2021年3月15日月曜日

「米国の株高はいつまで続く」にゼロ回答の東洋経済 中村稔氏に考えてほしいこと

「記事で株価を予想しても意味がない」と個人的には思っている。なので週刊東洋経済3月20日の特集「波乱に負けない!上がる株」には元々あまり魅力を感じない。ただ、予想をするならば、逃げずにしっかり予想してほしい。その意味で、今回の特集で「本誌コラムニスト」の中村稔氏が書いた「バイデン、1.9兆ドル刺激策の是非~米国の株高はいつまで続く」という記事には落第点しか与えられない。

道の駅きよかわ

この記事には2つの柱がある。「1.9兆ドル刺激策の是非」と「米国の株高はいつまで続く」だ。前者から見ていこう。


【東洋経済の記事】

「米国は過去40年で最も深刻なインフレの初期段階に直面している」。そう警告するのが、クリントン政権で財務長官を務めたサマーズ氏だ。バイデン政権の1.9兆ドル(約200兆円)の追加経済対策が議会を通過する中、1人約15万円の現金給付を柱とした大型財政支出が需給ギャップを大幅に上回る過剰な需要とインフレを生み出すとみる。

金融市場でも、期待インフレ率の上昇とともに長期金利(10年物国債利回り)が急騰(右図)。2月下旬には一時、約1年ぶりに1.6%台に乗せた。平均配当利回りとほぼ同レベルへの急上昇を受け、米株式市場は一時急落するなど世界の市場を巻き込んで神経質な展開となっている。米金利上昇はドル高円安の要因ともなった。

中略)トランプ氏を破って政権に就いた民主党のバイデン大統領は、就任後すぐに1.9兆ドルの追加経済対策法案を推進。民主党が主導権を握った上下両院で可決の運びとなった。その結果、インフレ懸念から長期金利が上昇してきたのが現状だ。

その間、NYダウは昨年3月安値を底に3万ドルを超えるまで反騰したが、背景には株式市場にとって理想的な構図があった。すなわち「景気回復」と「金融緩和の長期化」が併存する環境だ。これで「ちょうどいい湯加減」の「ゴルディロックス相場」ともいわれる相場が続いてきた。

だが、景気回復と金融緩和の長期化は二律背反の関係ともいえ、景気回復が続けば、いずれ金融引き締めに転じるのが普通。理想的な構図がいつまでも続くわけではない。実際、インフレ懸念の高まりと長期金利の上昇がその構図に水を差してきた。問題は、インフレ懸念が現実のものとなって金融引き締めが早まるかどうかだ。


◎「1.9兆ドル刺激策の是非」はどこへ?

記事を最後まで読んでも「1.9兆ドル刺激策の是非」は明らかにならない。「大型財政支出が需給ギャップを大幅に上回る過剰な需要とインフレを生み出す」という「サマーズ氏」の見方を紹介したので「」に傾くのかと思えたが、「現状、専門家の間では、物価上昇率が昨年の反動で一時2%を上回っても、その後は年末にかけて再び落ち着くという見方が多い」とも述べており、中村氏の立ち位置はよく分からない。

そもそも「インフレ懸念が現実のもの」となる場合は「1.9兆ドル刺激策」を「」と見るかどうかも不明だ。

米国の株高はいつまで続く」についても見ておこう。


【東洋経済の記事】

FRBは平均インフレ目標を導入しており、2%を超えるインフレもある程度の期間は容認する見通し。市場では、FRBの利上げ開始は24年以降となり、それに先行する量的緩和の規模縮小(テーパリング)開始は来年初頭前後との見方が多い。そして株式市場では今後、実体経済が低迷する中で回復を先取りする相場から、景気回復が本格化する中で現実の企業収益の成長を織り込む相場へ移行するというシナリオが有力だ。

とはいえ、景気が想定以上に過熱し、インフレや金利上昇が行き過ぎるリスクはある。ワクチンが普及して人々の不安が薄れる中で追加的に現金が給付されれば、「貯蓄より消費」との気持ちが強くなるだろう。今年の実質成長率についてゴールドマンが約7%に予想を引き上げたほか、一部には10%に接近するという見方もある。米政権は環境インフラ投資などさらなる経済対策を急ぐ方針。金利急騰を消化できず、株価が一時急落する局面は今後も予想される

世界経済を牽引する米国は力強い回復が見込まれるが、同じく回復の鮮明な中国との対立激化を含めて今後もリスクが付きまとう。日本はグローバル経済の影響を受けやすいだけに、その経済動向からは目が離せない


◎「目が離せない」が結論では…

米国の株高はいつまで続く」との問いに対しては事実上のゼロ回答だ。「いつまで」には全く言及していない。「規模縮小(テーパリング)開始は来年初頭前後」と見ているようだが、それが「株高」終了のサインとは言っていない。

実体経済が低迷する中で回復を先取りする相場から、景気回復が本格化する中で現実の企業収益の成長を織り込む相場へ移行するというシナリオが有力だ」と書いているので、強気の予想を打ち出すのかと思えば「株価が一時急落する局面は今後も予想される」と逃げも打っている。

そして最後は「(米国の)経済動向からは目が離せない」で記事を締めてしまう。「米国株はこれから上がるかもしれないし下がるかもしれない。経済動向をしっかり見とかないとね」といったレベルの“予想”だ。今後、株高が続いても急落局面に入っても「外れない」作りにはなっている。故に意味がない。

当たり障りのないことしか書きたくないのなら「バイデン、1.9兆ドル刺激策の是非~米国の株高はいつまで続く」といった見出しは付けないことだ。代わりに「物価動向が焦点~米国株は上昇持続も急落もあり得る」といった見出しでどうか。

これなら「読む価値のない記事」だと伝わりやすい。見出しを維持したいのならば、もう少しきちんとした「予想」を打ち出すべきだ。別に「今年10月にバブル崩壊が起きて米国株高は終焉を迎える」といった予言者みたいな予想をしろとは言わない。だが、せめて強気か弱気かのスタンスは明確にしてほしい。

何のための「本誌コラムニスト」なのか。中村氏には改めて自問してほしい。


※今回取り上げた記事「バイデン、1.9兆ドル刺激策の是非~米国の株高はいつまで続く」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26426


※記事の評価はD(問題あり)。中村稔氏への評価はDで確定とする。中村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

米国は「リーマンショック時以来のゼロ金利政策」? 東洋経済 中村稔氏に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post_20.html

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