大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川) ※写真と本文は無関係です |
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【日経の記事】
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。3密回避という「新たな日常」に世界が苦慮するなか、混乱を最小限に抑えている国がある。旧ソ連のエストニアだ。
人口は日本の100分の1、面積は8分の1程度。そんな小国で初の感染者が確認されたのは2月27日だ。政府は3月12日に緊急事態を宣言し、5月17日まで屋外イベントや公演などを禁止した。
まず、医療現場はどうだったか。同国には「家庭医」という資格制度がある。全国民は家庭医を決め、登録する。病気になればふつう家庭医を訪れる。オンラインで相談や診察を受けるのも日常的だ。カルテ、処方箋、診療報酬明細書はほぼ電子化している。
コロナ禍でもそれは変わらない。同国では感染者は自宅療養が基本で、家庭医が必要と判断すれば設備が充実した病院に入院を指示する仕組みだ。同国の累計コロナ感染者数は8月1日現在、2千人強。人口比では日本より多いが6月以降、大きく増えておらず抑え込みに成功している。
補償対応も素早い。休業を命じられた企業には従業員の休業補償給付金が、売り上げが一定比率減った中小企業には一時金が、それぞれ支払われる。いずれも経営者がオンライン申請して5営業日以内に振り込まれる。前者については従業員の口座に直接だ。
もともと、行政サービスを受けるために役所に出向く人は少ない。婚姻届などを除く99%の手続きが電子化されているからだ。税金も98%がオンライン申告だ。
教育現場は3月16日から遠隔授業と家庭学習に切り替えられた。すべての児童は小学校に入学すればデジタル社会に適応した技能を学ぶ。教材はデジタル化しており、遠隔授業でも支障は少ない。
◎「最小限に抑え」てる?
まず「混乱を最小限に抑えている国がある。旧ソ連のエストニアだ」という前提が怪しい。「累計コロナ感染者数は8月1日現在、2千人強。人口比では日本より多い」のならば、それなりに「混乱」はありそうだ。「混乱を最小限に抑えている」のか疑問が残る。
「6月以降、大きく増えておらず抑え込みに成功している」とも書いているが、具体的な数値は記事中にない。「混乱を最小限に抑えている」と納得できるだけの材料は見当たらない。
「抑え込みに成功している」という前提を受け入れるとしても、それがITの力によるものかは疑問だ。「オンラインで相談や診察を受けるのも日常的だ。カルテ、処方箋、診療報酬明細書はほぼ電子化している」としても、それが「6月以降、(感染者が)大きく増えておらず抑え込みに成功している」要因なのかは不明だ。
坂井上級論説委員も「ITでコロナを抑え込んだ」と言明はしていない。ただ、そう示唆する作りにはなっている。
記事はこの後「インターネット自由度、医療デジタル度――。多くのランキングで世界トップ級のIT(情報技術)立国。その始まりは1991年8月、ソ連から独立宣言した時に遡る」と過去を振り返る記述が続く。そして「独立直後インフレ率が年1000%だった国がいまITでトップを走る。小国、隣国の脅威、歴史――。日本とは条件が異なるが、モデルの一つとなりうるのは確かだ」と結論付けて終わる。
「エストニア」は「いまITでトップを走る」 国かもしれない。だが「人口比では日本より多い」感染者を出しているとすれば、「IT」は感染拡大を抑え込む切り札にはならないと見る方が妥当ではないか。
坂井上級論説委員は自分の想定したストーリーにこだわり過ぎだと思えた。
※今回取り上げた記事「中外時評~新常態、エストニアの教訓」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200812&ng=DGKKZO62521720R10C20A8TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。坂井光上級論説委員への評価も暫定でDとする。
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