2021年2月4日木曜日

「金投資」に関する江守哲氏の週刊エコノミストでの解説に問題あり

 エモリファンドマネジメント代表取締役の江守哲氏を詳しく知っている訳ではないが、投資関連記事の書き手としては信用しない方がいい。週刊エコノミスト2月9日号の特集「今から始める投資信託」の中の「金~米インフレ率上昇を想定 金投資の『ラストチャンス』」という記事で、かなりいい加減なことを書いている。

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【エコノミストの記事】

金を保有する個人投資家は、基本的には10〜20年単位で保有するだろう。長期保有のメリットは、目先の調整局面などを気にせず、買い増すことができる点にある。株式投資でもそうだが、相場が下がったときに買わないと資産は増えづらい。定期的、積み立ての購入に加え、相場の下落局面でスポット購入を行えば、保有資産のコストを引き下げることができ、その後の相場の反転局面で資産を増やすことができる。急落局面での購入の判断は難しいので、「直近の高値から5%刻みに下がったときに定額で買い増す」などあらかじめ設定しておけば、迷うことなく買い増しができる。長期的には相場はいずれ戻ってくるため、この手法は効果的だ。


◎「相場はいずれ戻ってくる」?

ここで気になるのは「長期的には相場はいずれ戻ってくる」と断定している点だ。「金を保有する個人投資家は、基本的には10〜20年単位で保有する」かどうかも疑問だが「10〜20年単位」で見た時に「相場」が今の水準を下回っている可能性は十分あると考えるべきだろう。

続きを見ていく。

【エコノミストの記事】

金投資に関して、「今は高いので買わないほうがいいのでは?」という質問を受けることが多い。しかし、それ自体が相場をみながら投資していることに他ならない。高値で一気に買うとリスクがあるが、買うタイミングを分散し、購入資金を小分けにすれば、価格変動のリスクは分散できる。金は投資対象の主役ではなく、あくまで株式投資のリスクヘッジ先であり、インフレヘッジのツールと考え、資産のポートフォリオにおける割合は1割から最大で3割程度とすればよい。インフレが強まれば価値はむしろ現金に対して高まる。将来的なインフレが想定されるため、今のうちに金に少しでも投資しておくのも選択肢の一つだろう。


◎「株式投資のリスクヘッジ先」?

まず「買うタイミングを分散し、購入資金を小分けにすれば、価格変動のリスクは分散できる」という考えは間違っている。「」に投資対象を絞る限り「価格変動のリスクは分散でき」ない。

仮に「」が現在1グラム1000円だとしよう。100円、500円、800円の時にそれぞれ1グラムずつ買ったAさんは3グラムの「」を持っている。時価で3000円だ。

一方、Bさんは「金投資」を始めたばかりで買値は1グラム1000円。やはり3グラム持っていて時価はAさんと同じく3000円だ。

ここからの「価格変動のリスク」を考えよう。1年後に「」が半値になったとする。AさんもBさんも「」の時価は1500円になってしまう。「購入資金を小分け」にしたAさんは「価格変動のリスク」をBさんよりも「分散」できただろうか。

同じ量の「」を持っていれば、同じように将来の「価格変動のリスク」にさらされる。過去の買値は関係ない。そう認識しておくべきだ。

金は投資対象の主役ではなく、あくまで株式投資のリスクヘッジ先であり、インフレヘッジのツール」という解説も理解に苦しむ。「株式」が「インフレ」時に値下がりしやすいならば分かる。しかし「インフレ」は基本的には「株式」の値上がり要因だ(例外的な局面はある)。「株式投資」に関して「インフレヘッジ」はしなくていい。

記事の終盤も見ておく。


【エコノミストの記事】

金の投資タイミングについては、米国の消費者物価指数(CPI)の前年比が1・5%以下のときに金に投資すると、過去は2年後に約20%のリターンを得られたというデータがある。インフレ率が低いときに投資をしておくと、その後にインフレ率が上昇した際に金価格が上昇し、金投資でリターンを得ることができる。昨年12月の米CPIは1・4%。今後、米国のインフレ率が上昇する可能性が高いことを考えれば、筆者の基準では、今が今後数年における金投資のラストチャンスである可能性が高い。過去2回の金相場の上昇局面では、上昇期間が12年間に及んでいる。今回の金相場の上昇の起点は2015年12月となっている。27年ごろまでの上昇が見込めるのであれば、あと6年間は上昇相場が続く可能性があるといえる。


◎どこが「ラストチャンス」?

筆者の基準では、今が今後数年における金投資のラストチャンスである可能性が高い」と書いた直後に「あと6年間は上昇相場が続く可能性があるといえる」と記事を締めている。

6年間は上昇相場が続く」場合、「」でなくても「金投資」で利益が得られる。明らかに「ラストチャンス」ではない。

それに「相場をみながら投資」することを戒めていた江守氏が「相場をみながら投資」機会を考えているように見えるのも引っかかる。

結論としては「『金投資』に関して江守氏の意見を参考にするな」でいいだろう。


※今回取り上げた記事「金~米インフレ率上昇を想定 金投資の『ラストチャンス』

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210209/se1/00m/020/029000c


※記事の評価はD(問題あり)

2 件のコメント:

  1. Aさんの金の購入価格の合計は1400円なのだから、結果的に100円の利益が出ているのでは?(一方Bさんは1500円の損が出でいる。)

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  2. Aさんの金の購入価格の合計は1400円なのだから、結果的に100円の利益が出ているのでは?(一方Bさんは1500円の損が出でいる。)

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