2021年2月1日月曜日

「絶望を希望に変える雇用改革」はどこに? 日経 西條都夫上級論説委員「核心」

もの凄い球を投げると言うので見てみたら、ストライクにもならないレベルの低い球だったーー。1日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に西條都夫上級論説委員が書いた「核心~絶望を希望に変える雇用改革」という記事は、例えて言うとそんな内容だ。

巨瀬川のカモ

まず記事の中に「絶望を希望に変える」と取れる記述はない。「絶望を希望に変える雇用改革」の内容を教えてもらえると信じて読むと裏切られる。ただ「『何をすべきか』の処方箋を導きたい」とは書いている。なので、その中身を検証していこう。

コロナ禍という大変動を前にしても、労働力の需給逼迫感が基調としては今も継続している」というのが西條上級論説委員の基本認識だ。そして「陰の部分も大きい。その最たるものはパートやアルバイトなど非正規の女性労働者だ」と続けている。

パートなどのシフトが半分以下に減り、生活に重大な支障が出ているにもかかわらず、各種の支援策の網の目からこぼれ落ちている『女性の実質失業者』」が強いて言えば見出しの「絶望」に当たる部分だ。であれば「シフトが半分以下」になって困っている「非正規の女性労働者」が「希望」を持てる「処方箋」を西條上級論説委員は出せるはずだ。

そこを押さえた上で記事を見ていく。

【日経の記事】

対策の一つは支援措置の周知徹底だ。野村総研によると、追い詰められている多くの女性が休業手当や休業支援金について知らなかった。こうした制度を行政や企業が周知し、利用を促せば、困窮をかなりの程度緩和できよう。


◎異論はないが…

「使える制度はしっかり使いましょう」という話だ。異論はないが「雇用改革」ではない。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

さらに複数のパートなどを兼業する「掛け持ち型」の雇用シェアを普及させたい。求人の絶対数は減っているが、食品スーパーなどの雇用意欲はなお旺盛で、パート求人は20年12月段階で160万件以上ある。こうした仕事を複数掛け持ちすれば、家計防衛に威力を発揮するだろう。

採用支援のHRソリューションズ(東京・中央)の武井繁代表は「労働時間管理など各種規制の柔軟な運用で、企業が掛け持ちパートを雇いやすくする工夫を政府は講じてほしい」という。


◎仕事はある?

パート」の「掛け持ち」は今も当たり前にある。「食品スーパーなどの雇用意欲はなお旺盛」で「掛け持ち」によって問題を解決できるのならば「生活に重大な支障が出ている」のは、きちんと仕事探しをしていないからという話になる。

そうかもしれないが、だとすると問題は「非正規の女性労働者」の無知あるいは怠慢というところに行き着く。だとしたら「雇用改革」の必要はない。「仕事はちゃんとありますよ」と教えてあげるだけでいい。

労働時間管理など各種規制の柔軟な運用」という筋の悪そうな話も盛り込んでいるが、具体的な内容に触れていないので、ここでは論じない。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

雇用流動化の促進も重要だ。人員の過不足は業種ごとにまだら模様なので、余剰部門から不足部門へ労働力を円滑にシフトできれば、ショックを吸収しやすい。そこで注目したいのが在籍出向だ

航空産業はじめコロナ禍で業績の悪化した企業は量販店や通信会社などへの出向を増やしている。コロナ収束時に出向者が元に戻るのか、新職場に定着するのかは本人の選択だが、未知の仕事を経験するのは職業の選択肢を広げる点でも意義は大きい。


◎ついに脱線…

在籍出向」は「非正規の女性労働者」の問題から離れている。「雇用改革」の話でもない。既に広がっている動きだ。「これいいね!」と思うのは勝手だが、何の「処方箋」にもなっていない。

西條上級論説委員が出してきた最後(最初?)の「処方箋」を見ていこう。

【日経の記事】

最後に八田達夫・大阪大学名誉教授の提唱する雇用拡大のアイデアを紹介したい。雇用の年限を区切り、その間は正社員として雇用する「定期就業型」雇用契約の導入だ。年限も短期ではなく10年程度の長期を可能にすれば、スキルの蓄積もはかれる。

雇用主が予期せぬ事態で立ちゆかなくなる場合を想定し、企業の外側に解雇手当の積立金制度も設けてもよい。働き手は仮に契約の期限内に仕事がなくなっても、それに相応する解雇手当を受け取れる制度だ。「この仕組みが定着すれば、企業は終身雇用の縛りから解放され、新たな雇用を積極的につくるようになるだろう」と八田氏はいう。

気掛かりなのは日本の雇用政策が流動化ではなく今いる職場での雇用維持に軸足を置いていることだ。これではデジタル化はじめ経済環境の激変に対応できない。いま流行のジョブ型雇用も流動化の促進に寄与するはず。コロナ禍を奇貨として、雇用のモデルチェンジに踏み切るときだ。


◎「名ばかり正社員」が切り札?

おかしな話を最後に持ち出してきた。まず「非正規の女性労働者」の話は完全に消えてしまった。

ここで言う「雇用の年限を区切り、その間は正社員として雇用する『定期就業型』雇用契約」に何の意味があるのか。例えば「3年限定の正社員」ならば非正規雇用と大差ない。「10年程度の長期」であれば多少は意味があるかもしれないが「仮に契約の期限内に仕事がなくなっても、それに相応する解雇手当を受け取れる制度」とセットにするのならば「10年」の雇用が保証される訳でもない。実質的には非正規雇用だ。

この仕組みが定着すれば、企業は終身雇用の縛りから解放され」ると「八田達夫・大阪大学名誉教授」は考えているらしいが、現状でも「企業は終身雇用の縛り」から自らを「解放」できる。雇用を非正規に限ればいいだけだ。

定期就業型」は雇う側にとってはメリットがある。「連続5年働いた非正規労働者から申し出があれば無期雇用に転換しなければならない」というルールに縛られないからだ。

言ってみれば、いつでも解雇できる「名ばかり正社員」制度だ。これがあれば「ずっと非正規のまま正社員と同じ仕事を長期間やらせる」という手法が実質的に可能になる。

これによって「新たな雇用」が生まれないとは言わないが、今も非正規雇用を活用すれば「終身雇用の縛り」はないのだから、効果は限定的だろう。無期雇用の正社員を目指す人にとっては歓迎すべき話ではない。ましてや「絶望を希望に変える雇用改革」とは言い難い。

非正規の女性労働者」など困っている側に立っているように見せかけて、経営側にとっておいしい話を「絶望を希望に変える雇用改革」だと思い込ませようとする。そんな悪意を今回の記事には感じた。


※今回取り上げた記事「核心~絶望を希望に変える雇用改革」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210201&ng=DGKKZO68659030Z20C21A1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條上級論説委員については以下の投稿も参照してほしい。


春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html

「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_16.html

周知の「顔」では?日経 西條都夫上級論説委員「核心~GAFA、もう一つの顔」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/gafa.html

「強引」な比較をあえて選ぶ日経 西條都夫上級論説委員「核心」のご都合主義https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_21.html

1 件のコメント:

  1. これだけ厳しい論評にして、記事の評価が、Dというのは甘すぎる。筋道たった論説になっていないのであれば(私も同感であるので)、読むに値しないEランクでしかるべきでないか。

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