では「サッポロビール」の事例はどうか。
まず、いつ予算を減らしたのか、この書き方では分からない。「約190億円」がどの期間の「広告宣伝・販促費」なのかも不明だ。年間ベースの話だとは思うが、そこは明示すべきだ。
年間「約190億円」という水準が一定だと仮定すると「追跡型」の予算は57億円から19億円以下に減ったことになる。2020年度が57億円で21年度が19億円以下ということなのか。
そうかも知れないが、いくつかの仮定を置いているので断定はできない。いつの予算がいつと比べてどのぐらい減ったのか。肝となる話なのだから、きちんと説明してほしい。
事例が2つしかないのならば、なおさらだ。
夏枯れなのかもしれないが、朝刊1面トップの記事の完成度がこの低さでは辛い。
※今回取り上げた記事「追跡広告見直し機運~サッポロビール、予算7割減 個人情報使わぬ新技術も」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210729&ng=DGKKZO74274800Z20C21A7MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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