大きなことを言いたい気持ちは分かる。しかし説得力がないのはダメだ。その意味で9日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に菅野幹雄氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~『マルチの蘇生』最後の好機」という記事には落第点しか与えられない。
夕暮れ時の筑後川 |
当該部分を見ていこう。
【日経の記事】
フランス・モンテーニュ研究所の特別顧問、ドミニク・モイジ氏は「米国の復帰という事実を過小評価するリスクと、過大評価するリスクの2つがある」と言う。
バイデン氏の米国を中心に米欧同盟を強力に再建し、中国やロシアの攻撃的な振る舞いを押し返せれば、期待以上の国際協調が復活するというのが前者のシナリオだ。一方で世界への関与を弱め、内なる分断も抱える米国やバイデン氏が十分な成果を残せない後者の展開も起こりうる。24年の米大統領選挙で「米国優先」の共和党候補やトランプ氏自身が勝利すれば多国間協調は再起不能になる。
「脱トランプ」後に訪れたマルチ体制を蘇生する好機は、今を逃すと二度と来ないかもしれない。
流れを左右するリーダーがもう2人いる。1人はボリス・ジョンソン英首相だ。欧州連合(EU)離脱とコロナ禍に忙殺されたが、ワクチン投与の進展などで勢いを回復している。6月のG7サミット、11月の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)はともに英国が主催する。地球規模の課題に強い国際協調をまとめられれば、追い風になる。
菅義偉首相も重要な存在だ。ケント・カルダー氏は「日本がマルチ体制の新たなガバナンス(統治)づくりで役目を果たすべきだ」と語る。国連など既存機関の限界をにらみ、民間部門も交えた多国間協力を探るべきだという。
◎22世紀も見えてる?
「『脱トランプ』後に訪れたマルチ体制を蘇生する好機は、今を逃すと二度と来ないかもしれない」と菅野氏が考えるのは「24年の米大統領選挙で『米国優先』の共和党候補やトランプ氏自身が勝利すれば多国間協調は再起不能になる」からだ。
しかし、なぜ「再起不能になる」のかは教えてくれない。「『米国優先』の共和党候補やトランプ氏」が永遠に米国大統領になり続ける訳ではない。「米国優先」ではない大統領が生まれる可能性は当然にある。「24年の米大統領選挙」の結果は22世紀以降の米国の政策までも縛ってしまうと菅野氏は思い込んでいるのか。
見出しで「最後の好機」と打ち出したのだから「マルチ体制を蘇生する好機は、今を逃すと二度と来ないかもしれない」という部分は記事の肝のはずだ。なのに、なぜ「最後の好機」なのか、まともな説明は見当たらない。
百歩譲って「24年の米大統領選挙」で「トランプ氏」が勝利すると米国では永遠に「トランプ氏」的な大統領が続くとしよう。だからと言って「多国間協調は再起不能になる」とは限らない。例えば米国を除く全ての国が参加する自由貿易協定が発効したとしよう。この場合「マルチ体制を蘇生」できたと言えるのではないか。遠い将来まで見通せば、そうした可能性もゼロではないはずだ。
「ドナルド・トランプ氏がホワイトハウスを去って50日足らずで、多国間主義(マルチラテラリズム)が冬眠から目覚め、動き出した」と菅野氏は言うが「冬眠」と「蘇生」を分ける基準もよく分からない。
「バイデン米大統領は米国を温暖化対策の国際枠組み『パリ協定』や世界保健機関(WHO)に戻した」としても、「パリ協定」や「WHO」はそれまで瓦解していた訳ではない。米国が抜けると「多国間主義(マルチラテラリズム)」ではなくなるとの解釈なのか。
「マルチラテラリズム」とは「貿易などの国際問題を、当事者である二国間だけではなく、多国間で調整・処理すべきであるという考え方」(日本語大辞典)であり、米国が参加しない「マルチラテラリズム」も当然にある。
「世界がマルチ体制を蘇生する好機は何度でも訪れる。そもそもマルチ体制は21世紀に入って死んだことがない」というのが常識的な判断ではないか。
※今回取り上げた記事「Deep Insight~『マルチの蘇生』最後の好機」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210309&ng=DGKKZO69768140Y1A300C2TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。菅野幹雄氏への評価もDを据え置く。菅野氏については以下の投稿も参照してほしい。
「追加緩和ためらうな」?日経 菅野幹雄編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_20.html
「消費増税の再延期」日経 菅野幹雄編集委員の賛否は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_2.html
日経 菅野幹雄編集委員に欠けていて加藤出氏にあるもの
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_8.html
日経「トランプショック」 菅野幹雄編集委員の分析に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_11.html
英EU離脱は「孤立の選択」? 日経 菅野幹雄氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_30.html
「金融緩和やめられない」はずだが…日経 菅野幹雄氏の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_16.html
トランプ大統領に「論理矛盾」があると日経 菅野幹雄氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_24.html
日経 菅野幹雄氏「トランプ再選 直視のとき」の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_2.html
MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/mmt-deep-insight.html
「トランプ流の通商政策」最初の成果は日米?米韓? 日経 菅野幹雄氏の矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_27.html
新型コロナウイルスは「約100年ぶりのパンデミック」? 日経 菅野幹雄氏に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/100.html
「中間選挙が大事」は自明では?日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」に足りないものhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/deep-insight.html
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