毎日新聞世論調査室長兼論説委員の平田崇浩氏には「若者も自分と同じような考えに至るべきだ」との思いが強すぎる気がする。週刊エコノミスト3月9日号に平田氏が書いた「東奔政走~主体性なき若年層の保守化 底が抜けた政権のモラル」という記事の一部を見ていこう。
耳納連山 |
【エコノミストの記事】
2月調査の年代別の内閣支持率を見ると、30代以下(18~29歳45%▽30代45%)と40代以上(40代36%▽50代38%▽60代37%▽70代以上32%)の間にくっきりと断層が表れる。
注目すべきは、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が女性蔑視発言で辞任したことに対する評価だ。全体では「辞任は当然だ」が69%を占めたが、30代では62%、18~29歳では51%まで下がる。
30代以下は、なぜもっと怒らないのだろうか。少子高齢化問題を全く解決できず、子どもを産み育てやすい社会環境を次世代に残すこともできていない「シルバー民主主義」の恥部をさらけ出したのが森発言だ。あらゆる職場で女性が枢要なポジションを占め、自由に発言し行動するのが当たり前になっていない日本社会の現実から目を背けてはならない。
例えば、選択的夫婦別姓の導入にしても、夫婦同姓を当然のように受け入れてきた世代に政治を任せていては実現しない。若年層が奮起しなければ、この国の政治は変わらない。世代を挙げて保守化などしているときではないと思うのだが、どうにももどかしい。
◎「保守化」は誤り?
「世代を挙げて保守化などしているときではないと思うのだが、どうにももどかしい」というくだりに平田氏の考えがよく表れている。
「保守化していない上の世代」が正しくて「保守化した若者」が間違っているとの前提を感じる。「自分の考えが正しい」と信じることを否定はしないが、その視点で「若年層の保守化」を分析すると歪みが生じてしまう。
「森喜朗前会長」の「女性蔑視発言」に関して「30代以下は、なぜもっと怒らないのだろうか」と平田氏は問いかけている。本来ならば「40代以上はなぜこんなに怒るのか」との問いも同時に立てるべきだ。しかし「怒るのが当然。怒らないのはおかしい」との前提があるので、分析が偏ってしまう。
「怒らない」と言っても「18~29歳では51%」が「辞任は当然だ」と回答している。上の世代は発言に怒り、下の世代は怒っていないと二極化している訳ではない。
むしろ平田氏の怒り方の方が理解に苦しむ。「少子高齢化問題を全く解決できず、子どもを産み育てやすい社会環境を次世代に残すこともできていない『シルバー民主主義』の恥部をさらけ出したのが森発言だ」と言われても「そうですね」と返す気にはなれない。
「少子高齢化問題を全く解決でき」ないことと「森発言」がどう関係するのか謎だ。全国民から「女性蔑視」の意識が完全に消えれば「少子高齢化問題」は「解決」に向かうのか。
「子どもを産み育てやすい社会環境を次世代に残すこともできていない」との見方にも同意できない。もちろん完璧ではないが、「子どもを産み育てやすい社会環境」はかなり整っている。終戦直後のベビーブームの頃と今はどちらが「子どもを産み育てやすい社会環境」なのか、言うまでもない。
だからと言って、ベビーブームの時を上回る出生率を実現できる訳ではない。「子どもを産み育てやすい社会環境が整っていないから少子化が進行している」と平田氏は思い込んでいるのかもしれないが、問題はそんなに単純ではない。
「若年層の保守化」の理由については「今の世の中悪くないよね」という感覚が「若年層」の方に強いからだと個人的には見ている。「森発言」への反発もこれで説明できる。
「女性蔑視」の風潮を「若年層」はあまり感じていないのではないか。そのため、「森発言」に関しても「考えの古いおじいさんが困ったこと言っちゃったね」ぐらいの受け止め方が多くなるのだろう。
「『シルバー民主主義』の恥部をさらけ出したのが森発言だ」とまで言い切る平田氏のような考えは、中高年である自分から見ても大げさで強引な感じがする。
「選択的夫婦別姓」についても、平田氏は「導入=正しいこと」との前提を持っているようだが、そこは同意できない。国民の好みの問題だ。
「選択的夫婦別姓の導入にしても、夫婦同姓を当然のように受け入れてきた世代に政治を任せていては実現しない」とは思わないが、仮にそういうものだとしよう。ならば「若年層」に任せておけばいい。どうしても「選択的夫婦別姓」が必要だと感じれば「導入」に動くだろう。「夫婦同姓を当然のように受け入れてきた世代」は温かく見守ってあげればいいのではないか。
「世代を挙げて保守化などしているときではないと思うのだが、どうにももどかしい」と感じてしまうのは「自分と同じ価値観を若い世代にも持ってもらいたい」との願いがあるからだろう。分からなくもないが価値観の押し付けは控えたい。
※今回取り上げた記事「東奔政走~主体性なき若年層の保守化 底が抜けた政権のモラル」https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210309/se1/00m/020/041000c
※記事の評価はD(問題あり)
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