2020年8月15日土曜日

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点

終戦記念日に合わせて無理して作った事情を考慮しても、15日の日本経済新聞に秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「世界、迫る無秩序の影~きょう終戦75年、戦後民主主義の岐路に」という記事に及第点は与えられない。
大雨で道路が冠水した福岡県久留米市内
        ※写真と本文は無関係です

中身を見ながら具体的に問題点を指摘したい。

【日経の記事】

戦後、米国が中心となり、2つの国際システムを築いた。平和を支える国際連合と、経済の安定を担う国際通貨基金(IMF)・世界銀行だ。

ところが米国の国力が下がるのに連動するように、両体制の影響力は衰えている。著しいのは国連だ

2011年以降、内戦で死者が数十万人にふくらむシリア。この悲劇を前に国連の安全保障理事会は停戦をお膳立てするどころか、十分な人道支援もできていない。

シリアのアサド政権を支える中ロが決議案に反対し、ことごとく拒否権を発動していることが一因だ。同年以降、中ロが振るった拒否権は合わせて約25回にのぼる。

中ロがここまで国連を骨抜きにするのは戦後、米国が主導してきた秩序を壊してしまおうと決意しているからだ。国連機関を嫌い、関与を弱めるトランプ大統領の言動は、中ロには渡りに船だ。


◎昔は機能してた?

米国の国力が下がるのに連動するように、両体制の影響力は衰えている。著しいのは国連だ」と秋田氏は言う。では「米国の国力が下がる」前の冷戦期にはソ連も米国に逆らわず、「国際連合」がしっかり機能していたのか。ソ連が「拒否権」の行使を連発するような事態にはならなかったのか。秋田氏も知っているはずだが…。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

とりわけ気がかりなのは強大な経済力を使い、もう一つの国際システムであるIMF・世銀体制まで切り崩しにかかっている中国の行動だ。

中国は各国のインフラ建設などに融資している。重債務の途上国向け残高は4年間でほぼ倍増し、18年末までに1017億ドル(約10.7兆円)と世銀に匹敵するまでになった。世銀幹部は不安を深める。「中国の融資は基準が不透明だ。相手国との癒着や腐敗が広がる恐れがある


◎なぜ「切り崩し」と言える?

中国は各国のインフラ建設などに融資している」。規模は「世銀に匹敵するまでになった」。「融資は基準が不透明」で「相手国との癒着や腐敗が広がる恐れがある」としよう。だが、なぜ「IMF・世銀体制まで切り崩しにかかっている」と言えるのか謎だ。

日本も「各国のインフラ建設などに融資している」はずだが、それは「IMF・世銀体制」の「切り崩し」に当たらないのか。「基準が不透明」だと「切り崩し」で、基準が明確ならば「切り崩し」ではないのか。どうも、よく分からない。

以下のくだりにも似た問題を感じた。

【日経の記事】

このままなら、通商体制も中国色に染まりかねない。日本政府当局者によると中国は最近、環太平洋経済連携協定(TPP)への関心を内々、打診してきている。米国より先に交渉に入り、主導権をにぎる意図にちがいない



◎TPP参加だと「中国色に染まりかねない」?

TPP」に中国が参加すれば「通商体制も中国色に染まりかねない」と秋田氏は危惧する。「TPP」には元々、米国が入っていたので、その時は「米国色」に染まっていたということか。

TPP」に参加するぐらいで、「通商体制」の色彩がそんなに変わるものかとの疑問は湧く。

ついでに言うと「主導権をにぎる意図にちがいない」は「主導権を握る意図に違いない」としてほしかった。平仮名が無駄に多い。

最後に、以下のくだりにも注文を付けておきたい。

【日経の記事】

では、どうするか。当面、やるべきことは2つある。第1にいまの秩序を尊重し、国際ルールに従うよう、米国と友好国が中国により強く促していくことだ。日本、ドイツやフランスを含む欧州連合(EU)、英国、オーストラリアなどが対中政策を密に擦り合わせることが前提になる。

第2に米中が対立しても、せめて世界共通の課題では協力を保てる体制を整えることも必要だ。それには優先順位を明確にし、具体的な協力の目標を定めなければならない。いま最優先なのは当然、ワクチン開発などの新型コロナウイルス対策である。



◎日本はEU加盟国?

日本、ドイツやフランスを含む欧州連合(EU)」と書くと「日本」が「EU」加盟国に見える。工夫が足りない。

当面、やるべきことは2つある」という提言に、ほぼ意味がないのも気になる。結局、中国に「俺たちの言うこと聞いてよ」と呼びかけようという話だ。それで物事が良い方向に進むと期待しているのならば、楽観的過ぎる。

当面、やるべきことは2つある」と言うのなら、もう少し戦略的な対策を示してほしかった。


※今回取り上げた記事「世界、迫る無秩序の影~きょう終戦75年、戦後民主主義の岐路に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200815&ng=DGKKZO62672820U0A810C2MM8001


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

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